東海大相模(神奈川)vs成田(千葉)
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一二三慎太(東海大相模)
決勝戦、カギは「一二三VS.興南右打者」
0割6分5厘――。
東海大相模・一二三慎太は、準々決勝までの3試合で驚異といってもいい数字を残していた。それは、対右打者への被打率。右打者15~16人に1本しか安打を許さない計算だ。
急造のサイドスローのため、一二三のフォームは未完成。左足を上げる際にかかとを上げるヒールアップを採用しているが、これがかえって軸足側に体重が残らず、身体の突っ込みを招いている。突っ込みが早く、球離れが早い分、球は自然とシュートしやすい。
体力があるうちはこれが幸いする。184センチ、85キロと大柄な体躯。馬力があるため、球威もある。右打者には、シュート回転すればするほど、内角に食い込むかたちになり、打ちにくい。打ったとしても、どん詰まりの内野ゴロがせいぜいだ。
また、右打者には外角に逃げていくスライダーが投げやすい。ひっかかっても、死球の心配がないからだ。安心して、自信を持って投げられるから、必然的に右打者には強くなる。
ところが、疲労が溜まり、下半身が使えなくなってくるとこれらの利点が半減する。右足の蹴りが弱まり、腕の振りも鈍くなるため、シュートの度合いが少なくなる。真ん中から内側へ食い込んできた球が、ただの甘い球になってしまうのだ。
成田戦は、まさにこの状態だった。象徴的だったのが2回、8番の安随大樹にセンター前に運ばれた1球。内角球のため、本来なら詰まってサードゴロのはずが、千葉大会0割9分1厘の非力な打者に打ち返された。3回には投手の中川諒に甘く入ったストレートを右中間に2点タイムリー二塁打。本来の一二三の球威、球筋なら右打者に長打を浴びるなどは考えられない。結局、この日は右打者だけで4安打を許した(17打数、打率・235)。右打者31人から13個奪っていた三振も1個だけ。逆に、3試合で4個しかなかった右打者への四死球が、1試合で2個(ともに死球)もあった。全体でも9四死球。突っ込んで腕だけで投げている結果が、初戦の水城戦の8個を上回る四死球数につながった。
「下半身の疲れから踏ん張りきれなかった。疲れで制球が定まりませんでした。きのうはいつも以上にストレッチをして、早く寝て、朝にもストレッチをしたんですけど……」(一二三)
被打率2割5分9厘と、右打者に比べて苦手にしている左打者には高橋究の本塁打を含む19打数10安打とメッタ打ち。いつもは抜け球が目立つ外角のスライダーでカウントは取れたが、逆に外角ストレートの抜け球が目立ち、6四球を与えた。
調子が悪い。抜け球が多い。それは自覚している。だが、急造サイドにはそれを修正できる対応策はない。「抜け球が増えるとどうする?」という質問には「焦らないこと」と答え、「制球が定まらないときはどうする?」との問いには、「気合しかない」と返答した。
打線の援護で準決勝は乗り切ったが、決勝は公式戦では未体験の3連投。いくら身体の強い一二三とはいえ、1日で劇的に回復することは考えにくい。対戦する興南は右打者が5人。まずはこの5人にどう対峙するか。打席のベース寄りに立つ興南の右打者相手に、死球を恐れず内角を突くことができるかがカギになる。
幸い、苦手にする左打者は一発のある主砲の眞榮平大輝が不振。準決勝でも併殺打2本と精彩を欠いている。走者を出しても、眞榮平で分断できれば流れを食い止めることができる。ブレーキになっている打者を、確実にアウトに仕留めることができるか。これがもうひとつのポイントだ。
「あと先考えることなく、つぶれてもいいのでがむしゃらになってやる。全国の高校球児に、これが決勝だというのを披露したい」
と大きく宣言した一二三。決勝は、春夏連覇、沖縄勢の夏初優勝を期待するファンが興南を後押しすることが確実。アウェイの雰囲気の中で、どこまで開き直ってやることができるか。勝ってスターになるのではなく、ヒール役に徹するぐらいの気持ちでできるか。
4試合目で、初めてお立ち台を譲ったエース。
主役はオレ――。
その気持ちを捨てられたとき、本来の一二三慎太の投球が見られるはずだ。
(文=田尻 賢誉)
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東海大相模 | 2 | 0 | 1 | 0 | 4 | 3 | 0 | 0 | 1 | 11 | ||||||
成田 | 0 | 0 | 5 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 7 |
東海大相模:一二三―大城 成田:中川―近藤
本塁打:高橋(成)