王寺工業vs山辺
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【王寺工業vs山辺:スコアボード】
記録的大敗の先に見えたもの。
スコアボードの絶望的な数字を見て、ふと、思った。
「果たして、自分がこのチームにいたら、何ができるのだろうか?」と
0-53。
4回表の王子工が終えた時点での、 山辺 に突き付けられた現実である。
たまらず、山辺ベンチの脇から試合を観戦し、この絶望ともいえる相手との差を感じることにしてみたが、 山辺 ナインは誰ひとりとして、下を向いてはいなかった。
打席に向かう選手を、大きな声で激励する。部員が少ない中で、ベンチワークもままならない状況でも選手たちは声をかけ続けた。
4回裏、先頭の4番・辰巳が相手の失策で出塁、喜多監督は5番の濱井に犠打のサインを出す。メッセージは「1点取ろう」である。 しかし、バントは決まらず、結局、濱井は三振。二走・辰巳の三盗も失敗に終わった。
5回表、王子工の攻撃を0点に抑えた 山辺 は、その裏、走者を出すも、盗塁が失敗に終わり、万事休す。
0-53で試合は決してしまった。
試合後、 山辺 ナインはじっと見つめてみた。これだけの大敗をした後の、彼らの立ち振る舞いが気になったからだ。ふてくされている選手はいるか、投げやりになっている選手がいるのか、それを確認したかったからだ。
彼らは下を向いてはいなかった。指導者らの言葉を真剣に聞き、整列してグラウンドを後にしていった。
改めて、彼らの姿を思い出してみた。53点を取られても、ボールに食らいつこうとした姿勢と1点をもぎ取ろうとした前向きな気持ち、試合度の立ち振る舞い、そして、ユニフォームの着こなし。
高校球児の姿としては抜群だった。常に一生懸命だったし、イマドキの高校球児の流行りでもある、そり上げたまゆ毛や、型がついた帽子はみられなかった。
しかし、お世辞にも彼らは野球が上手な集団ではなかった。それどころか、キャッチボールすらまともにできない集団だった。
彼らのために自分なら、何ができるだろう。
「あれだけ、点差が離れてて一生懸命やっている。それが素晴らしいやんか。普通、10点くらい離れていたら、諦めてるよ。そこらへんの強い学校の選手が、そこまでできるとは思えへんよな」。
ある連盟の先生がそう漏らした。
僕のできることといったら、彼らを見守ること。
0-53から、彼がどう成長していくのか。
これから彼らの挑戦は始まるのだ。
始まりをみたものとして、彼らの夏の雄姿を追いかけたいと思った。
(文=氏原英明)
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