九州学院vs興南
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九州学院バッテリー
山は動いた
9回裏、1点を追う興南の攻撃。
最後の攻撃である。
理由は分からないが、この数分の間、なぜか鳥肌が浮いたままの状態で引かない。
興南が敗れた。
過去に春夏連覇を達成しているチームのうち、翌春のセンバツ出場権を獲得しているのは99年の横浜のみ。
それは高校野球の世界で勝ち続けることの難しさを表したデータでもあり、今年もっとも偉大な成績を歴史に刻んだ興南も、そのジンクスに跳ね返されたのだ。
連覇だけでなく、5季連続の甲子園も遠のいた。そして、九州大会5季連続出場中の“絶対王者”に土が付く。間違いなく、九州の高校野球における一大トピックなのである。
山を動かしたのは地元・熊本の優勝候補だった。
九州学院は初回に5番・岡山志朗の右前適時打などで3点を先制。先発の大塚尚仁は2回までに2点を失ったが、初回に挙げた3点の効果は、やはり大きい。
「やはり先制できるかどうかがひとつのポイントでした。じゃんけんに負けて先攻になったと聞いた時、内心では喜んでいたんです」(坂井宏安監督)
主将の坂井宏志朗の強気なリードが冴えを増し、どのナインからも自発的に大きな声が発せられるようになった。とくに1年生の4番打者、萩原英之が積極的に投手・大塚やまわりのナインに声を掛けていたことが大きかったと坂井監督。予選では打撃の面でやや積極性に欠く状態が続いていた萩原だが、やはり初戦の唐津商戦(2010年10月24日)で放った“超高校級”の逆方向への一発が、何かを吹っ切れさせたのだろうか。
「それまではドツボにハマっていたんです。彼のああした明るさは県大会ではなかったことです」(坂井監督)
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試合シーン
4回には投手の大塚自身が4点目の適時打を左前に落とし、6回にも大塚が中犠飛を放ってもう5点目を追加した。
7回には3番・山下翼、4番・萩原、5番・岡山のクリーンアップが3連打で決定的な6点目を奪っている。
終盤の7回裏は、疲れの出てきた大塚に興南打線が襲い掛かり一挙3点。
「興南恐るべし」の印象を熊本のファンに植え付けた二死からの反撃で1点差となったが、最後は大塚をリリーフした岩橋昂樹が反撃を断ち切った。
九学ナインは、それぞれの持ち場で与えられた役割をこなしていく。
組織がしっかりと機能した、ということになるだろうか。
九州学院・坂井監督は、
「日本一の選手、監督と試合ができる喜びを噛み締めよう。勝ち負けを考えずに精一杯やろうじゃないか」
と、選手たちに語りかけたという。
「実際に試合をしてみると、選手の試合中におけるキビキビした動きなど、見習うべき点が多かった。それに僕ら以上にハードな新チーム作りをやってこられたのですから、興南はやっぱり凄いです」
と言って最大限の敬意を払うのだった。
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試合シーン
敗れた興南・我喜屋監督。試合後に勝利者インタビュー以外でマイクを向けられるのは、昨秋の九州準決勝、宮崎工戦以来のことだ。
「夏に向けて去年以上のチーム作りは確実にできると思っています。まずは人材的見落としがなかったか、懐中電灯をあてるように、あらためてチームを隅々まで見直していかないと。とにかくいろんなことが短い間で集中的に起こったので、野球の神様が『ここでひと休みしろ』と言っているのでしょう。少しゆっくりしてから、再び整えていきますよ」
日本一チームの、日本一への再アプローチにも注目せねばなるまい。
さて、休養日を挟んで行なわれる準決勝を挟んで、九州1位通過を狙うことになる九州学院。
「あの興南に勝ったことで選手たちは興奮しています。まずはそれを抑えなければいけませんね」
という坂井監督。王者打倒を達成したことで、周囲からは以前にも増して“強さ”を求められることになるだろう。九州学院の真価が問われる1年間は、今日この日からスタートを切ったといっていい。
(文・撮影=加来 慶祐)