沖縄尚学vs延岡学園
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先発の與座健人(沖縄尚学)
守り勝ち
「守りからリズムを作っていく。攻撃では機動力を活かし、数少ないチャンスを必ずものにする。それがウチの野球です」
自チームの特色を聞かれると、上記のような返答をするチームは多い。
または、それを理想としているという発言もまた然りだ。
それだけ、野球が投手を中心としたディフェンシブなボールゲームであると、多くの現場人は実感しているのだろう。
5季ぶり16回目の九州大会に乗り込んできた沖縄尚学にとっても、それは例外ではなかった。
理想は守り勝つこと。そして、大事な九州大会初戦で、その理想は形となった。
8月の終わりに右わき腹痛を発症し、県予選の準々決勝前にようやく投球練習を再開できたという先発の與座健人が、初回に先制点を許す。
二死二塁から今大会注目の好打者、延岡学園4番の濱田晃成に中前適時打を浴び、開始早々に1点を失った。
「思い切り意識していた対戦です。リストが強く広角に打ち分ける。うまく詰まらせたと思ったのですが、しっかりと振り切られたぶん外野へ持っていかれた。さすがに素晴らしい打者です」と、ここは潔く脱帽する144キロ右腕。
2回にも二死一・二塁と苦しんだが、ここを三ゴロで切り抜けたことで、與座と沖縄尚学は次第にリズムに乗っていく。
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平安山(沖縄尚学)
浜田とは続く3回に再び対戦。
この打席の4、5球目にフォークを連投したが「高めに浮くしコントロールできない。危ないと思い、以降はほぼスライダーと直球だけですね」と與座。
この対戦は三邪飛に打ち取っている。
與座は立ち直った。
3回以降、8回一死までを無安打に抑え、許した走者も味方失策による一度のみ。
4イニングを三者凡退で凌いだ。低めに制球される與座最大の持ち味は冴え渡り、この間に重ねた内野ゴロは11。
自らの投球テンポをアップさせただけでなく、味方を動かすことによって、しっかりとリズムを作り上げたのである。
1-1と同点で迎えた8回表には、逆に一死二・三塁から相手失策を誘い勝ち越し。
「数少ないチャンスをモノにする」というのもチーム理想の野球。すべては我慢を続けながらも、守備でしっかりと流れを作った結果によるものだ。
最終回は一死からの連打で一・三塁のピンチを迎える。
「しっかり投げ込んできたし、肩のスタミナは問題ありません」という與座だったが、8月以降は初といっていい9回フルイニングに、見えない疲労が出てきたとしても無理はあるまい。
状況的には外野フライも許されない場面。
ここで與座が7番・門前雄大に投じた3球目は「コースは問題なかったとおもうのですが、若干高く入ってしまいました」という直球だった。門前、強振。
この打球がセンター方向へ飛ぶ。
「打たれた瞬間は1点を覚悟しましたが、中堅手・當銘翔をはじめ、野手のみんなが普段からどれだけ守備練習してきているかは自分が一番よく知っています」という與座。
守備型チームの信頼関係とは、さすがに強固なものがある。
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先制のタイムリーを放った濱田(延岡学園)
その中堅手・當銘は低位置からやや下がり、再び小さなダッシュで前進しながら捕球する。
三塁走者・森松裕次郎も当然、躊躇ないタッチアップだ。以前は内野手だったという當銘は、素晴らしいクイックスローでカットマンの遊撃手・古謝諒透に返球。
「ああいう状況で外野に飛べば必ず中継プレーに入る。カットマンの胸をめがけて、一瞬でも早く内野に返す。これはチームの徹底事なのです。もちろんダイレクトでの本塁送球はまったく考えていませんでした。練習の成果がしっかり出ましたね」(當銘)
古謝からの本塁転送も、森松のスライディングに対して一直線に放たれた。
結果、クロスプレーとはなったが余裕のタッチアウトである。試合終了だ。
エースは立ち上がりに苦しんだ。スクイズの失敗などで攻撃の芽を摘んでしまったケースもあった。
甲子園の懸かった大会だけに「内容以前に勝利こそすべて」という味方も当然ある。
勝てばいいのだ、と。
しかし、試合トータルで見れば、沖縄尚学は守り勝ったのだ。
緊張を強いられる大会初戦で自分たちのスタイルを貫き、結果を手にしたのである。初戦の獲り方としては、これ以上の形はない。
2年前のセンバツ王者が大舞台の強さを発揮し、まずは強豪・延岡学園を撃破だ。
(文=加来 慶祐)