Column

履正社高等学校(大阪)

2011.10.24

履正社高等学校

第46回 野球部訪問 履正社高等学校2011年10月24日

【選抜2011ベスト4を記念したモニュメント】

 昨季のパ・リーグ本塁打王・T-岡田(オリックス)が高校時代に語った言葉が、今でも忘れられない。
「ナニワのゴジラ」と騒がれた履正社高時代、ホームランを打つ秘訣を問うと、彼はこう答えたのだ。

「左手の押し込みを覚えてから打球が飛ぶようになりました。それまでは、意識してなかったんですけど、後ろの手の使い方を教わってから変わりました」

 バッティングを高めるために、「後ろ手」にこだわっているチームがある。当時の彼の言葉は、疎かになりながら、実はバッティングにとって重要な要素の一つを伝えるものだった。

 彼らのバッティングには何かあるのかもしれない――。

 この5年間で4度甲子園に出場し、府大会レベルでも10度のベスト4進出(大阪桐蔭と並んで1位)がある、履正社の打のルーツを探ってみたくなった。

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【目次】
1.監督・岡田龍生の思い
2.トップの位置と方向性がポイント
3.後ろ手の使い方を伝授!

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【目次】
1.監督・岡田龍生の思い
2.トップの位置と方向性がポイント
3.後ろ手の使い方を伝授!

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監督・岡田龍生の思い

“スポーツに特化した学校ではなかったんですね”

 1922年に創部、今となってはPL学園大阪桐蔭と並び称される履正社だが、その知名度ほどの安住の道を歩んできたチームではない。1983年から履正社と改称してから4年後に、チームへとやってきた現監督の岡田龍生氏は回想する。

「野球部の歴史は古かったんですけど、僕がここへ来る時までに、3年間、同じ監督さんが続けた人がいなかったんです。僕が来る時も、半年間、監督が不在と言うくらいでした。部員も少なくて、他競技をやっていた子が3人いるというのが僕が就任1年目のチーム。今も、うちは特待生を取っていないことからも分かりますように、スポーツに特化した学校ではなかったんですね。」

「『履正社』という名前に変わったのも、福島商業では生徒も集まらんから、進学校へ切り替えるという時だったんで、スポーツ推薦はありますけど、ウチが甲子園に出るようなチームになるとは、当時では考えられんかったと思います」
 

 今となってはJR茨木駅から20分ほどのところに専用グラウンドを持つが、以前までは他クラブと共用と言う厳しい環境下でチームを作るしかなかったのである。

「グラウンドが思うように使えませんでした。狭い上に、全面を使えるのが週2回、内野だけが1回、使えない日が2回、土日は、基本的に15時半からで日曜日は昼から。サッカー、ラグビー、軟式野球部など色々あったんで、僕がくる以前のルールのままでずっとやっていました」

 そうなってくると、おのずと練習は守備・走塁・バントに重きを置くようになる。監督自身が東洋大姫路出身と言うこともあって、チーム作りは守備に重きを置くことが多かった。

「守備を重視するというよりも、打つだけの練習をしていても勝たれへんなという想いがあったので、守備・走塁・バント、この3つを確率の高いものにしてきちんとやろうとしていましたね。指導者を続けていけばいくほど、結局、高校野球で負ける時っていうのは、エラーが絡んだり、四球が絡んだ時なんですよね。高校の時に、守備をうるさく言われましたけど、トーナメント、高校野球を勝つということに関しては、必要だったんやなって思いました」

 その成果が表れたのが、97年夏の甲子園初出場である。大阪の夏の代表としては珍しい小技を駆使しての悲願の出場だった。「バントの履正社」と呼ばれたのは、そういう環境が作用していたからである。

「守備・バント・走塁でしたね。選手の能力が低というのが大前提にありました。打っても外野のネットにも当たらんようなチームだったので、ランナーを送ったり、奇抜な作戦と言うか、バントで送って相手のミスを待つみたいな野球をしていました。ランナーが進んでいけば、ホームに近くなるわけですから、ミスでも起きたら点が入る。まさに、他力本願的な野球でしたよね。自分たちに力がないから、そういう野球をしていた」

 それが、8年ほど前から専用グラウンドを持ち、チームとして年輪が出始めると、野球のスタイルも積み上がってきたのである。


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【目次】
1.監督・岡田龍生の思い
2.トップの位置と方向性がポイント
3.後ろ手の使い方を伝授!

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トップの位置と方向性がポイント

“インサイドから後ろ手を押し込まないと、力負けする”

「練習の一番最初にやるのはノックからですし、打線は水ものというのは変わらず思っています。ただ、指導していくうちに、やっぱり、打たな勝たれへんなと。バッティングだけやってれば良いという考えは持っていないですけど、グラウンドも使えるようになった分、バッティングに時間を割くことができるようになったのはあると思います」

 その成果は茨木のグラウンドに来てから現在まで4度の甲子園出場が如実に表していると言えるだろう。今も、守備やバントに岡田監督の要求は細かいが、以前とは違う打撃力が積み重なった履正社は、新しい時を迎えているのである。
 

 岡田監督がバッティングを見る上で、ポイントに挙げる3つの要素があるという。

「トップの位置、方向性、後ろ手の押し込みです。言えばね、今の子ってね、ピッチングマシンで打ってる弊害で、ピッチャーとバッターは直線で対戦しているはずなのに、ピッチャーがショートの位置にあるような打ち方をしているんですよね。昔からセンター返しが基本っていうんですけど、方向性を投手の方に向けていくと率が高くなってくる。センター方向に強い打球を打って行くためには後ろ手の押し込む力も必要になってくる。
バッティングは前の手でリードしなくちゃいけないっていいますけど、インサイドから後ろ手を押し込まないと、力負けするし、打球は飛ばないんです。」

