【特別企画】 高校スポーツのあした(6)
独占インタビュー 第46回 【特別企画】 高校スポーツのあした(6) 2010年05月28日
11.言葉の力
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【国分先生】
「佐藤」 先生はもう、優勝、帯びたる数があるんだから、お聞きしたいんだけど、いつも私もね、頭の中でね、悩むところがね、これだったら日本一になれるという条件を提示しろと言われたら自分で提示できるかな?っていう問題があるんですよ。
「国分」 うん、うん。
「佐藤」 留学生入れるとか、何とかの問題じゃなくて。多分、先生あたりだったら、こういう条件が整えば、絶対優勝できますと。多分、先生にはそういうのあるんでしょ?やっぱり、ここだったら優勝できるとか。
「国分」 このくらいだったらってね?あくまで敵がいる話だから。
「佐藤」 うん、うん。
「国分」 敵がそれ以上の準備する場合もあるよね。でも、このくらいだったら日本一に届くだろうっていうのはありますね。
「佐藤」 あるんでしょう。佐々木先生もあるの?
「佐々木」 あったので、去年は日本一と言ってみたんですけど(笑い)いける要素があったので。
「佐藤」 それを結局は、育てればいいわけでしょ?そのラインまで。逆転現象を起こしながらもね。多分、私なんかも、1回ベスト8とかベスト4とかに入ったら、次もベスト4とかベスト8なんて言っていられないよ、と。とんでもない話だから。優勝しか狙えないんじゃないの?と持って行くわけですよね。やっぱりこの、監督っていうか、ヘッドコーチがこの、どこまで彼らのモチベーションを上げていくかっていうね、もの凄く大事なことだなって、先生言われるように、最初から初戦突破っていう目標っていうのは、それはないだろうなと。まして、初出場でないんであればね。
「国分」 私がすごく興味のある話でね、こんなことを聞いたことがあるんですよ。このくらいの瓶にね、このくらいの高さの瓶にノミを入れておいて、蓋をしておくんだって。ノミは3㍍から5㍍を簡単に跳ぶんだけど、ノミが跳ぶとね、ぶつかってさ、要するに蓋があるからノミがこうやって跳べないわけだ。3㍍から5㍍跳ぶ能力がありながら。そして、時間が経ってから蓋を取るとノミが瓶からポーンと跳ぶかっていうと、もうノミは。
「佐藤」 跳べないわけだね。
「国分」 これにすごい強烈な印象があってね。能力がありながら、何回か失敗をしたり、あるいはここまでベスト8までいけばいいやって満足したりしていると、本当は優勝する力がありながら、ただ、自分では気がついていないんだよ。力がありながらベスト8でね、いつも終わってしまう。最初に話したように、高校生ってのはこのチームこんなに強かったのかって、最初、こんな風に思わなかったっていうくらいに変わるっていうのは、指導者も選手も自分でも気がつかない力っていうのが人間にはあるんではないんだろうか。これを引き出す方法っていうのは、目標を高く設定するっていうのか。少なくとも、私のチームに入ってくる選手たちも明成高校に入ってくる選手たちも花巻東に入ってくる選手たちも、気持ちの中ではさ、自分には少し、力はねぇかなと思いつつも。だって中学時代、ここまでしかできなかったんだからと思っているとか、どこどこのあいつに負けちゃったからとかっていう、要するにこの蓋の部分がどっかにあって、その初戦突破とかベスト4とか言っているだけで、本心は、俺は、高校生はどんなに自分に能力がなくても、できれば優勝したい、優勝旗持ってきたいっていうのが本心だと思うんだな。
「佐藤」 そうですね。
「国分」 本音に迫った方が、隠された才能が開く可能性が高いんじゃないかと。絶対に開くとは言えないけれど。
