Column

日常生活を力にするためにできること

2010.05.04

人間力×高校野球

第11回 日常生活を力にするためにできること  2010年05月05日

 山形中央【写真提供:宮坂 由香

  

日常生活と高校野球の関わりについては、ここのコラムで何度も書いてきた。
日常生活の強さ、弱さが、試合の中での力につながる。いわば、それが人間力だと言い続けてきたのだが、 興南高 の初優勝で幕を閉じた今年のセンバツ大会でも、そうした日常生活の取り組みを力に変えたチームがいくつかあった。そのうちのひとつが、21世紀枠で出場の山形中央高校だ。

1回戦で 日大三 と対戦し、4-14と敗れたのだが、彼らが序盤からしかけた先制攻撃には光るものがあった。1回表、3安打を放って2点を先制。準優勝を果たした 日大三 を前にしても、臆することなく試合開始から相手に向かっていたのだ。

初の甲子園出場という舞台の中でも彼らは序盤から力をいかんなく発揮した。5回表には一時、同点にするなどの健闘をみせたのだ。
なぜ、彼らにはそれができたのだろう?
試合に敗れた悔しさが充満している中、庄司監督は胸を張ってこう言った。
「日常生活から意識していたことが少しは出せたかと思います」

「少し」という部分に引っかからないわけでもなかったが、取材を進めていくと、その意味が読み取れた。奈良崎主将が、こんな話をしていた。
「日常生活でも、普段の練習からでも入り方を大切にしてきました。朝の挨拶をしっかりするとか、練習のスタートからしっかりするということですね。ずっとそれを心がけてきたので、こういう舞台でも、うまく入れたと思う」
実に奥が深い話である。
人の行動は突然、変えることはできない。普段からの癖や習慣というものは、培われていくもので、突如、変わるということはないと僕は思っている。山形中央でいえば、それが何事においても、行動を早くに起こすということであったようだ。

結果は結果として受け止めなければいけないこともある。序盤の入りは良かったものの、その後が続かなかったことは反省材料。勝つためだけに野球をやっているチームではなかったとしても、甲子園に来た以上は、勝利を目指す中で得られた反省点を持って帰ることは大切である。
庄司監督は「甲子園にもう一度帰って期待とかいう想いだけではなくて、行動を起こせるような強さを身につけたい」と、気持ちを引き締め直していた。
序盤の入りで鮮烈な戦いをみせた山形中央が、今後、どのような取り組みで、日常生活を送り、そして、甲子園に帰ってくるのか。個人的には非常に興味深く見守りたい。


興南ナイン

優勝した興南もまた、日常生活の力を野球に変えたチームである。
準決勝進出を決めた日の試合後、あまりにも見事にバントが決まるので、その成功率の秘訣を我如古主将に、質問すると伺うと、彼はこう語り始めた。
「普段から、チームでボランティア活動に積極的に参加して、ゴミ拾いをやっているのですが、ゴミ拾いをしていると、バントが上手くなるんです」
これだけは意味難解だが、続けて我如古はいう。

「ゴミって小さいじゃないですか、そういうのに気遣っていると、小さいことに気付けるようになる。それで、バントがうまくなるんです」。

日常からの小さな心掛けが野球につながる。
口で説明するのは簡単ではあるけれど、実践している選手の言葉だから、なお一層、重みを感じる。
興南といえば、エースの島袋の絶対的な存在感を優勝の要因に挙げる人も多いだろう。確かに、島袋の存在は大きかった。しかし、彼だけではないし、彼も、技術力だけで、あれだけのピッチングができたわけではない。仲間と一緒になって、日常生活を力にしてきたからこそ、彼は中心になれた。興南は優勝したのだ。
 「誰でもできることを、一生懸命できる選手は大舞台でも力が発揮できる」。
我如古は我喜屋監督から感銘を受けた言葉を聞くと、そう返してきた。
技術力を高めることは大切である。それがあってこそ、結果は得られる。だが、それと同じくらいに(いや、それ以上に)、技術以外も大切である。

日常生活を力にして――

あと3カ月後に迎える最後の夏に向けて、すべての高校球児が取り組める、一大テーマではないだろうか。

[:addclips]

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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