成田(千葉)vs関東一(東東京)
![](/images/report/zenkoku/20100818001/photo01.jpg)
(成田)
勝敗を分けた「甲子園の風」
そのとき、風は吹いていた。
初回、成田の攻撃。試合前には吹いていなかった風が、ゆるやかに右へ吹き始める。バックスクリーン上にある旗が、ライト方向へ流れた。
甲子園名物の浜風とは逆。
いつもとは打球の伸び方が変わる。それは、頭に入っていた。
1点を先制されて、なおも2死一、二塁。
成田・木村祐司の快音を残した打球が右中間へ飛ぶ。その瞬間、関東一のセンター・羽毛田裕基は「捕れる」と思った。守備には自信がある。一目散に落下点へと走った。
「捕れた」
そう思い、左腕を伸ばした瞬間、ボールはグラブの左側面に当たって芝生の上に転がった。二人の走者が相次いでホームを駆け抜ける。
0対3。
好投手・中川諒を相手に3点を追いかけることは、精神的に大きな負担になった。
あと一歩、届かなかった原因――。
それは、いくつかある。ひとつは、打席に木村を迎え、いつもより浅めに守っていたこと。木村は甲子園で8打数1安打と当たりがなかった。関東一ナインが千葉大会決勝、甲子園3試合のビデオを見た結論は、「(外野の)後ろに打つような打者ではない」。米沢貴光監督も同じ見解だった。定位置よりやや右寄り、いつもより3、4歩前に守った。
ふたつめは、木村が右打者だったこと。右打者の右への打球は、右へ切れていくことがある。木村の打球も、羽毛田が追えば追うほど、遠ざかっていった。結果的に、打球が落ちたのはライトの守備位置近く。ライトの渋沢麻衣弥の方が捕りやすい打球になった。
「自分たちの中で決めごとがあって、行ける範囲はセンターが行くと決めてました。ライトボールとは思いますけど、いつも通りだと思います。風を頭に入れていた中で、いつもより切れていきました」(羽毛田)
「自分の方が捕りやすいと思いました。でも、あれが正解。羽毛田の守備はチーム内でも信頼感があるので。風は頭に入ってましたけど、それをわかった上で羽毛田に任せました」(渋沢)
そして、みっつめは、風がいつもと逆だったこと。甲子園でこれが3試合目。浜風には慣れていた。2回戦の遊学館戦で土倉将の楽に捕れると思った打球がフェンス手前まで伸びていったのが、羽毛田の頭に強く残っている。左へ伸びる打球には、イメージも自信もあった。
だが、今回は右へ伸びる打球。右利きの外野手にとって、自分のグラブの手の方の打球は捕りにくい。グラブを遠くまで伸ばせる分、目からの距離が遠くなるためだ。利き目の問題で、多くの選手は「打席とは逆の右目でボールを追うのが難しい」と言う。右投げ右打ちの羽毛田も
「左側(レフト寄り)の打球は苦手じゃないんですけど、グラブの方のフライは難しい」と感じていた。
打者ごとに旗を見たり、体で風を感じるようにして気をつけていた羽毛田。練習でも、風の強い日にノックを受け、打撃練習中に守り、風対策をしてきた。だが、それ以上に、木村の打球は外野手にとって難しい要因が揃っていた。
それでも――。
甲子園の風は想像以上だった。
なぜなら、この試合で、右方向へ風が吹いていたのはこのときだけ。3回には風はほぼなくなり、9回表にはセンターの旗は下に垂れていた。そして、9回裏にはゆるやかに左へ流れ出す。9回2死からの関東一・山下幸輝の打球は鋭い金属音とともにライトスタンドへ向かったが、フェンス手前で失速。ぎりぎりのところでライトに捕球された。初回の風なら、完全に本塁打になっている当たりだった。
「こんな風が吹くのは全国にもない。どの球場とも違う風でした。いくら打球が強くても、風によって変わる。甲子園には魔物がいるといわれますけど、身をもって経験しました」(羽毛田)
イニングごとどころか、打者ごとにも向きを変える甲子園の風。気まぐれな魔物のいたずらが、勝敗を分けた。
(文=田尻 賢誉)
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成田 | 3 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 6 | ||||||
関東一 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 3 |
成田:中川―近藤 関東一:井手 白井―本間