「佐藤」 高校男子バスケは4500校ある。4500校どこでも日本一になる、チャレンジすることはできるんですよね。じゃあ、本気になって日本一にチャレンジしているのはどれくらいあるか、その数は分からないけれど、本当にごく一部であって、指導者の、私なんかはあの、選手たちに最初から日本一狙えっていっても、全くわからない。だから、去年の先輩の結果を越えなさいと。そこで届くところの目標を定めちゃう。そこを越えたらあなたたちは優勝できるよと。なんか、そんな感じでモチベーションを上げていくように。で、とにかくきつい練習の時には、これを越えれば日本一になれるって言い聞かせてその気にさせておく。これはすごく大事なことかなって思うね。
「国分」 私、ここ15年間ね、夏の甲子園と春の甲子園の出場チームの談話をね、調べたんですよ。私、全然わかりませんよ、野球のチーム。でもね、やっぱりこう、日本一になります、とかね、一戦必勝で頂点を目指します、とかね、そういう風に言ったチームからしか優勝チームは出ていないよね。
「佐藤」 なるほど。
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【佐藤先生・】
「国分」 自信があるからそう言っているのか、そう言うからそういう結果が出ているのか、それは分からないけれども。
「国分」 去年だったらば、春のセンバツは32チームのうち8チームだったんですよ。夏の甲子園は7チームだったね。例えばだよ、去年、21世紀枠で出た宮城県の利府高校がさ、「組織力で初優勝」って言っていたんだよ。そして、佐々木先生のところは「初出場初優勝」だろ。で、去年の夏のさ、準優勝チームの新潟県。新潟県ってなんか、日本で一番弱い県だったんだよね。47都道府県で47番目だったか、過去の甲子園の勝ち星が。それが決勝まで行ったんだよね。それで俺もいろいろ調べてみたの。監督が大井さん(大井道夫氏)ともちょっと話をしたり、手紙のやりとりをしたんだけれど。それまでさ、いつも練習場にさ、好球必打って垂れ幕を作って張って練習していたんだけどさ、去年の春のあたりからさ、全国制覇っていう垂れ幕に変えたんだって。北信越ブロックでも新潟県って一番弱くて、松井秀喜を生んだ石川県とかが強くて、北信越っていう狭いブロックでもカモの県だったのが、北信越で優勝して、夏の甲子園では準優勝でしょ。やっぱり俺は言葉って言うのはね、特に指導者が何を言うかによって、今の子どもっていうのは、その言葉の裏にあるものを読む力っていうのはもう、すごく劣ってきていると思うんだよね。
だから、監督が本当は俺は勝ちたいんだけど、まずは初戦だってこう言えば、その言葉が全部に取っちゃうんじゃないかな。俺はこうやっておまえたちのプレッシャーを少しでも楽にしてやりたくてこう言っているんだぞ、本当は俺だって勝ちたいんだぞって思っているけれども、口に出して言わないと、今の子どもっていうのは裏を読む力、この人は本当は何を言いたいのかっていうことをね、読む力がないが故に強い言葉を発しないとダメなのかなぁって俺思うなぁ。
「佐藤」 よく、オリンピックに行く時、「メダルを取れるように頑張ってきます」というのと、「必ずメダルを持ち帰ってきます」という言い方と、「金メダル取ります」とかってこう、そんな言い方があるじゃないですか。それによって、自分自身にプレッシャーをかけるっていうか。それから、これも能代工業の加藤廣志さんの話なんですけど、言ったことで自分にプレッシャーをかけて、それの責任を果たそうと自分で努力する、やっていくっていう、そういうのも一つあるのかなって。言ったことによって、やり遂げなきゃいけねぇんだっていう、それもあるのかなって思いますね。
