天理vs磯城野
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天理・長谷川の走塁
天理、浸透する走塁意識の高さ
天理が3試合連続の2けた得点、無失点でベスト8進出を決めた。夏の大会から数えても、5点差以内で終わったのがたった1試合しかない。県内において、圧倒的な強さを誇っている。
しかし、その得点だけで今の天理を判断すると、大きく見誤ることになる。3試合連続の合計57得点の背景は、打撃力の高さだけではない。その走塁力の高さは、おそらく、県内だけでなく、近畿、全国に出しても、そうヒケを取らない。
「前のチームからも、ずっと言ってある。(走塁に関しては)もっと高いレベルまでにしたいというのも思っている。旧チームは足が遅かった分、意識を高めていい走塁ができるようになっていたけど、今年のチームは足のある選手もいるし、去年のチームがあれだけできたというのを、今の選手たちも感じているはずだから」とは天理・森川芳夫監督である。簡単に言えば、「常に先の塁を狙う」走塁なのだが、投手の投球がワンバウンドした時の、走者の姿勢を見れば、天理の走塁への意識がいかに高いか、うかがい知れるのだ。
今日の試合で言えば、1回裏、1死・1、2塁の場面。二走・西浦は相手投手のスライダーがワンバウンドするのを見ると、即座にスタートを切った。相手の捕手が慌てて、三塁に投げるもこれが悪送球。西浦はホームを駆け抜けた。
このプレーを、磯城野の守備が乱れたと見る向きもあるだろうが、正確には、天理の走塁が磯城野の守備を混乱させたのである。もちろん、それは、投球間だけでなく、試合のあらゆる場面で、スキを突こうというのが今の天理にはみえる。
とはいえ、森川監督はこの走塁を、「この2年とかいうよりも、ここ何年かで積み上げられたもの」と話す。目に見えるようにして得点力が上がったのは、近畿大会を制した2年前からかもしれないが、01年の監督復帰以降少しずつ走塁への意識の高さは植え付けていたのだ。
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天理・長谷川の走塁
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特に、思い起こされるのは06年夏決勝の斑鳩・法隆寺国際戦である。1点ビハインドで迎えた9回裏、天理が1死・1塁で3番・松原(現同志社大)を迎えた場面。ここで、松原は左翼前へ痛烈な安打を放つ。
普通なら、1死・1、2塁にあるはずだったが、2走・室谷は二塁ベースを蹴って三塁を陥れた。法隆寺国際の守備陣が慌てる際に、打者走者も二塁へ。1死・二、三塁と局面を作り、最後はサヨナラで制したのだ。一塁走者だった室谷は左翼前安打の時、左翼手が膝をついてボールを処理しようとするのを見抜いての判断だった、と後に話している。奈良県史上初となる4年連続の甲子園出場を決めたのは、走塁だった。
ただ、あの走塁は、室谷個人の力によるものが大きかった。彼の走力とあの場面で仕掛ける勇気、チーム全体と言うものほどのものではなかった。
あれが始まりだったのではないかと、個人的には思っている。「積み上げられたもの」と森川監督が話す、伝統が息づいている。それが、チーム全体の意識となって、今の天理の一つの武器になっている。
今年のチームは3大会連続で奈良県を制した旧チームとはスタイルがまるで異なっている。この夏の甲子園で147㌔を計測したエース・西口輔ら本格派4投手を中心にディフェンスが硬く、打線はつないで得点を挙げていく。むしろ、4、5年ほどのチームのスタイルに回帰した形だ。
しかし、それでも、昨年チームとは変わらぬ得点を挙げられているのは、相手との力関係があるとはいえ、走塁力の高さがあるからだ。
準々決勝で、天理と対戦するのは登美ヶ丘。この2試合で無失点と1年生エース・松尾が奮闘を見せている。春の県大会決勝のリベンジ戦となるが、果たして、登美ヶ丘は、天理を、天理の走塁を、止めることができるのだろうか。その得点力の高さから「打撃の天理」と判断すると、大きな痛手を食うことになる。
(文=氏原 英明)