松山商vs宇和島東
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15年ぶり秋四国大会に喜びを爆発させる安藤健太郎捕手(2年)
快心の「泥仕合」制した松山商、15年ぶりに秋季四国大会帰還!
四国大会出場権を賭けた2連戦を翌日に控えた10月1日夕刻の松山商グラウンド。
真剣勝負さながらの紅白戦形式によるケースバッティングを終え、フリーバッティングに精を出す選手たちを見つめる重澤和史監督の目は、数ヶ月前の誰も近寄らせがたい鋭さに満ちたものではなく、少し柔和なものへと変化していた。
その理由は選手たちの側にあった。
新チームスタート時は全て監督、程内大介部長の「指示待ち」だった彼らだが、この日は北川雄大主将を中心に動きが止まると些細な部分においても自分たちで確認作業を繰り返すように。
チームの最大テーマとしている「凡事全員徹底」を一丸となって成し遂げようとする姿がそこにはあった。
かくして2日の準決勝・新田戦を2対3で惜敗し、四国大会出場へ負けられない状況で、曇天の中迎えた代表決定戦。
松山商の選手たちは今夏代表校の宇和島東相手に、グラウンド同様の確認作業を愚直なまでに繰り返した。
堀田晃、倉田修和の1年生バッテリーは少しでもサインの相違があればマウンド上で協議して息をあわせ、内野手も機を見て投手陣へアドバイス。
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赤松茂樹(宇和島東)
「明らかにタイムが多すぎる」と重澤監督も試合後指摘したように、3時間28分という高校野球では異例の長時間試合の要因となった彼らの行為自体は決して褒められたものではない。
しかし甲子園で140キロをマークした赤松茂樹(2年)や、宇和海中時代から好投手の評判が高かった最速138キロ右腕・中川源和(1年・右投右打・179センチ75キロ)など、タレントの質では明らかに上回る敵に対する「勝利への執念」と、「チャンスで見送って終わってしまった」(土居浩二監督)宇和島東のリズムを乱した点においては一定の評価を与えてもいいだろう。
そして彼らの執念は平岡桂樹(1年)が殊勲打を放った準々決勝・帝京第五戦同様、またしても下位打線の奮起により「勢い」へと変わる。
この日8番の平岡は2回表に先制タイムリー。
今大会はじめて9番に座った山中雄太(1年)は2回裏・ショートストップでのミスを取り返した4回表の同点タイムリー。
7回表の同点押し出しを含む3打数2安打と7番以下で7点中5打点。
さらに途中、リリーフで1人も凡打に討ち取れず堀田に再びマウンドを任せる格好になった高木ちから右翼手(1年)も赤松の代名詞であるスライダーを叩き決勝タイムリー。
「ミスしたら取り返せ!」の大会テーマを個々が体現した松山商はついに宇和島東をも凌駕し、ついに15年ぶりとなる秋季四国大会への帰還を果たしたのである。
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15年ぶり秋四国大会に喜びを爆発させる北川雄大主将(2年)
「もう少しロースコアでの接戦になるとは思ったが、泥仕合の中で選手たちががんばってくれた」と地元マスコミがごった返す試合後の共同インタビューで第一声を発した重澤監督だが、実は10月1日に筆者との会話の中でこんなことも言っていた。
「3日は雨予報になっていますけど、試合はやりたいですね。ウチの選手は疲れている方がいいプレーができますし、ドロドロな試合の方が結果を出せると思うんですよ」。
指揮官にそう断言させるだけの練習量に対する自信。
その意味において相手に底知れぬ脅威を与え続け、やがては相手の自滅を引き出して3位を勝ち取った今大会における松山商の仕掛けた「泥仕合」は見事であったという他ない。
「今大会を通じて『ここ一番の中で人間性が出る』ということを選手たちはわかったのではないか。ただ四国大会で今日のような平凡なミスをしたら致命傷になる。もう一度守備を中心にやり直したい」と指揮官も語るように、現状の実力下は四国大会の苦戦は免れない松山商。
それでも彼らは絶対にあきらめることなく、約3週間の鍛錬期間で精一杯の努力を積んで他県の強豪校相手に「泥仕合」を演じてくれるはず。
その経過と結果がいかなるものになるか?筆者にとって今はそれが楽しみでならない。
(文=寺下 友徳)