試合レポート

修徳vs足立学園

2010.07.19

2010年07月18日 明治神宮球場  

修徳vs足立学園

2010年夏の大会 第92回東東京大会 4回戦

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三ツ俣(修徳)

好投手対決 勝敗を分けた「メンタルコントロール」

修徳足立学園ともにプロのスカウトが注目する投手が先発。ロースコアの投手戦も期待されたが、結果は10対0コールド決着となった。
両者の明暗を分けたもの、それはメンタルをコントロールする力だった。

球の走りが良かったのは足立学園の2年生右腕・吉本祥二の方だった。
186cmで手足の長い恵まれた体格から繰り出されるストレートは目測で130㎞/h台後半は出ている。しかも球に伸びがあって、コースに決まったものは目を見張るものがある。
すでに最速は143㎞/hの逸材で、新聞によっては「下町のダルビッシュ」との呼称もつけられている。確かに体型、投げ方はダルビッシュを彷彿とさせるものがあり、1回戦の都立科学技術戦では4回無安打10奪三振。まだ線が細いが、順調なら間違いなく来年のドラフト候補になるだろう。

初回は3番菊入滉平に内野安打を許すも、エースで4番の三ツ俣大樹から変化球で空振り三振を奪う。三ツ俣は最速146㎞/hの右腕で投手としてドラフト候補に考えている球団もあるが、それ以上に野手として評価するスカウトが多い。その三ツ俣から三振を奪ってみせた。今から1年後にどんな投手になるのかを楽しみにしたくなるピッチャーである。

 一方の三ツ俣は、ストレートにいつもの勢いが見られない。しかも高めに浮くため、キャッチャーの菊入はスライダーを多めに要求していた。マウンドでも常に気迫を前面に出す選手なのだが、少しおとなしい印象も受けた。3日前の都立足立西戦では両足の痙攣で途中交代しており、その影響があるのか。それでも足立学園の打者が高めのボール球を空振りしてくれたこともあり、1回、2回は三者凡退で切り抜けた。

先に点を失ったのは吉本。2回裏、先頭の鳥海翔平に甘く入ったストレートを左中間に運ばれ、無死3塁。続く飯野功佑にも真ん中に入ったストレートをライト前に打たれて、わずか5球であっさり先制される。さらにバントで送られた後、8番の植竹映教に内角のストレートを詰まりながらもレフト前に落とされて2失点。ここまでの修徳打線は追い込まれたケース以外では、みなストレートを打ってきていた。投げたコースが甘いこともあるが、少しまともに行き過ぎた。

 直後の3回表、三ツ俣は先頭の鳥山貴樹を歩かせてしまう。バントで1死2塁とされるが、次打者が試みたセーフティバントがキャッチャーへのファールフライとなり2死。続く1番の中村一輝にはカウント1-2から内角へ素晴らしいコースのストレートでサードゴロに打ち取る。
「ヨッシャー!」ここでいつものように雄叫びを上げる。ピンチとなってエンジンがかかったか。
続く4回、エラーでまたも無死1塁。三ツ俣はさらに気合が入る。続く打者の初球に空振りを取っただけで、また「ヨッシャー!」。仲間のためにもエラーを失点に繋げないという気持ちが伝わってきた。集中力を研ぎ澄ます。1塁ランナーの不注意を見逃さずに牽制でアウトにすると、さらに空振り三振、見逃し三振を奪って、またまた「ヨッシャー!」だ。
5回も2死からエラーが出るが、三ツ俣は右手の人差し指と小指を立ててファーストやキャッチャーと冷静にアウトカウントを確認。何事もなかったかのように次打者をショートゴロに打ち取った。三ツ俣はこの回でマウンドを降りたが、5回被安打1、無失点。ピンチや味方にミスが出たときこそ力を発揮した。

 2回に2点を奪われた吉本は、3回にも2点を取られて3回4失点で降板する。先頭の藤谷陵をフォアボールで出塁させると、1死後に三ツ俣の打席で藤谷に楽々と塁を盗まれる。三ツ俣はカウント2-2から内角のストレートでショートフライに取るも、鳥海にまた痛打される。外寄りのストレートをセンターオーバーの3塁打。打球が抜けてもすぐに3塁ベースのカバーに走らなかったように、落胆の大きさが見て取れた。吉本は次打者の初球にワイルドピッチ。4点目を献上してしまう。

2回も1点を先行された1死2塁で、その後タイムリーを放つ植竹が一度はファウルフライを打ち上げるもサードが捕球できないというシーンがあった。気持ちを切り替えられずに引きずってしまった部分があったのだろう。タイムリー後には立ったマウンドから1度脇に降りて落ち着こうとしていた。

 初回の菊入の内野安打は1塁へのベースカバーが遅れたものだし、クイックのスピードも向上させたい。
だが何より、抑えるときは抑え、いい意味で高ぶらせるときは高ぶらせるという気持ちのコントロールができるようになれば、今以上に勝てる投手になるのではないか。

その部分で吉本は三ツ俣の姿から吸収できることが多かったはずだ。

(文=鷲崎 文彦

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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