登美ケ丘vs王寺工業
登美ヶ丘が王寺工を下しベスト4に進出。
試合前のレギュラー陣たちの‶配慮″を見れば、このチームが目指している野球が見える。
グラウンド整備を終えて、引き上げてくる控え選手一人ひとりに御礼をいう王寺工ナインの姿は、部活動の持つ意味の大きさを教えてくれる。彼らは勝つためだけに野球をやっているのではないのだ。仲間と汗を流し、協力しあい、一つのチームを作り上げている。
試合は、連投の疲れを感じさせなかった 登美ヶ丘 の先発・田村の前に、王寺工打線が要所を締められ、逆に、プロ注目右腕と称された、エース・桑原は力みからボールが切れず、打ち崩された。
2回裏、 登美ヶ丘 は先頭の赤鹿が中前安打で出塁、二つの犠打のあと、7番・中谷が左翼前安打にはじき返し、1点を先制。3回裏には1死から1番高橋が右中間を破る三塁打で出塁、2番・藤井の遊撃ゴロで高橋は三本間に挟まれるも、2死四球の後、5番・時津が右翼前に落とし、2点を追加した。1点を返されたあとも、即座に反撃。6回裏には、犠牲フライで1点、さらには中谷の左翼スタンドへの特大本塁打で追加点を挙げ、試合を決めた。
王寺工はエースの桑原が不調だった。
山口監督は「連投の中で、どれだけ、下半身を使ってということをテーマにしてきましたけど、今日は彼、本来の力ではなかったですね。連投した投手がきょう、苦しんでいる中で、 登美ヶ丘 の田村君だけがいいピッチングをした」と振り返り、敗戦を受け止めていた。
ただ、この結果だけで、桑原を評価したくない。個人的に目を奪われたのはマウンド上での気迫や野球以外の部分だ。本人は「目標とするのは岸(西武)」と話すが、その姿は田中将大(楽天)を見るかのような、気合がみなぎっている。投球フォームや技術力が似ているということはないが、鬼気迫るマウンド上での雰囲気は彼のも強さである。本人は「力みすぎてしまった」と猛省するが、それくらいが彼の持ち味が出る。
そして、彼の姿にもっとも目を奪われたのは試合後の立ち振る舞いである。
球場での試合をする場合、当日の最終試合となるチームの選手はグラウンド整備をしなければいけない。もちろん、連盟の役員や球場係もやるのだが、それだけでは手が足りずに、両チームの選手たちが手伝うのだ。そうした場合に、大抵は、補欠の選手がする場合が多く、特に登板した投手が整備するケースは多くはない。
桑原は自らのダウンを後回しにして、トンボを持って、マウンドへ向かったのだ。
それだけではない。
ブルペンにも向かい、練習に使ったマウンドを整備していた。桑原は言う。
「自分の使ったポジションは自分でならす。転勤された原田前監督にそう言われてやってきました。自分のポジションを大事にすることは当然のことだと思います。集中力にもつながってきます。キャプテンを中心に、そういうことをしっかりやっていこうといっているので、この部分だけはどのチームにも負けてない」。
敗戦という悔しさが残る状況下の中でも、日ごろの決まりごとを怠らなかった姿勢は、彼の人間力、そのものを表すものである。
この4月に就任したばかりの山口監督は言う。
「先へ先への向上心の強い選手ですね。僕は冗談で、『お前みたいな注目されるピッチャーをいじってつぶしたら、色々言われるから、何も教えない』と。でも、彼は教えてほしいといってきます。彼だけでなく、このチームにきて思ったのは精神的な部分がしっかりしているということ。試合前はさすがにできませんが、試合後のグラウンド整備とか、全部レギュラーがやるんです。前任の原田先生がそういう指導をされてきて、精神的に素晴らしいチームができていました。まだまだ、このチームは伸びると思います」。
試合前に見たレギュラーたちの配慮はチームの約束事があるからだ。
仲間の大切さを知り、自分は一人で生きているのではないということを理解する。
勝つためだけではない。
王寺工の目指す野球には、クラブ活動の素晴らしさを伝えてくれている。
(文=氏原英明)
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王寺工業 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | ||||||
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登美ケ丘 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | X | 5 |
王寺工業:桑原―児玉 登美ケ丘:田村―高橋
本塁打=中谷(登)三塁打=高橋(登)二塁打=小玉、植田(王)赤鹿、辻本(登)