試合レポート

Happy End 第3回 さよならキャプテン

2010.07.23

2010年07月15日~19日 府中市民球場  他  

Happy End 第3回 さよならキャプテン

2010年夏の大会 第92回東京大会3回戦~4回戦戦

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Happy End

チームには必ずキャプテンがいる。彼らは日々の練習で自分の実力を高めるだけでなく、チームをひとつにまとめるという重要な役割も果たさなければいけない。
伝統校、新設校、私立校、公立校…環境によってチーム事情はさまざまで、そこにはドラマが眠っている。今回紹介するのは、人知れず敗れ去っていった高校にあって、最後までしっかり責務を果たした3人のキャプテンの物語だ。

最後に見えた理想型【7月15日 西東京大会3回戦 佼成学園12-9都立府中工】

石川君(都立府中工)

8回裏、1アウト満塁。都立府中工の3番打者、山崎賢くん(2年)の打球はセカンドへのゴロになった。4-6-3のダブルプレーが成立したかと思った瞬間、一塁塁審の両手が広がる。セーフだ。その間に2者がホームへ。3年前にベスト4まで進んだ強豪・佼成学園相手に、最大7あった点差を追いついた。
それはキャプテンの石川翔太くん(3年)がずっと言い続けてきた「キツくてもあきらめない」という言葉が実を結んだ瞬間だった。

石川くんは部員78人をまとめるキャプテンでもあると同時にチームのエースで4番だ。まさにチームの勝敗を左右する「ど」のつく中心人物である。
168センチと小柄だが、下半身をフルに使って投げ込むサウスポー。打者としてはスイングの鋭さが際立つ。さすが、80人近くいる部員の中でエースで4番を張るだけのセンスを感じる。
しかし、この日の石川くんは苦戦した。「変化球が高めに入ってしまった」制球の乱れを、打順が一巡した佼成学園の打者たちは確実に打ってきた。エースは4回を5失点した後、センターに回った。
4番打者としても、6回に押し出し四球を選んだものの、ノーヒット。期待されていた結果は出せなかった。

「自分の力が出せませんでした。投げるのも打つのも、自分のせいで負けました」
試合後、早々とユニフォームを脱ぎ制服姿になった石川くんは、必死にせりあがってくる涙をこらえていた。しかし、きっと歯をくいしばるような凛々しい表情は崩れない。

昨年夏の予選終了後、新しい代のスタート時に部員による投票が行われ、キャプテンになった。
実は大会直前まで「チームはバラバラ」だった。夏の大会メンバーに入る見込みのない3年生が練習に入ってこなくなった。「俺たちはもういい」と腐ってしまったのだ。気持ちはわかる。でも何度も何度も話し合って説得を試みた。
新入部員が入って4ヵ月、78人みんなで苦しみながらもがいてきた。その苦しみを共有したことにレギュラーもスタンドもない。応援する側になったとしても、自分たちの結束は変わらないんだ、と。心が離れる部員が出ては絶対に戦えない、と。最後の最後、理解してくれたのは、夏の大会直前だった。

「大会直前までチームのテンションは上がっていませんでした。でも最後の最後にまとまれた」
「キツくてもあきらめない」姿勢をスタンドの3年生たちが見せてくれたから、試合でも最後まで気持ちが切れなかった。負けはしたが、一度はコールドを覚悟するところから同点に追いついたのだ。ベンチもスタンドもいっしょに戦えた実感があったことが嬉しかった。試合後、応援していた部員たちは泣きながら泥だらけの選手たちに抱きついていた。

小声で話す石川くんの声からは、「感情」を抑えて話そうとしているのがよくわかる。自分のふがいなさや、これまでの苦労に対しても、悔しいとか辛かったという言葉は出ない。
ただひとことだけ、感情が出たひとことがある。
「このチームでプレーできてよかったです」
小声だけど、そう言ったときに見せたすがすがしい顔は、1年に及ぶキャプテンの重責を終えた石川くんが久々に見せた「素顔」だったのかもしれない。

解放の涙【7月18日 西東京大会4回戦 桜美林7-1都立田無工】

村田君(都立田無工)

シード校の桜美林とは、選手層、部員数、応援団、体格……、何もかもが対照的だ。しかも都立田無工の先発メンバーには1年生が4人いた。気圧されてもなんら不思議ではない。
確かに打たれ、走られ、ミスもした。徐々にだが確実に押し込まれる。でも肝心なところで見せる球際の強さは、相当な練習を積んできたことをうかがわせる。最後のバッター角屋雄太くん(2年)の初球打ちは強烈なピッチャーライナーとなった。完敗、だが、縮こまらず最後まで向かっていく16人の都立田無工の戦いぶりに会場からは暖かい拍手が送られた。

都立田無工工のエース、村田悠輔くん(3年)は淡々とマウンドを守り続けた。どんなにピンチになっても、連打を許しても顔色ひとつ変えず、左オーバースローから繰り出される投球のリズムもかわらない。腕の振りは遅いが丁寧にコーナーを突こうとしているのがわかる。
試合後、球場から出てきた村田くんは試合中の冷静さが信じられないほど号泣していた。立てない。常にタオルを顔に押し当てているので、トレードマークのメガネがかけられない。
なのに話を聞きだすと、涙もしゃっくりもぴたりと止まった。そのメンタルたるや、単純に尊敬する。メガネをスッとかけると、試合中に見せた物怖じしない締まった顔になった。