「国分」 私、大学(東北福祉大)でヒューマンデザインっていうのをやっているんですけど、スポーツ界だけじゃなくて、経済界とか芸能界も含めて成功した人を調べていくと、みんな、私が思うには、確かに天才的な人もいるけども、それは本当にごく一部なんじゃないだとうかと。ほとんどの人の能力はそんなに変わってはいないんじゃないかと。変わっていないんだけども、それがすごくなったり、すごくならなかったりするっていうのは、自分の退路を断った人間が結局、逃げ道がねぇから自分の言った方向にこう、進むためにパワー全開でやったときに、その分野でね。成功を収めたり、良い結果を残したりしているんじゃないかなと。八代亜紀(演歌歌手)にしたって、東京に行って歌手になりたいと思って来たけど、持っていた金は?っつたらもう、片道切符代しかねぇと。帰る運賃はないんですよ。野口英世にしたってね、治さなければ帰ってこねぇってことを柱に刻んで行くでしょう。人間っていうのは、もしかしたら、自分を伸ばすことも大事だけども、逃げ道を自分でぶった切るっていうのかな。ふさぐっていうのも一つの力の出し方なのかなぁって。
「佐藤」 あるかもしれませんね。
「国分」 その一つが言葉なのかなって。金がかかんなくて、誰でもできる方法っていうのは、言葉っていうのが一つのすごい武器じゃないのかなぁって。強いチームを作るからっていうのは、そういった点で言葉に力があるんじゃないかと、私は思うんですけどね。
「佐藤」 多分、言葉に工夫はしているでしょう。言葉の、工夫。
「国分」 あ、工夫ね。
「佐藤」 うん。多分、そういうのはね、あるんじゃないかなぁと思う。前の楽天の監督、野村(克也)監督なんかは、そういう意味ではね、「ぼやき」と言っているけれど、私はあの人の哲学を言っているのかなって気がしてならないですね。選手に求めているってものは、人間の成長なくしては技術の進歩はありえないんだと。プロの世界でそれを言い切っているっていうのはね、プロの選手でもプロらしく育てていくんだって、彼独自のいわゆる「ぼやき」とは言うけれど、彼の哲学をいろいろな言葉に変えて、あれはやっぱり説得力があると思うんですよね。我々がやらなければならないことは、かなりきついこと、無理な要求をしておいて、その要求が当たり前にできるようになった時に初めてチームの強さというのが出てくると思うんですよ。その時、選手に、あの監督は怖いのか、厳しいのかと、問いかけた時に、私はがっかりするんですよね。「佐藤久夫は怖い」っていう評価。怖いと厳しいじゃ違うよ、と。一度ね、涙出てきたことがあったんですよね。言ってくれるんだったら厳しいがいいと(笑い)やっぱり、その、雰囲気と言葉っていうのを、みなさんも持っているんじゃないかなと思いますね。
12. 部活動と人間づくり
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【佐々木監督】
「国分」 国分先生の厳しさっていうのはね、たぶん、その子どもたちが、いざ自分が家庭を持って、子どもを育てていく時にね、「あぁ、久夫先生がいたからだ」って必ず振り返るんじゃないですかね。
「佐藤」 例えば、みんなに「あんぱんと牛乳でも買ってこい」って言って、「あんぱんを今度食うときには、この条件を忘れるな」とかさ(笑い)そうやってね、大人になっていく時でも、「これは忘れるなよな」と、そうやって言っていくことによって、厳しいと怖いとの差は、彼らは分からないけれども、あの先生のためにとか、あのヘッドコーチのために俺はがんばるっていう、粋に感ずる部分ですかね。あとはね、そこをどうつないで、この選手とね、持って行くか。あまり宗教的じゃダメだと思うけど、カリスマだから(笑い)そういうところっていうのは、言葉とかで成り立っていくものかなって思うんですよね。
「国分」 私の教え子にもね、岩沼から入学してきてね、身長が178センチかな。体重80キロくらいの、中学時代だよ。そういう子どもが来て、自分のうち(寮)で預かったんです。その子は中学時代、県大会で1回戦負け。結局、私が全国初優勝した時のエースアタッカーなんですけども。卒業してから今度は筑波大に行ったんですよ。
