「成功するノート」 弥栄高校
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分厚く重ねられた弥栄高校のノート
「成功する人で日誌をつけていない人っていないらしいですよ。
和民の社長がつけているノートも細かい字でいっぱいになっているらしいですね」
会社の経営の話を部活動に生かすなど、その発想が学校の外にも広がる加賀谷先生らしい言葉だ。
成功する、それを高校野球で言えば勝つということになる。
勝つためにはどうすればいいのか、それを突き詰めていくのが弥栄高校の野球ノートだ。それと同時に「一生日誌を続けられる大人になって欲しい」という、先生の想いもあった。
大切なものは一番初めに
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必ずめくる場所には大切なことが書いてある。
いつも目にする場所、最初のページにまずこだわりがある。「表紙は毎日必ずめくる場所。だからそこにやる気を上げるものを取り入れています」そのための一番大切なものが3つ書かれている。
「最終目標」
「心の支え」
「ライバル」
キャプテンの緒方くんのノートには「最終目標」に甲子園、「心の支え」にお母さん、「ライバル」に自分と書いてある。その言葉に写真と物語をつけるまでが、ノートの最初の作業になる。
言葉だけでなく、そこに写真や物語を付けることで感情を盛り上げる工夫がされている。この感情の盛り上がりが「やる気」に繋がっていく。
このページにこだわりがあるため、2冊目からのノートからは1冊目のノートに重ねていく。新チームになってから年末までと、年始から夏が終わるまでの半年ずつノートを一つにまとめるので、最終的に8冊ほど重なったノートは月刊誌のように分厚くなる。これを持ち歩くのは先生も一苦労で、ノートがいっぱいになったプラスティックの買い物カゴがいつも先生の傍らにある。
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副部長の高橋君のノートの表紙。
「表紙は派手に!が決まりなんです」と話してくれた部長の緒方君はキャプテンに決まったときに「No.1キャプテン」と金色で書き足した。副部長の高橋君のノートの表紙にはお母さん作のイラストが描かれている。それぞれに思い思いの言葉と、それを彩る賑やかな飾り付けで、個性様々な選手たちを感じさせてくれるノートの表紙が出来上がっている。
この他に「部訓」や「野球道」など、皆で共通に認識するべきものが貼り付けられてノートの核となる部分が出来上がる。弥栄高校の部員達は、ノートをめくるたびにこのページを目にすることになる。
弥栄高校のノートを見ると「プラス思考」を大切にしている様子が感じられる。それはノートがメンタルトレーニングの役割を担っているからだ。そのためノートのいたるところにメンタルトレーナーからの指導が生きている。良い結果につなげるための考え方を身につけるためのノートとして作られている。
毎日のノート
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ノートの内容
毎日のノートには書く項目の決まりごとがある。
1・野球の夢を書く
2・朝食
3・今日の目標を書く
4・感謝を書く
5・スケジュールを書く
6・反省から改善する点を考え、明日の目標を設定する
7・一日を五段階評価する
8・プラスの気持ちになる言葉を書く
1・夢を書く
表紙にもあったが、気持ちを盛り上げてやる気を出すためのもの。「神奈川の決勝の舞台でヒットを打つ!」など夢の舞台を具体的にイメージした夢も書かれている。
2・朝食
朝食にご飯2杯かパン4枚というノルマがあり、それを確認するための項目。身体作りにもチームをあげて取り組む弥栄は部員の身長、体重の記録を皆で共有したり、練習の合間に「ご飯の時間」がある。
3・1日の目標を書く
「心・技・体」のそれぞれの項目で一日の目標を設定する。心は精神面や生活面について書く。技術は打撃や守備について、これは投手なら「投」としてピッチングにして目標を書く。「体」は筋トレなどの目標になっている。目標を設定するときに大切なことは具体的に数字を設定すること。ストレッチを「30分以上」やる、素振りを「100本」以上振るなど、練習に生きるようにする。