「試合中はとにかく冷静になろうとしてました。でも試合が終わったら悔しさももちろんですけど、今までの重圧から解放された部分もあって…」

昨年夏までは4番でファースト。2年の秋にピッチャーへコンバートし、監督からは「人数が少ないからお前がまとめろ」とキャプテンにも指名された。いきなりエースで四番のキャプテンになった。当時の部員は9人だった。
練習は辛かった。9人しかいないぶん、1人がたくさんノックを受けられる。容赦のないノックの嵐を浴びた。延々と走らされ、入学時100キロ近くあった体重は77キロにまで減った。
部員の少なさをメリットにして懸命に練習した。でも結果が出ない。2年秋、3年春の公式戦はともに初戦敗退。エースとして打たれれば責められ、主砲として打てなければ責められた。辛くて、悔しくて涙を流したことも一度や二度ではないだろう。

結果が出なかった頃、自分と同様にストレスを抱えているであろうチームメートをよくカラオケに誘った。先輩も後輩も関係なく、大声で歌った。部員数が少ないからこそできるコミュニケーションだ。そういった自分も含めたチームのケアを続けているうちに、みんなの気持ちが自然とひとつになったという。
「このチームで1試合でも多く、1秒でも長く試合をしたい。みんな思っていることは同じだったと思います。学年は関係なく、あと先生たちも含めてチームとしてまとまったんです」

この夏は2つ勝った。躍進の理由は「1年生が入ってくれたことと、試合に出られない3年生がチームをまとめてくれたこと」。1試合でも多く試合を続けるために学年の壁を越えチーム全体が支えあうことによって、1年生も臆せずのびのびとプレーすることができた。
「最高の仲間たちと試合ができてよかったです」
「最高」のチームは、ある意味「最強」のチームを作るより難しいかもしれない。村田くんの作り上げたチームは、3年生も下級生も、そして先生もコーチも、野球部に関わるみんなが最後に泣けるチームだった。

2カ月のキャプテン【7月19日 東東京大会4回戦 都立紅葉川1-0東京都市大付】

度会君(都市大高)

東京都市大付には今年の5月までキャプテンがいなかった。
現3年生は10人いたが、引っ張れるタイプの選手がいないと考え「10人全員がキャプテン」と言ってきたのだ。
しかし、最後の夏を前に長島由典監督に「誰かまとめられるやつはいないのか?」とキャプテンに指名されたのが、キャッチャーの度会俊太くん(3年)だった。

試合は投手戦になった。東京都市大付はよく守るものの、都立紅葉川の2年生ピッチャー、野沢憂利くん(2年)を前に中々チャンスが作れない。結局9イニングのうち、3人で攻撃が終わった回が6回と、完全に押さえ込まれてしまった。

東京の高校球児なら一度はプレーしてみたいと憧れる神宮球場。ベンチ裏のロッカールームはひといきれで息苦しい。東京都市大付の選手たちのすすり泣きが寂しげに響く。
そんな中、度会くんは汗をびっしょりかきつつも、直立不動の姿勢で話してくれた。
「両チームともピッチャーがいいので0-0で進むかなと思ってました。でも、どこかでチーム全体が引いてしまっていた。その気持ちが敗因です」

涙はない。冷静なのだが、やりたいことをする前に負けてしまってまだ状況が飲み込めず、戸惑っているようにも見える。
渡会くんの高校野球生活も戸惑いの連続だったかもしれない。昨年、校名が武蔵工大付から東京都市大付に変わった。夏にはユニフォームも変わった。野球部は今年から「中高一貫体制の硬式野球部」に。そして、2ヵ月前に突然のキャプテン就任。

「チームでやるべきことを誰よりも率先するようにしました。みんなの手本になれればと。そしたら周りの3年生たちが、大会が近づくにつれてチームを引っ張る意識が出てきた。みんなが助けてくれたので、キャプテンの重圧を感じずにここまでくることができました」
これから長く続くであろう東京都市大付の歴史の中でも、過渡期を過ごす学年となった現3年生。その特別な体験の共有が、キャプテンに従うのでなく、ともに歩むという意識を持たせたのか。
チームは、キャプテンが先頭で引っ張ることでまとまることもあれば、求心力となって協調しながらまとまることもある。東京都市大付の場合、3年生に引っ張れる選手はいなかったが、度会くんという求心力になれる選手がいた。
「僕、中学の時は試合に出られなかったんです。それが高校に入って、1年の秋から試合に出させてもらって、キャプテンをして人間的にも成長できた。他の高校に進んだ中学時代のチームメイトを、少しは見返せたかな……」
自分の高校野球が終わったことを徐々に実感してきたのか、関くんの声が涙につまった。しかし、手を後ろに組んで直立不動の姿勢は崩れなかった。そこには、2ヵ月のキャプテン経験で確実に人間的に大きく成長した関くんがいた。

キャプテンにはキャプテンにしかわからない重圧があると思う。いつも全体を見ていなければならないし、部員と監督のパイプ役にもならなければいけない。時にはチームを引き締めるための「見せしめ」になることもあるだろう。もちろん自分のレベルアップにも力を注ぎたい。
それぞれの葛藤や悩みを抱き続けながら重圧を乗り越えてきたキャプテンたちは、みんな共通の「目力」を持っていた。心は熱く、頭は冷静に。感情的な態度は決してとらないが、誰よりも熱い思いを胸に秘めていることが目から伝わってくる。
彼らは世間的には注目されなかったかもしれない。でも、大きな人徳を、高校野球を通して積んだはずだ。高校野球は終わっても、チームメイトにとって彼らは一生キャプテンであり続ける。

(文=伊藤 亮

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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