試合レポート

関東一(東東京)vs遊学館(石川)

2010.08.15

2010年08月14日 阪神甲子園球場

関東一(東東京)vs遊学館(石川)

2010年夏の大会 第92回甲子園 2回戦

一覧へ戻る


関東一の守備陣

勝敗をわけた守備位置

風は、確かに吹いていた。
甲子園独特のライトからレフトへの浜風。この日は、特別強かった。
レフトへの打球は風が運び、ライトへの打球は風が押し戻す。それを考慮して、遊学館のライト・山中将誉は浅めの守備位置をとった。右打者はもちろん、左打者でも同じ。守っていたのは、定位置で芝生がややうすくなっている部分より少し手前の位置だ。甲子園では、バックホーム体制でもライトがそこまで浅く守るチームは少ない。それが、山中はほぼずっとその位置。なぜ、そんなに浅い位置に守るのか。山中はこう説明した。
「今日は浜風が特に強かったからです。旗を見て、風がやんでいるときは少し深めにしましたけど。自分は基本、浅めです。山本先生(雅弘、監督)からも『ライトゴロを狙える位置に守れ』と言われています。石川大会からずっとそうですね。肩には自信があるので」
だが、その位置に打球は来なかった。というよりも、浜風は関係なく、頭の上を越えていった。2回の山下幸輝の本塁打はライトへ、3回の宮下明大の本塁打はセンターへ、風など吹いていないかのようにスタンドへ飛び込んだ。

1回戦で3安打完封のエース・土倉将がこの日は不調。救援した金井英佑もつかまり、4回までに11失点する展開だったが、山中は最後まで守備位置を変えなかった。
「ピッチャーというより、バッターのスイングを見て決めるので。守っている人が一番わかると思います」

こちらは、大胆だった。
遊学館の右打者が打席に入ると、関東一の二遊間が動く。セカンド・山下は二塁ベースのすぐ横。ショート・伊藤慎二は三遊間寄り。一、二塁間はがらあきだ。メジャーリーグでは引っ張り専門の打者のときにセカンドやショートが二塁ベース上あたりに守ることがあるが、それに近いシフトだった。
「(米沢貴光)監督の指示もありますけど、チームで相手バッターは引っ張りが多いからと決めました」(山下)
「ビデオを見て、自分たちで話し合いました。特に右バッターは振ってくる。三遊間に強い打球が来るんじゃないかと思いました」(伊藤)
そして、これが見事にハマった。
2点を返され、なおも1死二、三塁の場面。打者は1年生からレギュラーで高校通算34本塁打の強打者・山岸裕介。山岸が思い切り引っぱたいた打球は痛烈なライナーとなって三遊間を襲った。完全にヒット性の当たり。だが、そこに伊藤がいた。伊藤はすぐさま山下に送球し、併殺を完成。二塁走者は特別に飛び出していたわけではなかったが、二塁ベース横にいた山下が素早くベースに入ることができたため、すぐに送球ができた。一見、ラッキーとアンラッキーにしか映らないが、守備位置による確かなファインプレー。関東一は、相手に傾きかけた流れを食い止めた。

なぜ、そこに守るのか。
遊学館の外野は左右へ極端に守備位置を変えることはしない。変えるとすれば、浅めか深めかだけだ。遊学館投手陣の力量、出来、関東一打線の実力からすれば、ライトが浅めに守るのは得策とはいえなかった。「バッターのスイングを見て決める。守っている人が一番わかる」のならなおさらだ。特に2番を除く上位打線なら、そこに打球が来る可能性は低い。そうでなくても、甲子園は打球が飛ぶからだ。北大津の9番・村井昇汰がバスター打法で本塁打を飛ばすなど、下位打線であっても不思議な力を出すのが甲子園。持っている力以上のものが出るのが甲子園なのだ。昨年の花巻東などは、強打者となれば外野フェンスにへばりつくほど後ろに守っていた。レフトを守っていた山田隼弥が、スタンドの観客に「なんでそんなところに守ってるんだ。もっと右、もっと前」と指示(ヤジ?)をされるほど。投手が154キロ左腕の菊池雄星でも、それだけ深く守ったのだ。
一方の関東一は、選手同士の話し合いのもと、大胆なシフトをとった。個人の判断ではなく、チームでの判断。ビデオで何度も相手打線を見て、分析した結果だから、たとえ失敗したとしても納得がいく。遊学館の初戦の相手は一関学院関東一と同じように左腕がエースのため、参考にしやすかった。

打球が来たか、来なかったは問題ではない。
それよりも、なぜそこに守るのか。どれだけ分析し、確信を持って守るのか。ここは甲子園。予選と同じようにやり、うまくいくほど、甲子園は甘くない。
「(ライナーは)あそこに来ると思ってました」(伊藤)
そう思って守ることのできた関東一が、一枚上手だった。

(文=田尻 賢誉
(撮影img01~33=宮坂 由香
(撮影img34~40=鈴木 崇


[:addclips]

[:report_ad]

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.07.26

新潟産大附が歓喜の甲子園初出場!帝京長岡・プロ注目右腕攻略に成功【2024夏の甲子園】

2024.07.27

昨夏甲子園4強・神村学園が連覇かけ鹿児島決勝に挑む!樟南は21度目の甲子園狙う【全国実力校・27日の試合予定】

2024.07.26

名将の夏終わる...春日部共栄・本多監督の最後の夏はベスト4で敗れる【2024夏の甲子園】

2024.07.26

報徳学園が3点差をひっくり返す!サヨナラ勝ちで春夏連続甲子園に王手!【2024夏の甲子園】

2024.07.26

「岐阜県のレベルが上がっている」県岐商が2年ぶりの決勝進出も、岐阜各務野の戦いぶりを名将・鍛治舎監督が称賛!【24年夏・岐阜大会】

2024.07.25

まさかの7回コールドで敗戦...滋賀大会6連覇を目指した近江が準決勝で涙【2024夏の甲子園】

2024.07.24

享栄、愛工大名電を破った名古屋たちばなの快進撃は準々決勝で終わる...名門・中京大中京に屈する

2024.07.21

【中国地区ベスト8以上進出校 7・20】米子松蔭が4強、岡山、島根、山口では続々と8強に名乗り、岡山の創志学園は敗退【2024夏の甲子園】

2024.07.21

愛工大名電が今夏3度目のコールド勝ちでV4に前進!長野では甲子園出場37回の名門が敗退【東海・北信越実力校20日の試合結果】

2024.07.21

名将・門馬監督率いる創志学園が3回戦で完敗…2連覇狙う履正社は快勝【近畿・中国実力校20日の試合結果】

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.07.08

令和の高校野球の象徴?!SJBで都立江戸川は東東京大会の上位進出を狙う

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.27

高知・土佐高校に大型サイド右腕現る! 186cm酒井晶央が35年ぶりに名門を聖地へ導く!

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」