4・感謝を書く
「親・指導者・仲間・環境・自分」のそれぞれに対して感謝をする。
5・タイムテーブルを書く
練習が終わってからどのようなことに時間をつかったのかを書く。それを書くことで学校と部活で忙しいと思っている毎日の中のすきまの時間を見つけて活用することができる。
6・反省から改善する点を考え、明日の目標を設定する。
目標が達成できたか、何が足りなかったのかを考えながら一日を整理する。そして明日の目標の設定に生かす。
7・一日を五段階評価する
目標の「心・技・体」に加えて「言葉(プラスの言葉を口にできたか)・動作(プラスの行動ができたか)・目的(何のためにと目的を意識できたか)・出会い(人との良いコミュニケーションができたか)・感謝」の各項目について自分で評価をする。
8・プラスの気持ちになる言葉を書く
「超・プラス思考」や「本気で日本一を目指せ」、「全員野球」「全球集中」「全力生活」など何か一言、気持ちが元気になるような言葉を書く。
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ノートの内容
項目が細かく分かれているが、書き方は生徒に任せてある。
文章でしっかり書く部員もいれば、箇条書きでまとめる部員もいる。タイムテーブルを細かく書いて時間の使い方を反省する部員もいれば、どれだけ人の喜ぶことができたかを「他喜力」として書く部員もいる。形式はあるが、ある程度の許容の範囲を設けている。そうすることで生徒がどのようなことを考えて過ごしているか、どのようなことを大切にしているのかなど知ることができる。
書く項目が多くて大変そうだと感じるかもしれない。
思わず「毎日を書くのは大変ではないのですか」と先生に訪ねると「同じことを書くことも良しとしています。そうやって毎日思うこと、続けることが大切なんです。」と話してくれた。
毎日書くことで、変化は必ずある。生徒が何かに気づいた瞬間にノートがぐっと成長するのだ。それは突然ノートに表れたりする。
ある日のノートから「気づき」を大切にしようと思い立ち、気づいたことを何でも書くようになった部員がいた。しばらくしてから「自転車が倒れていた」と書かれたところに、「どうした?」と先生が一言書き加えると、「直しました!」と書かれたやりとりがあった。次からのノートには気づいた後、どうしたかまでかかれるようになった。1ページのやり取りが変化に繋がっていく。
ノートは毎日の繰り返しに加えて、それをまとめる週の目標と反省がある。さらに月に一度挑戦することを書くことで、方向性を定める。「プラス思考度チェック」というプリントで1ヶ月を振り返るなど、やはりプラス思考というのはとても大切にされている。
試合があった日には「ピグマリオンシート」というものを使って試合のチェックをする。まず最初に良かった点を考えつく限りできるだけ多く書き出し、その後に今回の試合の問題点を書く。この後に次の試合で成功するための対策と強い決意を書く。この順番が大事だそうだ。これに加えて加賀谷先生が作ったチェック項目で試合を振り返る。この作業を通して試合で何ができて何ができなかったのかを確認し、改善する点を考えていく。
この他には週に一度、感動したエピソードを書くこともしている。弥栄高校のスローガンに「声・感動・ひたむき」とあるためだ。やる気同様、心の動きをとても大切にしている。
また、野球について書かれたプリントを配ったりセミナーに参加したりしたときもノートにまとめる。良いことが書いてあったりすると、ホワイトボードに書き出したりコピーして配ったりするなど皆で共有している。
ノートへの想い
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カゴいっぱいのノートを持ち歩く加賀谷先生
最初は反省だけ書いていたという野球ノート。そこに朝食を食べてきたかを確認するために朝食の項目を付け足したり、時間の使い方を考えてもらうためにタイムテーブルを付け足したりしているうちに今の形になった。最初にあげた「最終目標・心の支え・ライバル」のページも夏の大会前には言葉と写真だけで物語は書かれていなかった。より気持ちを盛り上げるべく、最近になって物語も加えたそうだ。ノートはまだまだ進化を続けている。