「プロに行った選手たちがそうなんですけど、彼らが1、2年生のころ、土井健大(巨人)だと左方向、T-岡田だと右方向、山田(ヤクルト)でも左方向の打球が多かったんですけど、3年生になってくると、逆方向にホームランを打てるようになってくる。そこが僕の中では成長の目安にしているんです。それが出来て、プロに行けるのかな、と。トップの位置、それにつながってくる下半身の割れ、方向性、後ろの手の押し。これは言いますね」。

“構えは100人いたら、100人違っていてもいい”

 さらに、掘り下げてみよう。

 まず、トップの位置は一定であるべきという岡田監督の持論はどうなのか。

「構えは100人いたら、100人違っていてもいいと思います。でも、トップの位置は一緒だと選手に言っているんですね。トップの位置というのは、『いつでもいらっしゃい、いつでもバットを出せますよ』って状態のこと。ウチは準備のことをよくいうのですが、野球は準備・予約のできるスポーツ。トップを作るというのは準備するということなんです。いつでも打てますよっていう準備の段階なので、トップをいかに作るかは重要なことではないでしょうか」

 トップを作れば、当然、踏み出す前足との距離感も重要である。トップを作ったとしても、体重移動と同時に、距離が縮まると突っ込むし、空いてしまうと後ろ残りになる。トップを作るのと「割れ」は相関している。

「グリップの位置と前足との距離をよく言いますね。グリップの位置っていうのは、一番肩に力が入らない、傘を指すくらいの位置に来るのがベストで、ステップして見逃した時に、距離が取れているかどうかが重要になってきます。悪い例は、ステップした時に、グリップも一緒に出てくること。これはアカンと。足は出ていくけど、グリップを下げるんでもなく、置いていてもいいから、この距離がしっかり取れるのが理想やということです」

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【目次】
1.監督・岡田龍生の思い
2.トップの位置と方向性がポイント
3.後ろ手の使い方を伝授!

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後ろ手の使い方を伝授!

“水平チョップ、へその前にひじがくる”

 次に重要になってくるのが、今回の一番のテーマ、「後ろ手」の使い方である。

 長距離砲の多くは、後ろ手の使いが上手な選手が多い。プロ野球の歴代ホームランバッターに、右投げ右打ちや左投げ左打ちが多いのは後ろ手の力が飛距離に一役買っているからである(もちろん、それだけではないが)。ただ、言葉にするのは簡単だが、後ろ手をどのように意識するかを、徹底して指導するチームは非常に少ない。T-岡田ですら「最初は、後ろの手を使うという意識がなかった」と高校時代に話していたほどである。

 岡田監督は、後ろ手の動きについて、ポイントをこう語る。

「後ろ手の肘(ひじ)がへその前に入ってこない子が多い。脇のところで止まってしまうんです。そうなるとバットを振れないから、身体を回そうとする。それで、振り遅れるんです。逆に、肘が自然と入ってくるとバットも自然と出してこれるし、インパクトの瞬間に力が伝わりやすいんです。バッティングの指導で『開くな』っていうのを良く聞きますが、実際、バッティングは開かないと打てません。身体を回転して打つわけですからね。そうではなく、開くのが早いかどうかなんですね。開くのが早いからバットが遠回りするんであって、開いてはいけないのではないんです。開きだすのは、押し手の肘がへその前に入ってこないから、止まってしまう。そして、(身体を)回そうとするんです」。

“肘が入ってきていると後ろ手でボールを捉えられる”

 実際、肘がへその前に入ってくるのと、入ってこないのとでは、力の伝わり方も違う。(写真参照)。肘が入ってこないと力を伝えられないのだ。それを伝えようとするには、身体を回さなければいけなくなる。

 その肘の使い方は「空手チョップが理想的」と、岡田監督はいう。練習では片手ずつのティーを空手チョップをするようなイメージで振り込んで、形を覚える。

「肘が入ってきていると後ろ手でボールを捉えられるのですが、その感覚をつかむことができたら、ほっといても打球が違ってきたり、飛距離がでてきます。」

「そこに取り組むかなのですが、中学時代に、力だけで打ってきた選手は、壁にぶち当たって取り組むようになりますね。土井なんかが、ドアースイングでそういうバッターでしたね。ただ、肘を使うという指導は、一つ間違えると、肘を入れよう入れようとして、肘が下がってしまう時があります。肘を使わないといけないから、下げようとするんです。肘や肩が下がるということはバットが下がってくるわけですから、悪いことはどんどん悪いことを生みだしてしまうので、この指導で一番注意しないといけないポイントだと思います」。

 1、2年生までは引っ張ることしか出来なかった打者が3年になる頃には逆方向へのホームランが打てるようになる。

 岡田監督は「T-岡田はもともと逆方向に打てないわけではなかった」というが、彼自身が履正社高で押し込みの大切さを学んで飛距離が伸びたと話しているのだから、彼の技術向上に幾分(いくぶん)か、役立っている実感があったのだろう。

 逆方向へ強い打球を打てることほど怖い打者はいない。ただ、その為には、「後ろ手の使い方」。打撃力向上のスキルアップに提案したい、一つのテーマである。

(文=氏原英明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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