試合レポート

福井商(福井)vsいなべ総合(三重)

2010.08.11

2010年08月10日 阪神甲子園球場

福井商(福井)vsいなべ総合(三重)

2010年夏の大会 第92回甲子園 1回戦

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長谷川陽亮(福井商)

「人間力」はどこにあったのか

残念。というより、がっかりした。

四日市工を率いて甲子園出場6回、1999年には明治神宮大会優勝の経験もある尾崎英也監督が異動して5年目。初出場の公立校・いなべ総合がどんな野球を見せてくれるか楽しみにしていたからだ。「人間力で勝て」というチームスローガン、選手一人ひとりがグランドの隅に花を育てているということも興味を惹かれる要因だった。

ところが、その期待は裏切られた。

とにかく、走らない。明らかな凡打の場合は、特に顕著だった。

一塁到達タイムを見ると、2回に堺部将平が投手ゴロで5秒25を記録したのに始まり、3回には近藤佳史が投手ゴロで5秒31、岡部直人がショートゴロで6秒 40(一塁ベース手前まで。ベースに到達せずベンチへ)。6秒台は前代未聞。1試合に3人が5秒以上を記録するのは、予選を含めても初めてだ。

その他にも、5回に近藤が投手ゴロで4秒85、6回に堺部がセカンドゴロ併殺打で4秒81、7回に坂尾和紀がセカンドゴロで4秒77、8回に森山翔太がショートゴロ併殺打で4秒70と4秒70以上をのべ7人、5人が記録。岡部は8回のセカンドゴロで4秒25を出しているから、いかに抜いているかがわかる。全力疾走していたのは、俊足でキャプテンの1番・出口博章ぐらい。出口は5回に平凡なショートゴロを4秒06のタイムで内野安打にしただけでなく、7回のファーストゴロも最後に抜いたものの、4秒28で走っている。キャプテンがお手本となって走る姿勢を見せても、他の選手たちは続かなかった。

なぜ走らないのか。その理由は想像通りのものだった。

「打てなくて悔しかった」(堺部)

「完全にアウトだと思った」(岡部)

打ち損じて、「あ~」という気持ち。明らかにアウトの打球で、「一生懸命走るのはカッコ悪い」という気持ち。万が一、エラーする可能性があるとわかっていても、その瞬間の自分の感情で行動してしまう。気持ちはわからなくもないが、全力疾走は誰もができること。部員69人の代表として、三重66校の代表として、これでは責任を果たしているとはいえない。チームスローガンとはかけ離れている。

9回にはこんなこともあった。

0対6と敗色濃厚の展開で、尾崎監督は控えの3年生を起用した。1死から2人目の代打・位田一太が四球で出塁すると、代走として出場した水谷圭助は、次打者の2球目に盗塁を試み、あえなく刺された。

あと2人アウトで試合終了という場面で6点差。走者をためることが優先で、盗塁の必要はない。明らかに自分のことしか考えていないプレーだ。しかも、次打者席には、三重大会から通じて1試合も出番のなかった背番号15の中村智春が控えていた。水谷圭がアウトにならなければ、中村が甲子園の打席に立つことができていたのだが、それも幻となった。

花を育てるのに必要な思いやりや気づきはまるで見えない。自分の感情のままに、場面や状況、他人のことを考えないプレーを連発してしまう。5月に行われた東海大会の1回戦で、県立岐阜商に8回表まで8点差をつけながら逆転された苦い経験を活かすことはできなかった。

尾崎監督に「人間力で勝て」とはどういうことかを尋ねた。

「泥臭さですね。1球に集中して必死になってやろうということです」

だが、プレーは正反対。1球への集中力は微塵も感じられなかった。そのギャップに違和感を覚えたため、尾崎監督にこうぶつけてみた。

「でも、一塁まで抜いて走っている選手が何人もいましたよ」

すると、尾崎監督は一瞬の沈黙の後、お立ち台の上で深々と頭を下げた。

「申し訳ありません。すみません」

監督歴30年のベテラン・尾崎監督にとって、甲子園のお立ち台で謝罪するのは屈辱だったはず。だが、こういう行動をとれるのが尾崎監督の人柄なのだろう。

「甲子園は来ている回数ではない。今回は運がよくて来れましたが、足らないところがたくさんある。このままでは終われません」

この屈辱を胸に、いなべ総合がどのようなチームに変貌するのか。期待し、楽しみに待ちたい。

(文=田尻 賢誉
(撮影img10~20=宮坂 由香


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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