前橋商業(群馬)vs宇和島東(愛媛)
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土居監督(宇和島東)
痛すぎた初回の2失点
余裕がある。
スタンドからは、そう映った。
宇和島東の初回の守り。1死から三塁打を浴びて迎えるはプロ注目の三番・後藤駿太。ここで宇和島東の内野陣は前進守備ではなく、通常の守備位置についた。強打の後藤だけに、ヒットゾーンの広がる前進守備は得策ではない。内野ゴロで1点はOKという考えだ。この守備位置にすることを決め、指示を出した捕手の竹本光毅は理由をこう説明する。「前半だし、無理にホームで殺しにいって変なプレーをするより、最少失点で終わればいいかなと。大量失点はしないようにという考えでした」
後藤に対し、1球目はストライク。2球目はボール。
カウントが1-1となったところで、宇和島東ベンチが動く。
土居浩二監督は背番号18の村中浩志郎を伝令としてマウンドに送った。
マウンドの輪が解けるとともに、内野陣が守備位置を変える。
前進守備――。
それまでとは一転して、1点もやらないという守備隊形に変わったのだ。
これは、土居監督の指示。村中に与えたのはこのメッセージだった。
「ここは勝負所だ。このバッターで打ち取れ」
警戒している後藤だからこそ、勝負にいく。先制点はやらない。これが土居監督の考えだった。
竹本光とは全く反対の考えといっていい。
「(前進守備が)おかしいとは思わないです。監督を信じてやるしかない。(内野手に)ボールを呼ぶ声は忘れるなと言いました」
と竹本光は言ったが、強がりに聞こえた。サードの寺尾桂汰はこう言っていたからだ。
「みんなで『1点OK』と言っていました」
2球投げた後の指示というのも、監督の迷いを感じさせた。
そして、直後の1球。
こういうときは、嫌な打球が飛ぶ。
内角スライダーに詰まらされた後藤の打球は一塁手の右(一、二塁間寄り)へ。ファーストの清水恭平が捕球するも、当たりが悪かったため、バックホームは断念。打者走者の後藤を刺そうと山本喬之がマウンドから懸命にベースカバーに走るが、間に合わずに内野安打になった。
俊足の後藤だが、このときの一塁駆け抜けタイムは4秒29。俊足の左打者なら4秒0台をマークすることを考えれば、飛び抜けて速いわけではない。通常の守備位置なら平凡な一塁ゴロだったはず。前進守備が仇になり、後藤も生かすことになった。
1点を失い、なおも1死一塁。
四番の箱田昌太への初球に後藤はすかさず盗塁。このときの投球がワンバウンドになり捕手の竹本光が後逸。三塁へ進んだ後藤は、箱田のセンター前安打で2点目のホームを踏んだ。
1点もやらないはずが、2失点。
1点を惜しんだ結果が、2失点。
結果的に、宇和島東にはこの2点が重くのしかかった。
打線は前橋商の163センチ左腕・野口亮太の巧みな投球の前に5回まで無安打。6回に初安打を放った山下太一、7回1死から安打を放った竹本光と2人の貴重な走者がけん制で刺された。
「ビデオを見て、けん制はわかってたんですけど……。2球(けん制が)来て、もうないなという決めつけがありました。先制点を取られ、絶対に次の塁を取るんだという焦りがありました。自分たちは基本、裏の攻撃が多い。先攻になったから、初回、自分たちが先制点を取ろうと言っていたので……」(山下)
3点差となった8回には先頭打者が安打で出るも、投手の赤松茂樹が強攻に出て併殺打。残り2イニングで2点差ならバントも考えられただけに、やはり初回の2点目が響いた。
「立ち上がりを心配してたんですけど……。入り方を後悔しています。もっとこうしようという方向性を示せば、選手も迷わずにやれたんじゃないか。全国での戦い方として、私自身が甘かった」
土居監督はそう言って後悔したが、後の祭り。
選手の考えと監督の考えの不一致。これがすべてだった。
(文=田尻 賢誉)