試合レポート

富山商vs日大鶴ヶ丘

2014.08.12

“超高校級”スライダーと好球必打の徹底で富山商が2回戦へ!

 選手権1日目は3戦とも勝利チームは1人の投手が投げ抜き、第2、3戦は完封で勝負が決まった。
この試合のハイライトは富山商日大鶴ヶ丘の左腕による投手戦。両校の四死球は日大鶴ヶ丘の1個だけ。コントロール、テンポともよく投げ合えば、当然バックも守りやすい。エラー0は両投手の好投があってこそである。

 日大鶴ヶ丘秋山翔(3年)は球速130キロ台中盤のストレートは大したことはないが、スライダーのキレと緩急の冴えに加え、全般のコントロールが見事だった。
さらに注目したのがテンポのよさ。捕手からボールを受け取ってから投げるまでの間合いがおおよそ5、6秒。このせわしなさに富山商各打者は翻弄された。

 一方の富山商森田駿哉(3年)はスピードで秋山を上回った。
この試合のストレートの最速は144キロ。これをコンスタントに投げず、±12キロほどの緩急をつけるところがただの本格派ではない。そして、勝負どころと見れば腕を振って140キロ台前半の速球を繰り出す。

 スライダーは縦・斜めの2つあり、斜め変化のときは腕をやや横振りにするが、縦変化のときはストレートと同様に腕をブンと振って、右打者なら内角低めにえぐり込み、左打者なら外に逃げる軌道でベースをよぎらせる。
こう書くと無敵だが、手も足も出させなかったのはスライダーだけ。

 投球フォームは素晴らしい。前肩の早い開きがなく、ボールの出所が見えづらいという得難い長所がある。
こういう投手はストレートで空振りを取れるはずだが、森田はそのストレートをよく打たれた。その原因の多くはステップ幅の狭さ。打者から見ると「1、2、3」のタイミングで待つことができた。もう半足広ければ1、2と3の間に「の」が生まれ、「1、2の3」の間合いで投げることができたが、ステップの狭さがそれを許さなかった。


 また投げるリズムの単調さもストレート攻略を容易にさせた。
走者の有無に関わらずセットポジションの体勢を取り、いずれも胸の前でボールをセットし、2秒以内で「腕→足」の順で動き出す。この流れが単調で、スライダーのキレもいいとなれば打者は当然、ストレートに的を絞ってくる。
2、3、5、8回には得点圏に走者を進め、森田を追い詰める。あと1本出ればという局面だが、それを許さなかったのは“超高校級”と形容してもいいスライダーのキレである。

 日大鶴ヶ丘は打者だけでなく、監督もこのスライダーに右往左往した。
3回のタイムはいずれも攻撃のときに使われ、それも塁上に走者を置いたカウント途中で伝令がベンチを飛び出した。「スライダーを捨てろ」とか「目線を上げろ(低めのスライダーは打つな)」という指示だったと思う。
それでも攻略できないところに森田のスライダーの凄さがあったと言っていい。

 0対0の均衡が破れたのは5回裏だ。
富山商は先頭の5番加藤大輔(3年)が三塁打を放つと、1死後、7番岩瀬大輝(2年)が前進守備の一、二塁間を渋くゴロで抜いて二塁走者を迎え入れる。

 6回には2死走者なしから3連打で追加点を取るのだが、このときの積極的なバッティングが目を引いた。
3番坂本潤一朗(3年)は初球のスライダーを左前打、4番轡田拓馬(3年)は2ボール2ストライクから左前打、5番加藤は初球のカーブを左前という具合で、轡田にしても見逃しは1球もなく、ストライクコースはすべて振っている。この好球必打の徹底で1点をもぎ取るシーンは胸に迫った。

 結果だけ見れば2対0のロースコアで、安打も両校合わせて14本しか出ていないが、ベンチの腹の探り合い、打者の投手攻略に対する集中力、それに対抗して勝負球を模索するバッテリーなど見どころは多く、1時間40分はあっという間に過ぎた。

(文:小関 順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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