香川西vs高知
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エースの宇都宮健太
つなげたレール。香川西、初センバツをほぼ手中に!
「今日はこれまで経験したいろいろなゲームの要素が肥やしになって出てきましたが、一歩引いてみることができていました」。
7回裏・主砲の小林正和(2年)が高知先発左腕・宮本嘉生(2年)の外角高めの直球を思いっきり振りぬいた大会第1号勝ち越し2ランによって、創部35年目にして初の秋季四国大会決勝進出。
そして初のセンバツ出場を大きく引き寄せた香川西の岩上昌由監督は、これまでとは違った実に晴れやかな表情で試合を振り返った。
それもそのはず。このセンバツ出場を左右する最も重要な試合において、香川西の選手たちは指揮官から学んだことを糧に自らの力で勝利をつかみとったからだ。
その成果が最も表れたシーンは、1対1のタイスコアで迎えた5回表。
1死2・3塁のピンチで高知3番、巧打者の亀井雅人(2年)を迎えたピンチにおける、エース宇都宮健太(2年)と中西健太捕手(2年)間で作り上げた配球である。
この場面で彼らが初球から選択し続けたのは内角低めの直球。
「他の選択肢はなかった。攻めていこうと思った」(宇都宮)強気の姿勢はたとえボールが2球先行しても、4球ファウルで粘られても全く揺らぐことはなく、最後は10球目をサードファウルフライに討ち取るまで、全て130キロ台の球速表示により見事に貫かれた。
「亀井くんは3試合分のビデオからインサイド真っ直ぐがさばけないデータがあったし、それは試合前のミーティングで選手たちに伝えていた」(岩上監督)とはいえ、指揮官をも「そこまでいくのか」と驚愕させる彼らの自主性の発露。
それは続く4番・松窪海斗(2年)を一転、得意のスライダーを軸にショートゴロに仕留めたことによって、味方へは推進力を与え、高知には大きな爪あとを残したのである。
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7回裏勝ち越し2ランを放った小林(香川西)
さらに言えば冒頭に書いた、小林の決勝2ランも高知・島田達二監督が「そのままの流れで投げさせればよかったかもしれない」と悔やんだ短い守備タイム直後の落とし穴を突いたもの。
本来相手側が得意とするかさにかかって攻め込む打撃のお株を奪った瞬間、事実上試合の趨勢は決したといっても過言ではないだろう。
そして155球の熱投で1失点(自責0)9安打完投。勝利の立役者となった宇都宮は試合後、涼しい顔でこう語った。
「疲れは全くなかった」。
同大会2回戦・徳島城南(徳島)戦(2010年10月24日)で試合中に「何点取られても最後まで投げさせる」岩上監督の激しい檄に奮起し、連投にもかかわらず199球完投を演じた宇都宮。
その苦しさを乗り越えたからこそ口を突いたこの一言は、2008年夏の第90回大会出場以後、久しく遠ざかっていた甲子園へのレールを再びつなげた香川西が目指してきた「自らの責任を全うする野球」を象徴するものであった。
(文・撮影=寺下 友徳)