その当時、筑波大はね、学年で3番以内じゃないとダメだっていう、3年間ですよ、そういう条件だったんです。筑波大に行って、同級生と結婚して、そして、千葉県の方にいるんですけども。それでね、ある時、深谷高校の男子のバレーボールのキャプテンがね、その子の息子だったんだよね。深谷って埼玉県でしょ。「おまえ、何で千葉から埼玉に行かすんだ」って聞いたらね、「先生の寮での生活、学校での生活があったから、寂しいけども、親元を離そうと。そして、離すならやっぱり、いい先生のところでやらせたい」と言ってね、2人の兄弟をそこに入れて、2人とも筑波大に行って、学校の先生になったのかな。そういう時にやっぱり、嬉しいなぁ。たぶん、俺も嫌われていたしさ。このくそおやじとか思われたと思うんだけど(笑い)やっぱり、教育っていうのは、その時に嫌われてもね、子どもを生んだ時に、そして、子どもをどういう風に育てようと思った時に、「あの先生」ってこう、思い出してもらえれば、その時、本当の全国優勝があるんだなって思ったね。
「佐藤」 だから、指導者っていうのは、自分の言ったことが目に見える効果しか期待しないのよね。先生が言っているのはね、卒業してから10年後、20年後の教育なわけ。それがね、指導者の本当のゴールなのかなと思うんですよ。学校教育活動の中で、スポーツを指導する。それはやっぱり、10年後、20年後先の人生。それに対して、問いかけていく。それが指導者として最終的なゴールなんでないかなと、私は思うんです。先生みたいな話を聞くと、うらやましい。本当にね、私なんてまだまだ。
「国分」 いや、いや。失敗もあるんだよ。恨んでいるやつもいると思うの(笑い)あんな人の指導を受けたと思われているかもしれないけれど(笑い)
「佐藤」 でも、うらやましいですよ。高校時代の強烈な印象なんでしょ。その強烈な印象を、自分の生活の中に入れたということがすごい。素晴らしいですよ。
「国分」 そういうね、嬉しい話もあるんですよ。これがやっぱり、指導者冥利かなと思ってね。佐々木先生は34歳でしょ。私ね、佐々木先生の記事をいろんな雑誌とか新聞とかで見てですね、「へぇ、34の時の俺と比べたら月とすっぽんぐらいすげえなぁ」と思うんだけど。
「佐藤」 あれ?でも、先生、全国制覇何歳の時?
「国分」 35の時です。
「佐藤」 なんだ、1つだけなんじゃ(笑い)
「佐々木」 すごいですね(笑い)
「国分」 俺はさ、「まず、一番は勝つことだ。勝たなければやることないだろ」と、こんな感じだったでしょ。彼の場合にはね、菊池雄星(西武)にしたってね、佐藤涼平(日体大)にしたってね、すごい人間教育っていうのがね。私の人間教育も、自分なりに作ってきたと思っていたけれど、考えられないくらいハイレベルなんだなぁ。先生どうですかね?部活動と人間づくりっていうか。
「佐々木」 これは、勝つことと人づくりですね。勝っている、日本一になっているチームで、ただ勝つだけのチームってたくさんあるんです。教育者として、一生懸命人間づくりしていてですね、ブレ始めた時があったんですよ。こんなことをしているから勝てないのかもしれないと思ってですね。ブレ始めてきた時にある方にご相談したらですね、「理念がないからだ」ということを言われてですね、理念持ちなさいと。勝つことと人づくりを両方やろうということで。野球って得てして多いんですよ。ちゃらんぽらんにやっていてですね、ちゃらんぽらんの方が活躍するんですね。なので、それをちゃんと立ててから迷わなくなりました。こういう人間をつくりたいんだとか。尚かつ、勝って初めて証明されるので。もちろん、一流の選手もつくり出したいっていうことも改めて文章にして、今はブレずにやるようにしてですね。(甲子園で)結果を出したかったんですけど、日本一になったら認めてもらえるかなと思ってですね。
第7回に続く【全8回】