試合レポート

安達vs郡山

2010.07.14

2010年07月13日 あづま球場

安達vs郡山

2010年夏の大会 第92回福島大会 2回戦

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(安達)

監督に捧げたかった1勝

 1球に泣いた。
3-3の同点で迎えた9回裏、2死満塁のマウンドに福島郡山のエース・金澤明知(3年)はいた。打席には、安達のエース・根本正誠(3年)。カウント2-3からの1球はファウル。9回裏2死満塁、カウントは2-3。根本がサヨナラヒットを放つのか、またはストライクを見逃すのか、はたまたボールになり、四球でサヨナラ押し出しになるのか。観客は、様々なパターンを想像しただろう。
 金澤が、138球目の外角低めのカットボールを投じた。根本がバットは動かない。主審の手は、上がらなかった。
 サヨナラ押し出し――。
 試合後、福島郡山のロッカールームからは泣き声が漏れてきた。
 球場の外で父兄に挨拶し、写真撮影をする時も、肩を震わせて帽子で顔を隠す選手が多数いた。その中には、背番号をつけていない選手の姿も。球場を出ても、こんなに涙するチームを見たのは、今年初めてだった。それだけに、このチームが大会にかけていた思いに胸打たれた。

 今春から就任した佐藤康弘監督は「頑張りましたので、選手たちには感謝しています」と話した。だが、信じがたい結果には「夏の大会だと、何ていうか……ショックが大きいですよね」と声を詰まらせた。

 金澤は試合後のロッカールームで「監督に勝ちをプレゼントしたかったんですけど、すみません」と言ったそうだ。「素直に言われてね。お前は悪くない。よくやった。謝ることはないよと言いました」。

 金澤は昨年まで3番手投手だった。「このままいくのかな」。最後の夏を考えると、ふと、そんなことがよぎる。3番手のまま、最後の夏を迎えることになるのか。だが、転機は突然、訪れた。前監督の移動により、須賀川桐陽から佐藤監督が赴任。「ピッチャーのいろは」を教わったという。「それまで上半身で投げていたんですけど、下半身を使って投げられるようになりました。カウントや状況によっての投球も、この3ヵ月間で教えていただいきました」。投げ方、頭を使った投球、全てを吸収し、エースナンバーを背負うことになった。全幅の信頼を得て、登ったマウンドで結果を出したかった。

 「新しい監督が来て、可能性を見出してくれて、感謝の気持ちでいっぱいです。3ヶ月じゃなくて、3年間一緒にやっていた気持ちです」。だから、今日は福島郡山の監督として迎えた最初の夏で勝利をプレゼントしたかった。校歌も聞かせたかった。

 「全て出し尽くしました」と言いながらも、佐藤監督へ勝利を捧げられなかった後悔はちょっとある。金澤は福島大を志望し、プレーの続行も希望。3ヶ月間で教わった投球術を出す場に立つべく、受験勉強の日々が始まる。夢を後輩に託して。「1、2年生は、今日から新たな戦いが始まっている。この負けをバネにして、勝ち進んで甲子園に行ってほしい」。

 夢を託された筆頭は、捕手の落合純己(2年)だろう。金澤と落合は郡山リトルから一緒にプレーしていた。当時はピッチャーとショートを交代で守っていたという。「まさか、高校でバッテリーを組めるとは思わなかった」と落合。昨年10月、試合で正捕手がケガをし、マスクを被ったのが始まり。その時、金澤はブルペンだった。

 落合はそのまま捕手でポジションを確立。監督交代で金澤の登板機会が増え、必然的にバッテリーになった。「後輩とは思えない。同学年のように引っ張ってくれる」と金澤。バッテリー期間は短いが、長年の付き合いが、その穴を埋めた。

 「(落合は)本当によくがんばってくれた。1勝はしたかった」と金澤はポツリ。落合はしっかりと思いを受け止めている。「正直、勝ちたかった。こればっかりは終わってしまったので変わらないですけど、いい先輩たちと野球をやれてよかった。まずは、秋、県大会に向けて準備をしたいです」。すでに、秋に気持ちを向けた2年生。今年の秋、長い冬、そして、春。1つ、1つの積み重ねが、来夏、佐藤監督へ贈る勝利につながっている。

(文=高橋 昌江


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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