明徳義塾vs寒川
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力投を続ける尾松義生(明徳義塾2年)
「8秒」の隙間に挟んだ奇策。明徳義塾、寒川を下す!
「後半の粘りは俺が教えた中で一番」。試合後のミーティングにて高松商→日本体育大で現役時代を過ごした後、三本松、坂出商、高松商、香川中央、そして寒川と30年以上にわたる高校監督生活を務める宮武学監督にそういわしめたことが物語るように、構図としては寒川が善戦健闘した印象が強いゲーム。
しかし、それでも最後に「我等は進む、まことの道を」と勝利の凱歌を上げたのは明徳義塾の側であった。
この試合における勝敗のポイントは1対1の同点で迎えた6回裏。明徳義塾の攻撃において馬淵史郎監督が仕掛けた「奇策」である。
先頭打者として死球で出塁した4番・北川倫太郎(2年)を進め、6番・中平亜斗務(2年)が打席に立っての2死3塁の場面。「投手の癖をしっかり見て」3球目からスタートを切る動きをしていた北川は、次のボールで相手先発の五十嵐友樹(2年)が投球動作に入るや脱兎のごとくホームへ向かってダッシュ。
「投手が動き始めて7秒あれば決まる可能性があるのでサインを出した」指揮官のサイン対し、忠実な動きを見せた北川は、8秒後には暴投となりネット裏に直接達したボールをよそにホームへ滑り込んでいた。
第2試合の途中から降り始めた雨が激しさを増し不確定要素が多い中での勝ち越し点。そして終わってみれば最後に効いたのもこのホームスチール。「だから北川が走った瞬間、中平にも『打つな!』と叫んだんよ」といつもの伊予弁で一連の説明を締めた馬淵監督は最後にこうつぶやいた。
「だから無駄みたいな練習もやらんといけないんよ」。
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厳しいグラウンドコンディションでの試合
そのとき筆者の脳裏に浮かんだのは以前、「明徳野球道場」(注:明徳義塾では運動部の練習施設をすべて「道場」と呼ぶ)に取材で訪れた際、あらゆる場面を想定して行われる守備と走塁の複合練習と、ミスが起こるたびにネット裏から大音量のスピーカーで理路整然とした修正法を説明する馬淵監督の声。
そう考えると、選手とベンチで日々認識のベクトル合わせを続けている彼らにとっては、この「奇策」もいわば当然の帰結だったといえるのかもしれない。
かくして秋の四国を制して翌年のセンバツ出場につなげた2007年以来、3年ぶりのベスト4進出を決めた明徳義塾。準々決勝残り1試合の新田(愛媛)対徳島商(徳島)が2日間雨天順延になったことにより、準決勝はいわば待ちの姿勢で迎え撃つことになるとはいえ、この日の「明徳らしい」試合運びを見れば、「学園(高知)と決勝をやるしかない」(馬淵監督)高知県勢2校による四国頂上決戦を目指す彼らの視界は、極めて良好といえよう。
(文・撮影=寺下 友徳)