試合レポート

東日大昌平vs学法福島

2010.07.13

2010年07月12日 いわきグリーンスタジアム  

東日大昌平vs学法福島

2010年夏の大会 第92回福島大会 2回戦

一覧へ戻る


雄たけびをあげる引地(東日大昌平)

喜怒哀楽のマウンド

 「オゥリャー!!!」
何度、雄叫びをあげたことだろう。東日大昌平のエース左腕・引地航(3年)のボルテージは回を追うごとに高まっていった。6回まで

学法福島

打線を内野安打1本に抑えるピッチングを披露。マウンドで鋭い目つきと、トレードマークの笑顔を交互に使い分け、スコアボードにゼロを並べていった。

 

学法福島

の4番・菅原源稀(3年)に左翼線二塁打を許し、5番・平間亮(3年)から空振り三振で2死を奪ったが、6番・原田清也(2年)にレフト前に運ばれた。2死1、3塁となり、東日大昌平は、この日最初のタイムを使った。
この時、引地は「いじられて」いた。セカンドを守る青木慶弘(3年)にほっぺたをムニムニほぐされていたのだ。「笑顔が悪くなっていたので」と青木。引地の頬が緩んだ。そして、タイムの輪が解かれると、引地はグローブを左脇にかかえ、天に右手の人差し指を立てた。心を落ち着かせて投じた初球。相手の先発・松谷鷹也(2年)の打球は引地のグラブにノーバウンドで納まった。全身に力をこめて、腹の底から叫んだ。何度も何度も叫びながらベンチに戻った。

 

8回にもピンチがあった。この回先頭の大居力哉(3年)にレフト前ヒットを打たれ、さらに、キャッチャーのパスボールで進塁を許した。無死2塁。ここで2回目のタイムをとった東日大昌平。引地はまたも、青木にほっぺたをムニムニされた。気合を入れなおし、菊地啓聖(1年)をスリーバント失敗で打ち取る。その後、ショートゴロ、ファーストゴロでしのいだ。

 9回表、ポンポンと2死を奪う。勝利まで、あとアウト1つだったが、ここでセカンド・青木がエラー。今度は引地がなだめたが、「うるせぇ」と言わんばかりに頭をポンとはたかれた。最後は、またも青木のところに打球は飛んだ。が、今度は落ち着いて裁き、それを見届けた引地は両手を突き上げた。ピンチを凌いだときの雄叫びはなかったが、「してやったり」といった感じの表情で仲間とハイタッチを繰り返した。

 

吉田幸祐監督は「見た目は幼く見えるんですけど。自分らしくできますよね。気持ちが乗っていましたよね」と褒めた。
緊張の初戦を4安打完封で飾った引地は「弱気を強気で抑えられた」と振り返った。試合中、見えない敵と戦っていた。それは、弱気の自分と強気の自分。ところどころ出てくる弱気な自分を、胸を叩いたり、声を出したりすることで押さえ込んでいた。そうすると、強気な自分が現れて、相手に立ち向かっていけた。引地は言う。「野球は喧嘩だと思っているんで」。悪い意味はない。「バッターとの1対1の勝負が楽しくてピッチャーやっているんで。相手はノリがよくて、向かってきてくれた」。男の1対1の勝負。孤独なマウンド。いくら仲間が守っていても、試合を左右するボールを握っているのはピッチャー。全員で戦う競技ではあるけれど、ピッチャーはそれくらいの気持ちがないといけないのかもしれない。

 

感情を出すことに歓迎されない風潮があるが、それは「態度」によると思う。
むしろ、昨今、感情のコントロールができずにいる人間が多い中、こうして喜怒哀楽を表現できるのはいいことではないか。人を小ばかにしたような態度はいけない。でも、勝負を楽しむ中で、互いに意地と意地をぶつけ合う中で生まれる感情は、抑えてどうなるものか。

静かに淡々と投げるタイプの選手に叫べとは言わない。だけど、声を発することで能力を出せるのなら、それを抑えるのはもったいない。

特に引地の場合、全く嫌味ったらしく見えないのは、彼の人間性かもしれない。マウンドを降りれば、素朴な少年だ。

(文=高橋 昌江


[:addclips]

[:report_ad]

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.07.26

新潟産大附が歓喜の甲子園初出場!帝京長岡・プロ注目右腕攻略に成功【2024夏の甲子園】

2024.07.27

昨夏甲子園4強・神村学園が連覇かけ鹿児島決勝に挑む!樟南は21度目の甲子園狙う【全国実力校・27日の試合予定】

2024.07.26

名将の夏終わる...春日部共栄・本多監督の最後の夏はベスト4で敗れる【2024夏の甲子園】

2024.07.26

報徳学園が3点差をひっくり返す!サヨナラ勝ちで春夏連続甲子園に王手!【2024夏の甲子園】

2024.07.26

「岐阜県のレベルが上がっている」県岐商が2年ぶりの決勝進出も、岐阜各務野の戦いぶりを名将・鍛治舎監督が称賛!【24年夏・岐阜大会】

2024.07.25

まさかの7回コールドで敗戦...滋賀大会6連覇を目指した近江が準決勝で涙【2024夏の甲子園】

2024.07.24

享栄、愛工大名電を破った名古屋たちばなの快進撃は準々決勝で終わる...名門・中京大中京に屈する

2024.07.21

【中国地区ベスト8以上進出校 7・20】米子松蔭が4強、岡山、島根、山口では続々と8強に名乗り、岡山の創志学園は敗退【2024夏の甲子園】

2024.07.21

愛工大名電が今夏3度目のコールド勝ちでV4に前進!長野では甲子園出場37回の名門が敗退【東海・北信越実力校20日の試合結果】

2024.07.21

名将・門馬監督率いる創志学園が3回戦で完敗…2連覇狙う履正社は快勝【近畿・中国実力校20日の試合結果】

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.07.08

令和の高校野球の象徴?!SJBで都立江戸川は東東京大会の上位進出を狙う

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.27

高知・土佐高校に大型サイド右腕現る! 186cm酒井晶央が35年ぶりに名門を聖地へ導く!

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」