試合レポート

浦和学院vs東海大相模

2010.11.06

浦和学院vs東海大相模 | 高校野球ドットコム

浦和学院 優勝を決めて抱き合う

勝負!

 9回裏2死満塁、打席には浦和学院の5番日高史也(2年)。
マウンドの東海大相模2番手・笠間圭(1年)は2ストライクを取るが、そこから3球続けてボールでフルカウントになった。
日高の読みは「真っすぐ一本」。
6球目、その直球が来ると、日高はややボール気味の球ながら手を出した。
打球はセンターへ抜けて、三塁走者の笹川晃平(1年)が生還。日高のもとで抱き合う選手の中には涙を流す選手も多かった。
浦和学院が15年ぶり2回目の関東王者に輝いた。

森士監督(今大会は部長登録)は「(試合の)内容的にはあまりほめられたものではありませんが、勝てたということは大きな収穫。次に繋げていきたい」と話した。
両チーム合わせて失策が5つ。
森監督が語ったように、内容的にはまだまだという面もあったが、両チームが勝ちにこだわった見事な決勝戦だったと言える。

先発には東海大相模・近藤正崇(2年)、浦和学院・佐藤拓也(1年)の両エースが立った。

近藤は4日連続、佐藤は3日連続のマウンド。

東海大相模の門馬敬治監督は「勝負ですから背番号1(エース)が先発のマウンドに立つべき」と前日から持論を話している。
その言葉通りとなった。

ただやはり疲れは否めず、球は両投手とも走らない。その中でバッテリーがどれだけ考えたピッチングをするかが大きなポイントだった。
そうなると変化球が多くなる。近藤はスライダーとフォーク、佐藤はスローカーブとツーシームを多投して、直球を生かそうとした。


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8回表東海大相模 菅野が生還し1点差

 2回裏、先に崩れたのは近藤の方。
1死満塁から9番荒井大樹のピッチャーゴロを処理したが、誤って一塁へ投じてしまった。
楽に本塁併殺にできるはずが、まさかの失点。
門馬監督も「あれが彼の実力」と呆れるしかないプレーを犯してしまった。
これでこの試合の流れは浦和学院のペースで進むと『野球の神様』は決めたに違いない。

直後の3回表に東海大相模はすぐに追いつくが、その裏に浦和学院は勝ち越す。
5回表裏も同様だった。
6回裏、1番佐藤のタイムリーで2点差に突き放した浦和学院

ただ、これで終わらないのが勝利に執念を燃やした東海大相模
8回表、1死から一つの失策を足がかりに3連打で1点差。
更に8番松木秀一の(2年)ゴロをさばいたショートの小林賢剛(2年)が一塁へ悪送球を投じてしまい、ついに試合は振り出しに戻った。

この攻撃で門馬監督は走者にいた近藤に代走・石川裕也(1年)を送っている。次のイニングに投手が代わることを相手に教えるリスクを背負ってまで勝負に出た。

その裏、代わった1年生右腕の笠間がヒットを打たれるものの、バックの守りにも助けられて3人で切り抜ける。流れは東海大相模に変わったように見えた。


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ピッチャー・佐藤拓也(浦和学院)

9回表、1番の渡辺勝(2年)が死球で出塁。佐藤の前に苦しんでいた東海大相模はこの試合初めて先頭打者が出塁した。2番臼田哲也(2年)が送って1死2塁。打席には3回にタイムリーを放っている3番田中俊太(2年)。

マウンドの佐藤は「変化球で打たれたら後悔する。真っすぐで打たれたとしてもいい」と腹を割りきって投げた。
結果は3球三振。田中は3球目にまったく手が出なかった。
そして4番佐藤大貢(2年)に対しても直球で勝負してセンターフライに打ち取る。
東海大相模への流れを完全に断ち切った。

その裏、得点できなかったもどかしさが残った東海大相模が崩れた。
先頭の代打・笹川のセカンドゴロを田中が痛恨のエラー。「(疲れから)延長にはしたくなかった」という佐藤は四球で出塁しチャンスを広げ、2死から5番日高のサヨナラ打に繋げた。

 森監督は最終的な勝敗の差を「ウチは3連戦、東海さんは4連戦だったことですかね」と地元1位校の利点を勝因の一つに挙げた。

雨で初戦が2日延びたものの、自校で練習できる普段通りの状況が、チームに間延びした感覚を与えていなかった。これこそが地元開催の強み。

そしてもう一つ忘れなかったのは1年生エース佐藤の踏ん張り。小林主将も「佐藤は本当によく頑張ってくれた」と讃えた。『1番ピッチャー』、171センチと決して大きくない体から3試合を一人で投げ抜いた強靭な体力、そして、直球を速く見せるクレバーな投球術はバックに大きな勇気を与えていたのは間違いない。
 「1年生でこんなに早く活躍できるとは思わなかった。自信になりました」とはにかんだ佐藤。


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日高のサヨナラ打に歓喜の浦学ナイン

 一方で東海大相模・門馬監督は「悔しいだけ。アグレッシブさがまだまだ」と勝負に敗れたことにやや憮然とした表情。
試合後すぐに、佐藤大貢主将に「日本で一番悔しい負け(甲子園決勝)をして、今度は関東で一番悔しい負けをした」と大きな声で叱咤していたのが印象的だった。

選抜出場が確実になった決勝だから多くの選手を経験させるではなくて、勝負なのだからあくまでも勝ちを目指すことに徹した両チーム。
門馬監督は「経験させようと思って(2番手投手を)使ったら、経験になりません。あくまでも勝負ですから」と言い切る。だからこそ球威の落ちた近藤を代えたのは勝つために当然の判断だったことを強調。

 
もしも、「神宮大会に出るとチームを研究されるから」という理由で一番の戦力を隠してしまうのなら、選手たちの成長にとって惜しいことだ。
高校生の力は冬場に大きく変わるし、何事にも勝ちを目指さないとわからないことがある。
それに経験だけのために、2番手投手を投げさせるといった考えも、もはや古いと考えさせられた決勝戦だった。

(文・撮影=松倉 雄太)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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