試合レポート

城東工科vs堺工科

2010.07.25

2010年07月24日 住之江球場

城東工科vs堺工科

2010年夏の大会 第92回大阪大会 3回戦

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堺工科の寿福

こんなところにも、好ゲーム。

 記者席には主催者の記者しかいない。それも、この試合を狙ってきたというより、住之江球場に常勤している記者一人だ。それほどに、注目度の薄い試合だった。しかし、延長13回に及んだこの試合には、訴えるものが確かにあった。

 まず、ひとつに

堺工科

の相手に向かっていく姿勢である。

堺工科

・小林監督は言う。
城東工科はいつも上位に勝ち進んでくるチーム。だから、終盤勝負になるときついと思ったので、序盤からいかに得点を多くあげるかを意識して戦いました」。

 堺工科

が徹底したのは、城東工科のエース・杉本対策だ。スライダーに優れる、この本格派右腕の特異球・スライダーを完全に捨てたのだ。
「スライダーは打たない。特に、低目のワンバウンドになる球を打たなければ、ほとんどボール。だから、ストレートだけを狙っていけと言いました」。
さらに、盗塁などの作戦は結果を恐れず、果敢に仕掛ける。

「動いていかないと点は入らない。ウチは一時間しか練習時間がないので、バッティング練習ができていないですから、2死から打って勝負というのは厳しい。1死でスクイズとかをしかけるような展開を作っていかないといけないんです」。

 1回表、先頭の熊野は、ウェイティングの姿勢を見せて四球を選ぶと、すぐさま、盗塁を成功させた。2番・金城がセーフティー気味の犠打をしかけ、これを処理に行った城東工科のエース・杉本が一塁に悪送球。

堺工科

は幸先良く1点を先制した。

 2回裏に、城東工科の主砲・宮口に一発を浴びたが、

堺工科

の姿勢が変わることはなかった。積極的に仕掛け、受けに回った城東工科に、挑んでいったのである。5回表には、1死から適時打で1点を勝ち越すと、スクイズに相手のミスも重なり、3点を追加したのである。

 しかし、中盤にさしかかると、城東工科が本来の力を発揮。特にエースの杉本はカウントを取るスライダーと空振りを取るスライダーを使い分けてきた。6回から8回まで連続で三者凡退で斬られ、8,9回は3者連続三振だった。すると、体力面での顕著の差が両者に出始め、まず、先発の寿福が熱中症になって降板。8、9回とミスを犯して、立て続けに1失点し、同点に追い付かれた。

 10回表、二塁打と二失で好機を作ってスクイズで1点を挙げたが、すぐさま、追いつかれた。そこからはほとんど勝機は見えなくなってしまった。13回裏、二番手で好投していた勝部が足をつって試合続行不可能になると、変わった寺田から城東工科の4番・宮口が、この日2本目となる本塁打を放ち、

堺工科

は敗れた。

「最後は限界でした」。

堺工科

・小林監督は、開口一番にそう漏らした。2人の投手が熱中症で続投不可能になるほどの疲弊ぶりに、「体力面での差が出た。終盤になっても衰えない、城東工科の杉本君は素晴らしかった。良く練習しているんでしょうね」と、たたえるばかりであった。
 それにしても、だ。城東工科が受けに回ったにせよ、

堺工科

の積極的な姿勢は買いたい。序盤、城東工科を慌てさせたのは、彼らの積極性がもたらしたものだ。「ミス待ち」野球というと聞こえは悪いが、それを誘発するほどに一生懸命さが彼らにはあったのだ。城東工科の主将・山本は「試合への入り方が、僕らは軽かった。最初に攻められて、5回くらいまでは攻められてる感じがしていましたし、自分がけん制で挟まれた時は、頭が真っ白になった」と、苦しい戦いだったことを話している。

 負けた

堺工科

には厳しい縁実が待ちうけているが、ここで、城東工科と対等に戦えたこと。これは大きな自信になるはずだ。「僕は就任して3年目なんですけど、3年生がよく我慢してついてきてくれた。何事も一生懸命やる、と取り組んできて、一生懸命やった選手に結果が出たんで、そのことを分かってくれれば、それでいい」と小林監督は、選手たちをねぎらった。

 堺工科

のひたむきな姿勢とそれを跳ね返した城東工科の底力。
失策の多い試合だったとはいえ、両チームが見せた延長13回及ぶ熱戦は好ゲームだった。

堺工科

・草川主将は「(城東工科は)どれだけ点を取っても、喰らいついてきた。簡単に勝たせてもらえなかった」と相手をたたえ、城東工科・山本主将は「今日は、僕らが勝たせてもらって、まだ野球ができる。2回戦で勝った

河南

、今日の

堺工科

の想いを背負って次からも戦いたい」とこの1勝の重みをかみしめた。

 誰も注目しないところで出遭えた好ゲーム。それを演じた両者に拍手を送りたい。

(文=氏原 英明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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