「一生日誌を続けられる大人になって欲しい」と加賀谷先生は話す。ノートを書く作業とは目標に向かって正しい努力をするために、正しい考え方を養うためのもの。それは高校生活での野球が終わった後にも役立つことだ。実際にノートに取り組んだ卒業生が就職して「仕事への取り組み方が、高校時代にノートでやってきたこととまったく同じだった」と話していたそうだ。今はまだ高校野球のノートでも、いつかそれぞれの道で役に立つ日がくる。
野球部の目標として「自立型人間になる」というものがある。社会でも通用する自立した社会人になって欲しいという加賀谷先生の想いが「成功するノート」を作っている。
球児のノート
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緒方君と高橋君
1年生の緒方君は中学時代に野球ノートを書いたことはなく、高校で先輩のノートをみて驚き、同じように書けるのかと心配もあった。
そんな1年生のノートをまずは2年生が面倒を見る。「先輩からのコメントが楽しみでした」との言葉通り、まずは2年生がしっかりとノートを見てくれる。3年生が引退するとコーチの嘉藤先生が1年生のノートを見るようになり、今まで嘉藤先生が見ていた2年生のノートを加賀谷先生が見ることになる。上級生のノートは監督が、下級生のノートはコーチの嘉藤先生が見る。その持ち上がる前に1年生の指導をすることで、教える側の2年生が客観的にノートを考える経験ができる仕組みだ。
ノートを始めて半年、「考えて野球をするようになった」と感じているそうだ。
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緒方君のノートの表紙にはNo.1キャプテンの文字。
「勉強よりも頑張ってます」と野球ノートに取り組むキャプテンの緒方君。ノートを付けるようになって文章力がつき、字がきれいになったという。先生に見てもらうノートだからきれいに書くこと、また気分を変えるために使うペンの色を変えるなどがノートでこだわっている部分だそうだ。野球については自己分析ができるようになったという。「毎日ノートをつけているので、ノートを振り返ることでスランプに入ったときは良かった日のノートを見てこういう日が良かったってわかるし、悪い日のノートを見れば何が悪かったのかが分かります」とノートをつけることが客観的に自分を見ることに繋がっている。また、頑張れなかったときに自分の言葉だからこそ思い出せる想いがある。
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ノートの在り方を話しあった日の高橋君のノート。
副キャプテンの高橋君は目標の「心」の部分に副キャプテンとしてどんなことができたかを書いている。見せてもらうと「1年生とペアの練習を多くする!」や「3回以上アドバイスをする!」と、とても細やかにチームのことを考えている様子が伺えた。また感謝の項目にはたくさんの人への感謝がつづられていた。「最初は決まりにある5人だけでした。でも弥栄高校で野球をやっていくうちにいろいろなことに気づくようになって、感謝する人がたくさん増えました」と、成長がノートに見える。これは高橋君に限らず部員のほとんどがたくさんの感謝を毎日書いている。
これだけしっかりと取り組んでいるように見えるが、夏休みが明けた頃「雑になっていないか」との加賀谷先生から指摘があったという。そこでチームでミーティングをして野球ノートのあり方を話し合ったそうだ。それが以下の内容になる。
『野球ノートってなんであるの?その答えは“勝つため”である!なぜその答えにいきつくのか……、“勝つ!”そのためには上手くなることが第一である。そして“上手くなる”ためにはまず自分を知らなくてはならない。自分がどのくらいの技量なのかは、試合で出来ることはできるが、それだけでは自分をすべて知ったことにはならない。私生活や心の動き、食のすべてを知ったからこそ自分の知らない自分を知ることができる!そしてそれを逆転の発想で、自分を知る→長所・短所が成長させられる→上手くなれる→勝つ!となる』
これが成功するため、勝つため、そして自分のために取り組む弥栄高校のノートだ。