試合レポート

奈良北vs郡山

2010.07.11

2010年07月10日 佐藤薬品スタジアム  

奈良北vs郡山

2010年夏の大会 第92回奈良大会 1回戦

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本塁打を放った中條(奈良北)

伝統校も、いつかは敗れる。

 去年にも書いたことなのだが、夏の大会にはいろんな視点からの楽しみ方ができるものだ。
たとえば、将来のプロ野球候補生を追いかける。
たとえば、大会のチャンピオンを追いかける。
たとえば、1試合のドラマを追いかける。
たとえば、高校野球らしい、球児のひたむきな姿を追いかける、などだ。
時と場合、対戦カード、いろんな要素で楽しみ方ができる。

 10日に開幕した奈良大会では第2試合でいきなり波乱があった。奈良県3強と言われる公立の雄・

郡山

が初戦で敗れたのだ。1990年夏以来の大番狂わせである。「大会のチャンピオン追いかける」視点で、この試合をリポートしようと思う。

郡山

のような強豪であり、伝統校は終盤にかけて、力を出してくる。8、9回に迫られた時は、いよいよ来たな。そんな感じで見ていましたね」。そう話すのは大仕事をやった奈良北・松元隆監督である。こみ上げる感情を抑え、冷静に語っていた。

チャレンジャー精神で番狂わせを目論む奈良北と、伝統校でそうはさせまいとする

郡山

との意地のぶつかり合いは、特に終盤戦、白熱した。

序盤は奈良北が攻勢だった。1回表、2番・今西が左翼スタンドに先制本塁打を放りこむと、これで勢いに乗った。3回表に徳岡の中前適時打で1点を加えると、5回表には1番・山本の本塁打などで一気に4得点。6-1と試合を大きくリードしたのである。

 とにかく、奈良北の思いきりのいいスイングが際立っていた。迷いなく振り抜かれるスイングは、彼らの思いを感じるものである。松元監督は言う。
「昨秋は

智弁学園

と競りながら負けて、春も、

郡山

にコールド負けしていました。本数で振り込んだりとかは、ウチの環境では多くできませんので、選手たちに言ってきたのは、自分の追求するスイングをしようと。相手どうこうではなくて、自分たちのスイングを追求してきた成果だと思います」。

 一方、

郡山

・西岡監督は、奈良北打線が振り抜いてくることは熟知していた。特に、先制弾を打った今西に対しては要警戒人物と、バッテリーには伝えていた。

ところが、奈良北・今西が

郡山

バッテリーの警戒を上回る先制の本塁打を放ったことで、

郡山

は完全に後手に回ってしまったのだ。長打を恐れた配球が外中心になり、それを狙い打たれた。「守備の時間が長くなりましたし、もともとは守備でリズムを作っていくチームですので、序盤は苦しかったですね」と西岡監督は振り返った。

バッティングの面においても、春季大会で見せたような、センター方向に着実に打ち返すのではなく、フライを多く打ちあげてしまった。序盤の流れは、完全に奈良北だった。
勝負を分けるとすると、

郡山

が猛追をしかけてきたときに、どれだけ奈良北が踏ん張れるか。突き放せるか。試合のポイントは終盤にあった。

 7回裏、

郡山

が反撃に転じる。相手投手・今村の制球難に付け込み、無死満塁の好機。2者は凡打に倒れたが、4番・藤井が適時内野安打を放ち1点。8回表の奈良北の好機を見事な中継で本塁封殺にすると、8回裏に、また反撃。
 四球と赤熊の右翼前安打などで1死満塁とすると、まず、ワイルドピッチで1点。1番・田村が右翼への犠牲フライ。1点を返しただけだったが、ここで奈良北の中継が乱れる間に、二人目もホームイン。その差を1点差としたのだ。

郡山

の圧力に、奈良北の守備陣が乱れた。失策もそうだが、カバーリングにも遅れ、第2、第3のミスを犯してしまっていたのだ。2番・明崎の四球の後にも、3番・西田の三塁ゴロを悪送球。失点にはならなかったが、あわや逆転かというほどのピンチを招いていた。それほど伝統校・

郡山

の攻撃が驚異的だったのだ。

しかし、9回表、ここで奈良北が強烈な一発を浴びせて見せる。3番・中條が、左翼スタンドへ特大の本塁打を叩きこんだのだ。前の打者・今西が見逃し三振を喫していた悪いムードの中での一発だった。

 9回裏、

郡山

は二人の走者を出したものの、これを還せずに万事休す。奈良北

郡山

を破った。

 今日の

郡山

のみならず、強豪と言われるチームの終盤の猛追は驚異的である。「7,8、9回に意識の差が出る。今日のその日だけではなくて、1年間、大げさにいうたら、3年間甲子園のためにという意識の差が、この3イニングに出る」。とある公立校の監督が話していたことがある。

 終盤、試合を眺めながら、そんな言葉を思い出していた。ここで伝統校は敗れてしまうのか、それとも、それを超えうるものを奈良北は持っているのか、と。
終盤は実に白熱していた。奈良北が一歩上回ったが、両チームの関係者の言葉が印象的だった。

郡山

は伝統校ですし、いろんな方が応援してくださっていたんで、(負けたことが)残念で、残念で…」(

郡山

・藤井主将)
「練習で昨年秋とこの春の敗戦を意識して、振り込んできたことの成果。今日は出来すぎもありましたけど、

郡山

に勝てたことを、これから、(チームとして)誇りにしてくれたらと思う」。(奈良北・松元監督)

伝統校と言えど、いつかは敗れるものだ。早々の敗退もいつかは訪れる。

郡山

にとって、初戦敗退は1990年以来だが、番狂わせを起こそうとするものと、それを防ごうとするもの。
そのぶつかり合いが見ていて、楽しいのだ。

(文=氏原 英明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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