試合レポート

東海大相模(神奈川)vs九州学院(熊本)

2010.08.20

2010年08月19日 阪神甲子園球場

東海大相模(神奈川)vs九州学院(熊本)

2010年夏の大会 第92回甲子園 準々決勝

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一二三慎太(東海大相模)

一二三慎太攻略のヒント

 センバツ前には高校野球雑誌の表紙を独占。最速149キロの速球とインパクトのある名前で大きな話題になった。サイドハンドに変えた夏は、神奈川大会で150キロを記録。甲子園でも、投げるたびにスポーツ紙紙上を賑わせている。

 名前、球速、潜在能力、名門校のエース……。マスコミが取り上げたくなる材料が揃っている。スター不在の今大会なら、なおさらだ。

東海大相模一二三慎太

 この名前が持つ力は大きい。雑誌をはじめ、テレビ、インターネット、携帯電話……。あらゆる情報源を持つ現代の高校生には、「有名」「プロ注目」「150キロ」というフレーズがつくだけで武器になるからだ。

 実際、一二三は“顔”で抑えている部分がある。3回戦の土岐商戦ではあわや無安打無得点かという最高の出来だったが、初戦の水城戦、準々決勝の九州学院戦の内容は決してよくなかった。

水城戦では6四球、2死球の合計8四死球と大荒れ。土岐商戦、九州学院戦でも4四死球ずつを与えており、3試合の1試合平均四死球は5.4個。打席で黙って立っていれば、1試合5人は走者に出ることができる計算だ。4回までに3点を奪った水城は、四死球でもらった走者を犠打で確実に進め、適時打で点を取った。球速に惑わされず、しっかりとボールを選べば、必ずチャンスはやってくる。

 右のサイドハンドだけに、一二三攻略のポイントは左打者。一二三の左右別の成績は次の通りだ。

  打数 安打 三振 四死球 被打率
対左打者 54 14 12 ・259
対右打者 31 13 ・065

 対右打者に対しては驚異的な被打率。ほとんど打たれていない。140キロ台で球威ある速球がシュート回転してくるため、高校生の右打者はほぼ打つのが不可能ということだろう。

「真ん中と思ったのが結構内に来ました。シュートとしては普通ですけど、球が強かった。インコースしか来ないのでインコースを狙ったんですけど、技術がなかった」(土岐商・松井駿)

 右打者の2安打中の1本を放った水城・石井雄大はこう言う。

「インコースを打つのは厳しいですね。外の球を打つしかない。それも、ライトへ打とうと思うと、球威に押し込まれてファールになるので、自分はセンターを狙いました。ビシビシコーナーには来ないし、変化球のキレはない。外の変化球はボールになるので、粘って甘い球を打てばいいと思います」

 石井は外角のストレートをライトへ運んだが、センターを狙ったのが、たまたまライトへ飛んだのだという。茨城大会で2本塁打を記録している石井。ある程度力のある打者でなければ、右打者が打ち返すのは困難だ。

 一方、左打者は勝負ができる。急造サイドハンドのためか、一二三のフォームには溜めがない。球離れが早く、シュート回転しがちなため、左打者の内角にはほとんど投げられない。また、外角を狙った変化球はほとんど抜け球になる。外角のストレート一本に絞り、思い切って振ることが可能だ。九州学院は8回に5安打を集中して3点を奪ったが、5安打のうち4安打は左打者によるもの。全員がストレートをセンターから逆方向にはじき返したものだった。この試合で2安打を放った1年生四番の萩原英之は言う。

「狙い球はなく、来た球を打っただけです。速かったけど、手が出なくはない。気持ちが先に行かず、どっしり踏ん張って、下半身を使えれば打てると思います」

 制球に不安があるため、初球からストライクを取りにくる。カウントを取りに来た外角のストレートをいかに打ち返すことができるか。意識はセンターから逆方向。この打撃ができれば、一二三攻略の糸口は見えてくる。

 そしてもうひとつ、一二三を攻める大きな要素になるのが機動力だ。一二三はけん制をほとんどしない。水城戦で1球(この他にセットを外したのが1回)、土岐商戦はゼロ、九州学院戦で2球(セット外し1回)と3試合で3球のみ(二塁けん制はゼロ)。走者は無視しているかのようだ。盗塁を決めた土岐商の高橋佑弥は「けん制を投げてこないので、いいスタートが切れました」と言っていた。また、盗塁は記録できなかったが、水城はこんな指示が出されていた。

「同じリズムなので、走れるランナーは行っていいぞ」

 ちなみに、捕手の大城卓三の二塁送球タイムは2秒16~2秒28。決して強肩ではない。積極的に盗塁をしかけてリズムを崩せば、投球にも影響が出るかもしれない。

 球威はある。球速もある。そして、知名度も抜群。並みの高校生なら気後れしてしまうだろう。だが、攻略の糸口はある。あと2試合。一二三を崩すチームは表れるのか――。

(文=田尻 賢誉


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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