試合レポート

香川西vs三島

2011.05.05

香川西vs三島 | 高校野球ドットコム

仁野智貴(三島)

朋友が引き出した「エースのポテンシャル」

鈴木一宏監督も「5回3失点で抑えてくれとはいったが、まさかあそこまでは・・・」と話した先発・仁野智貴(3年)の7回無死まで2失点の好投を始め、あらん限りの力を振り絞った三島と「気持ち」で渡り合い、サヨナラで秋に続き春は初となる四国大会決勝進出を決めた香川西
ところが、岩上昌由監督は何とも冴えない顔をして報道陣の前に立った。

「実は矢野(航平・3年)には2ボール0ストライクからスクイズのサインを出していたんですが、彼が見逃しまして・・・」。

なんと1死満塁から、9番・矢野が前進守備の二遊間を抜いた劇的なサヨナラヒットの要因は「サイン見落とし」だったのだというのだ。その後も「センバツでは力を出し切れなかったので、4月は力を出し切ることをテーマにして練習に取り組んできたのに、今日は『力を出し切った三島。力を出し切れなった香川西』になってしまった」と、出てくるのは反省の弁ばかり。

1対15で大敗した秋のリベンジ戦となる明徳義塾との決勝戦の話になっても、「この4月の練習試合でも同じような点差で負けているし、思いっきり胸を借りて勉強できれば」と、最後まで威勢のいい意気込みは聞かれなかった。


香川西vs三島 | 高校野球ドットコム

自己最速144キロを計時した宇都宮(香川西)

そんな岩上監督が唯一格好を崩したのは投手陣の話。特に6回途中から4回1失点の好リリーフを果たした宇都宮健太(3年)については、「ランナーを背負ってのバランスに課題はあるが、ボールも切れていたし、ゆるいカーブも有効に使っていた」と合格点を与えた。

その宇都宮にはこの試合、特に期するものがあった。今大会はエースナンバーを岡田孝(3年)奪われ、「今まで見えなかったところが見えるようになった」主将就任後初となる公式戦マウンド。センバツ前に一度は試みながら、日本文理戦(新潟)では全く体現できなかった「変化球で『かわす』」から「ストレートで打ち取る」スタイルへの再挑戦を体現する上でも、「空気を変えて自分たちに流れを持ってくる」主将らしさ、そしてエースらしさを示す上でも、このマウンドは結果と内容が求められるものだったからである。

そんな彼にさらなるアドレナリンを与えたのは、対戦相手・三島の選手たち。中学時代は6番・藤原茂(3年)、大林頸太(3年)と同じく愛媛県・川之江ボーイズクラブで野球に勤しんだ彼だが、奥定宏章(3年)、泰泉寺大地(3年)のバッテリーは実は当時のチームメイト。その他の選手たちもほとんどが勝手知ったる仲である。

当人は「いや、特に意識はしていませんでした」とかわしたが、6回に先制タイムリーを放った泰泉寺に、「中学時代からよかったが、高校になってスライダーのキレがすごくなった。タイムリーも真ん中だったのに詰まらされたし、2打席目もインコースを狙っていたのに詰まらされた」と言わしめた直球は、彼を中飛に打ち取ったボールで144キロの自己最速を計時。
いつもは試合中にほとんど見せないガッツボーズを6回に小さく見せたことや、1対2の7回裏・初球を迷わず振りぬき同点タイムリーを放った積極性を見れば、彼らを強く意識していることは明らかであった。

それでも試合後は「もう少しフォームを作れば内野フライに出来たと思う」と先制タイムリーを喫した場面を悔しがり、あくまで上を目指す姿勢を崩さなかった宇都宮。下馬評は圧倒的明徳義塾有利の決勝戦であるが、最終的には朋友にエースのポテンシャルを引き出された新キャプテンの投球が、初の四国王者を掴み取る答えとなるはずだ。

(文=寺下友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.28

【鹿児島NHK選抜大会】川内商工が2試合連続逆転サヨナラ勝ち!雨のため2試合が継続試合

2024.05.28

【大分】佐伯鶴城は4戦3勝、杵築は4戦で1勝<強化試合>

2024.05.28

【鹿児島NHK選抜大会】錦江湾が1点差勝利!出水工の追い上げ、あと1点及ばず

2024.05.28

【鹿児島】鹿児島玉龍と樟南が8強へ<NHK旗>

2024.05.28

春の福岡地区を制した沖学園(福岡)、勝利のカギは異例の「決勝直前沖縄合宿」だった

2024.05.25

【関東】白鷗大足利が初、逆転サヨナラの常総学院は15年ぶり決勝<春季地区大会>

2024.05.25

【熊本】九州学院、熊本工が決勝へ<NHK旗>

2024.05.25

首都2部優勝の武蔵大の新入生に浦和学院の大型左腕、左の強打者、昌平の主軸打者など埼玉の強豪校の逸材が入部!

2024.05.25

【岩手】盛岡大附がサヨナラ、花巻東がコールドで決勝進出、東北大会出場へ<春季大会>

2024.05.26

【近畿大会注目チーム紹介】実力派監督就任で進化した奈良の名門・天理。超高校級の逸材3人を擁し、緻密な攻守で全国クラスのチームに!

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【岩手】盛岡中央、釜石、水沢が初戦を突破<春季地区予選>

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商