履正社vsPL学園
![](/images/report/osaka/20100725001/photo01.jpg)
石田を慰める吉川(左)
吉川に見た、プロ根性。
その目に涙はなかった。いや、本心は涙を流していたのかもしれない。しかし、その姿を彼は人に見せようとはしなかった。
優勝候補の筆頭格に挙げられていたPL学園が敗れた。
PL学園の主将・吉川大幾は泣きじゃくるチームメイトをよそに、ただ一人、涙を流すことなく、「最後まで、やろうや」と道具を片づけ、仲間たちに声を掛けていた。
これほどまでに、芯の強いキャプテンを見たことがあっただろうか。
これほどまでに、プロ根性を見せてくれた選手がいただろうか。
大阪を巣立ってプロの門をたたいた多くの逸材たちがそうだったように、彼らは自らの夏が大阪で終わったのを告げると、泣きじゃくったものだ。
先輩の前田健太(広島)がそう、T―岡田(オリックス)もそうだったし、中田翔(日ハム)も嗚咽が止まらなかった。鶴直人(阪神)も空を見あげて、あふれ出る涙を抑えられなかった。
チームメイトでも、吉川と同じくドラフト候補に挙げられていた勧野甲輝も涙し、最速148キロの多司による嗚咽には取材者としても、胸が締め付けられる想いがしたものだ。
そんな中にあっても、吉川は涙を見せなかった。それは一つの彼の主張でもあるかのようだった。
「涙を見せてたまるか」という。
常日頃からの彼のパフォーマンスには、いつも驚かされる。
たとえば、この日の試合でも、得点にはならなかったが、6回裏のプレーにはうならされた。
無死走者なしから打席に立った吉川は、代わったばかりの
・原のスライダーをセンター前へとはじき返す。そして、4番・勧野の2球目に盗塁を敢行すると、あっさりと決めた。勧野は左中間寄りの中堅フライを打ち上げたのだが、通常なら、タッチアップを狙わない場面で彼は仕掛けた。もちろん、セーフ。
足が速くなければ、成功はあり得ないプレーだが、次の塁を狙おうという姿勢は、こういう競ったゲームでは必要なプレーである。リスクを恐れず、かといって無謀ではない。紙一重のプレーを見せつけ、彼はチームを鼓舞した。
こうしたプレーは味方にも火をつける。7回裏の攻撃の際には、1死・1、3塁から2番の石田が中前適時打を放つと、1走の山崎は一気に三塁を狙った。
履正社はこれを刺しにかかると、打者走者の石田も二塁を奪い、二、三塁の局面を作った。8回裏のビハインドの場面では、二死満塁から1番・中川が遊撃前へのゴロ。履正社遊撃手・山田と競争に、中川が勝って内野安打とすると、三走だけでなく、二走・深海もホームをかいくぐったのである。一時は逆転となるホームだった。
長いトーナメントを戦っていれば、打てない時もある。いや、長い野球人生の中でも、同じようにバットで結果が出ない時もある。そうした時は、違うアプローチの中から、存在感を見せつける。それが最高峰のアスリートが持つ力だ。
吉川にはそれがあった。
9回表に登板した多司が打ちこまれ、延長10回、PL学園は力尽きた。ひとつひとつを振り返れば、敗因はあるだろうし、後悔の念はあっただろう。だが、「人生が終わったわけじゃない。切り替えていきたい」と、気丈にふるまった吉川の姿勢には心を打たれたものだ。
‶最後まで最後まで″‶寮に帰るまで、やりきろうや″
そういった吉川は一度だけ、涙を見せそうな場面があった。勧野やチームメイトと抱き合い、健闘をたたえ合った時だった。しかし、その瞬間、彼は報道陣に背を向けた。ユニフォームを脱ぎながら涙をぬぐって、その感情をコントロールしているかのようだった。こちらを向き直った時には、彼の目に涙はなかった。
その場を立ち去ろうとした吉川に聞いてみた。「涙を見せないのは、野球選手としての意地なのか」――と。
「みんなからキャプテンと認めてもらった、最後までキャプテンらしくいたかった。だから、泣いているのをみせたくなかったんです」。
そういったあと、こう続けた。
「寮に帰ってから、思い切り泣きます」。
吉川の振る舞いに見えたのは、高校生の中のプロ根性だった。
(文=氏原 英明)
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履正社 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 3 | 2 | 1 | 8 | |||||
PL学園 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 3 | 0 | 0 | 7 |
履正社:飯塚、原、平良、高田―坂本 PL学園:難波、多司―影山、深海
三塁打=出口(履)二塁打=坂本、出口(履)難波、西垣(P)