平塚学園vs桐蔭学園
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内田(平塚学園)
右サイドスローが左打者を抑えるには
平塚学園が桐蔭学園の自慢の投手陣を打ち崩し7回コールド勝ちでベスト8に進出した。
前評判を覆す戦いぶりを見せてくれたが、その立役者は平塚学園のエース内田だろう。内田は右のサイドハンド。桐蔭学園はスタメンのほとんどが左打者。右サイドハンドにとっては不利なのだが、持ち味のチェンジアップを駆使して桐蔭学園打線を封じ込めた。桐蔭学園の打者は動きながら打つ走り打ちが多く、チェンジアップに待ち切れずに空振りしてしまう打者が多かったのだ。外角の制球力は絶妙だが、それを意識させてインコースにスライダーを投げて、三振を奪う姿には唸らされた。実に考えた投球をしている。
彼の投球を見ていて左打者を抑えるヒントを見出してくれたのではないかと思っている。右のサイドハンドの殆どが、スライダーを武器にしている。彼もキレの良いスライダーを投げているが、スライダーは右打者にとって逃げていくボールになるので有効的だ。しかし左打者には中に入ってくるので、打たれやすい球種である。
面白いのは右サイドハンドが打たれる球種は実はスライダーではなく、置きにいった外角ストレートなのだ。
内田も外角に集めており、高めにいけば、置きにいったということになるが、今日は殆どが低めに集まっており、尚且つチェンジアップを駆使することができていたので、抑えることができていたのだ。この少ない球種だが、狙い球をはずす岡部のリードも巧みであった。
思えば九州学院の右サイドハンド渡辺政孝も左打者にはチェンジアップを有効的に使っていた。左打者がそろう東海大相模打線にはチェンジアップを中心とした投球で試合を作ることができていた。右サイドハンドの投手が左打者を抑えるには外角へ逃げる変化球をマスターできるかにかかっているだろう。この投球が出来れば上のレベルでも通用する。
次は優勝候補と目される横浜と対戦する。この試合で横浜の参謀・小倉 清一郎コーチが偵察に訪れていた。小倉コーチは内田攻略を編み出しているところであろう。全力で彼の攻略を図る横浜に対し、どう抑えていくか。非常に興味深い対戦となりそうだ。
桐蔭学園の先発は若林晃弘(2年)。1年生から夏のマウンドを踏む本格派右腕だ。
右オーバーから振り下ろすストレートは常時120キロ後半~133キロ(マックスは136キロ)を計測。ストレートのスピードは秋の時点で頭一つ抜けているものがあるが、ミットに軽く収まる感じで、威力を欠けるストレートだ。そのためスライダー、カーブ、チェンジアップで交わす投球になる。2回まではそれで抑えることができていた。
しかし3イニング目から平塚学園の打者が変化球に狙いを定め、ワンアウト一塁から4連打を浴びて3失点。5回途中まで5失点で降板し、悔しい結果に終わった。
しかし安定したマウンド捌き・絶妙な牽制・1.1秒台の高速クイックと投手としてはある程度、完成されているだけに課題は球威不足ということが明らかになっただけでも収穫だろう。一冬のトレーニングで逞しくなった姿を見せてほしい。
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藤岡雅俊(桐蔭学園)
三番手に登板したのは藤岡雅俊。
日大藤沢戦で最速143キロを計測した本格派右腕。完成度も高く、順調に成長を遂げれば神奈川屈指の投手になるだろうと見ていた。
しかし今日の投球を見てみると、春に比べて肘を下げており、それによってあの縦回転のかかったストレートが影を潜めていた。最速は137キロ止まり。137キロといっても球速表示ほどのボールは来ていないし、鋭い腕の振りによってキレを生み出すことができていたスライダー、カーブも抜けてしまっており、すべてが崩れてしまったように思える。
なぜ彼が肘を下げてしまったのか。私はそこが疑問である。来年までじっくりと時間があるので、フォームを作り直して、来年にはまた縦回転のかかったストレートを取り戻してほしい。
野手でチェックしていたのは茂木栄五郎(2年)。昨年の関東大会でアーチを放った左打者だが、当時から攻守にバランスが取れたプレーヤーで個人的に気になっていた選手であった。
3回戦の多摩戦では5打数4安打の大活躍。この日も活躍が楽しみであったが、ノーヒットに終わった。
しかし桐蔭学園は走り打ちして、力のない打球を飛ばしていく打者がほとんどだが、彼は打撃の型はしっかりできている選手である。力みのないスクエアスタンスから小さくステップして踏み出すことによって軸がぶれずに振り抜くことができている。軸足もしっかり回転することができているので、下半身に力を伝えることができており、今日もホームラン性の大飛球を見せた。
守備面も軽快な守備を見せており、足さばきのよさ・地肩の強さは秋の時点では頭一つ抜けた選手だ。基本的な動作はしっかりしているので、あとはランニングスロー、難しいショートバウンドの対応など難しい動作をこなせるかを確認するには次の機会になりそうだ。
筆者は秋季は千葉県二次予選から見ているが、今まで見てきて中では一番レベルの高い選手だと思っていただけにベスト8入りもせずに敗れてしまったのが残念である。ぜひ来年には攻守ともにワンランク成長した姿を見せてほしい。
(文=編集部 河嶋 宗一)