試合レポート

竜ヶ崎一vs取手二

2010.07.17

2010年07月16日 土浦市営球場  

竜ヶ崎一vs取手二

2010年夏の大会 第92回茨城大会 2回戦

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クロスプレー

どん底から這い上がった元全国王者・取手二、一瞬の夏終わる

甲子園出場春夏通算6回、そして84年夏の甲子園優勝。
茨城県の南端に位置する人口約7万人(当時)の小さな街の公立校は、高校野球史上最大のスターであるKKコンビに夏の甲子園で唯一黒星をつけたチームでもある。

84年夏。主役は名将・木内幸男監督(現常総学院監督)率いる取手二だった。準決勝で鎮西(熊本)を18-6という圧倒的なスコアで沈めるなど4試合38得点の猛打で決勝進出した取手二は、決勝で当時2年生の清原和博、桑田真澄擁する前回大会覇者・PL学園(大阪)と激突。4-4でもつれ込んだ延長10回表に中島彰一が決勝3ランを放つなど4点を奪い、8-4で茨城県の代表校としては史上初となる全国制覇を果たしたのだ。

後にプロへ進んだ吉田剛、石田文樹らを擁し、輝きを放ったスカイブルーのユニフォーム。ただ、取手二にとっては日本一に輝いた84年夏が「最後の甲子園」だった。翌年、木内監督が開校間もない新興の常総学院に新天地を求めると、全国王者は突如低迷。

春秋の関東大会予選では突破することはおろか、86年春を最後に県大会で1勝もできなくなっていた。低迷したチームは深刻な部員不足にも悩まされ、廃部寸前に追い込まれた時期もある。高校野球ファンの記憶からも「取手二」の名は完全に消えかけていた。

ただ、古豪はこの1年で劇的な復活を遂げる。昨夏、取手一を4-1で破り8年ぶりの夏1勝をあげると、新チームとして迎えた秋季県大会では伊那を6-2で下し、秋季大会では24年ぶりとなる県大会勝利。そして、今春の県大会は初戦で第2シードの波崎柳川を8-6で下すなど勢いに乗って4位に入り、全国制覇した84年以来26年ぶりとなる関東大会進出を果たした。復活の象徴となったのはそのユニフォーム。低迷時は白地だったというユニフォームは復活を喜ぶ関係者の尽力により、日本一になった当時のスカイブルーへ変更された。この夏26年ぶりの甲子園へ、地元の期待が高まっていたのはいうまでもない。

「自分たちの目標は全国優勝」。選手たちも意気込んで臨んだ夏の初戦。対戦相手は春夏通算9度の全国大会出場実績を持つ竜ヶ崎一だった。第4シードの取手二とノーシードながら1回戦(対茨城)を10-3の大差で勝ちあがってきた竜ヶ崎一。両校の間にそれほど大きな実力差があったとは思えない。ただ、取手二は試合を通じて1度もリードを奪うことができなかった。

初回表、竜ヶ崎一の1番・大浦史嗣が放った1、2塁間の当たりを二塁手が捌けず右前打としてしまうと、直後にエース友部大樹がけん制悪送球。1死3塁から3番・鳥羽喜貴に右中間を破られるなど2点を失ってしまう。それでも3回2死1塁から竜ヶ崎一の4番・小野貴裕に左中間へ痛打されながらも中堅・神田識資、遊撃・鳥井章平主将の好連係により1塁走者をホームで刺殺。逆に4回裏には6番・和田慎平が左翼フェンス直撃の大二塁打を放ち、1点差へと迫る。流れは取手二に傾きかけていたが、復活劇の立役者だった友部が「あれだけ痛打されることはなかった」(取手二・関口秀文監督)という乱調で直後に再び2失点。鋭いスライダーで8三振を奪ったものの、高めに浮いたボールを次々とヒットゾーンへ運ばれてしまい、結局被安打15で7点を失ってしまった。粘りを見せる取手二は8回裏に4番・鳥井主将のラッキーな右翼線二塁打で2点を返したものの、竜ヶ崎一の力投派・秦克弥からそれ以上の得点を重ねることはできなかった。

26年ぶりVへのスタートとなることを期待された一戦は3-7で敗戦。試合後、関口監督は「相手の力が上だったと思うし、(序盤の失点で)予想外の展開になってしまった。(26年ぶりに関東大会へ出場した)春から夏にかけて期待してもらえるチームになったけれど、まだシード校を受けられる力がなかった」。対戦相手の竜ヶ崎一は指揮官の母校でもあったが「取手二の校歌を歌いたかった」と首を振った。

夏の復活は来年以降へ持ち越しとなったが、取手二は今後どのような道を歩んでいくのか。

どん底まで落ち込んでいた低迷期は脱し、部員は現在40人を超えるまでになった。1学年4クラス、学年に男子生徒が50人ほどしかいない学校の中で野球部は“最大勢力”だ。秋、春の野球部の活躍が野球誌や地元紙に取り上げられるなど、学校の活性化につながっていることを関係者も喜んでいる。ただ26年前のような進撃ができるかというとそれは別問題。関口監督は「今の選手では厳しい」と言い切った。

入学試験において野球部の推薦合格枠はあるというが、部員のほとんどは地元出身で中学時代にレギュラーだった選手もほとんどいない。実際、懐の深いバッティングなどチーム1番のタレントだった鳥井主将も「入学するときは関東大会にいけるなんて思ってもみなかった」と話す。4連覇中の常総学院など強豪と呼ばれる高校たちとの差は大きい。
ただ彼ら3年生がこの1年間で名門復活の足がかりをつくったことだけは間違いない。見た目は“やんちゃ”だが、練習好きで一生懸命。鳥井主将は「きょうは攻撃も守備も自分たちの力を出すことができなかったけれど、自分たちらしく楽しくやっていけた」。試合は常に劣勢だったが、各選手の見せた勢い余ってバランスを崩すほどの豪快で“取手二らしい”フルスイングには、スタンドからどよめきの声が上がっていた。

そこにあったのは伝統の「のびのび野球」。鳥井主将はいう。「去年の秋、全国優勝した代のOBが講演会で話してくれたんですけど、優勝した年、木内さんの徹底した野球に対して(反発して覚悟を決めた選手たちが『自分たちの野球ができないのなら辞める』という状況になって、木内さんが泣きながら『辞めないでくれ』と。それから一体となって伸び伸び野球で全国優勝した。その話を聞いてから自分たちも楽しんでいこうとやってきた。自分たちにうまい選手はいない。でも、とにかく楽しみながら野球をやってきました)。まだまだ全国優勝するような絶対的な強さはない。ただ自分たちのスタイルを貫いた結果、ライバルたちを上回り、今春の関東復帰につながった。

3年生たちから「全国のみんなにこの(スカイブルーの)ユニフォームが復活したとみせてほしい」と期待された1、2年生たちは復活した「のびのび野球」を受け継ぎ、また新たな一歩を踏み出すことを目指す。「輝かしい伝統というものはどの学校にもあるものではない」(関口監督)。自分たちだけが持つ、特別な伝統に再び並ぶ日を目指して。道のりは確かに険しいが、元全国王者は少しずつ実績を重ねながら辛抱強く前へと進んでいく。

(文=吉田 太郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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