試合レポート

大体大浪商vs金光大阪

2010.08.01

2010年07月31日 舞洲スタジアム

大体大浪商vs金光大阪

2010年夏の大会 第92回大阪大会 準決勝

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よもやの敗戦に金光ナインは涙する

開始前に勝負は決まっていた

 高校野球の試合間の入れ替わりは慌ただしい。
勝利の余韻に浸る暇も、敗戦のショックに打ちひしがれている時間もなく、試合が終われば、次戦のために、ベンチを空けなければならない。悲壮感を漂わせて、試合に臨もうとする選手たちが、あとには控えている。もとはと言えば、自分たちも数時間前にはそうだった。

 大阪大会も佳境を迎えた準決勝第2試合が始まる直前。第1試合を制した履正社の校歌が終わろうとしている時、三塁側ベンチ裏には、すでに大体大浪商の選手たちが控えていた。試合に臨もうとする戦う者の厳しい目をしていた。

他方、そこから履正社の取材が行われる1塁側へ向かうと、次戦を戦うはずの金光大阪の姿はない。履正社の主将・江原たちから、しきりに「早く、ベンチ空けろ」という声は響くが、そこには金光大阪の姿はなかった。

 おかしいと思った。
大体大浪商が後攻だから、ノックを受けるのが先だったとはいえ、金光大阪ののんびりとした雰囲気にこのチームが本来持つものとは違う空気を感じずにはいられなかった。履正社・岡田監督がベンチ裏の通路に向かい、取材スペースを探していると、そこに金光大阪・横井監督の姿はあった。ナインもいる。横井監督は、取材を待つ岡田監督と談笑する余裕さえあった。
大体大浪商の悲壮感とはエラく違っていた。

 試合開始。
金光大阪は二死から走者を出すも、得点なし。その裏、大体大浪商は先頭の坂口が中前安打を放つ。しかし、2番・矢倉の犠打はサード前に転がり、二塁封殺。3番・藤原は遊撃ゴロ。最悪のゲッツーかと思ったが、ここで、金光大阪の遊撃手・池田が送球ミス。併殺打が一気にピンチになった。後続を併殺打で打ち取り、事なきは得たが、ここ数年の金光大阪の姿からすれば、ちょっと信じられないプレーだった。

 これは始まりだった。
4回裏、大体大浪商は先頭の3番・藤原がセカンドゴロ。しかし、これを金光大阪の二塁手・小倉がエラー。犠打で二塁へ進むと、5番・矢島のところでエンドランを敢行すると、左翼前安打になり、大体大浪商が1点を先制した。その後の、攻撃を金光大阪の好守備で防いだとはいえ、エラーからの失点は重い。5回裏には、8番・北畑が中前安打で出塁し、ワイルドピッチと犠打で1死・三塁とすると、1番・坂口の左翼犠飛で2点目が入った。

大会前の下馬評では金光大阪の方が高かったが、前半は大体大浪商がリードして折り返した。
6、7回と両者得点なく、迎えた8回に試合が動く。金光大阪・横井監督は「追う展開をひっくり返せるかどうかが、甲子園に行けるかの力が試されている」と選手たちを鼓舞。それに応えるかのように、先頭・小倉が左翼前安打で出塁、2番・垂井はセーフティーバントを成功させる。こういう、したたかさが金光大阪の持つ良さである。3番・中村は犠打で二人の走者が進むと、4番・作田が7球を粘って、8球目を中前へ落とす2点適時打。試合は振り出しに。

 金光大阪はこれで、正気に戻ったかに見えた。
しかし、8回裏、大体大浪商は先頭の9番・橋本が右翼前安打で出塁。1番・坂口の犠打は相手守備の暴投を誘うが、これを主審が「打者走者の妨害」と判断。無死・1、3塁の好機は、1死・一塁へ。それでも、2番・矢倉はエンドランで、走者を進める(二死2塁)。ここで、3番・藤原は投手前のゴロ。金光大阪の投手・是枝は難なくさばいて一塁へ送球するが、一塁手がこれをはじいてしまう。二走・橋本は三塁を蹴って、本塁を駆け抜けた。ミスからの貴重な1得点。残酷なシーンではあるが、これも野球の一部分である。
9回表、金光大阪は反撃に転じるが万事休す。結局、金光大阪が波に乗れないまま、試合は決してしまった。

試合後の一塁側ベンチ裏は、敗戦に打ちひしがれていた。失策での試合決着は、高校生活の最後としては残酷である。取材者としても、こういうときは取材がしにくいものだ。いつも柔和な表情を浮かべる横井監督も、神妙な顔突きで試合を振り返り「守りの差が出てしまった。エラーをカバーできなかった」とうつむいていた。

 それでも、聞いてみた。第1試合が早くに終わって、準備ができなかったのではないか、と。
「いや、それはないと思います。ノックまでの時間がありましたし、それは落ち着いてできました。ただ、あと二つで甲子園、硬かったなと思います。甲子園を意識してもいいとは思うんですけど、硬かったですね。試合にはいってミスが出て、負の連鎖というんでしょうかね。それが起きてしまった」。

準備不足は否定したが、本来の力ではなかったことは感じているようだ。選手にも聞いてみた。ほとんどの選手が泣き崩れている中、毅然としていた主将の中村なら、冷静に語ってくれそうだった。
準備不足と甲子園への意識。どっちが大きかったか、と。
「両方です。心のスキと甲子園という想いと。ノックを見てもらったらわかったと思いますが、ポロポロしてました。試合が始まっても、それは変わりませんでした。大きな舞台に慣れていないのかもしれません」。

続けて聞いた。心の隙とは?
履正社より大体大浪商の方が、力が落ちると思っていたことです」。

おそらく、敗者・金光大阪のナインはこの試合で失策が多かったことを嘆くだろうし、失策を犯した選手は自らを責めるだろう。敗因はそこにあると受け止めるに違いない。しかし、それは間違っている。試合の中ではエラーはつきものなのだ。いい打球が相手の正面に行くのと同じで、中村いわく「それが野球」なのだ。

 敗因は失策を犯した選手たちではない。
試合に入る準備の時点で、大体大浪商に負けていたのだ。

(文=氏原 英明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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