Column

ピッチングとフィジカルテスト及び球速との関連性について

2010.04.14

殖栗正登のバランス野球学

ピッチングとフィジカルテスト及び球速との関連性について2010年04月15日

 前回の第8回『ピッチングトレーニング理論編1 ピッチャーの体調管理とシーズンオフの過ごし方』 でピッチャーのトレーニングについてお話させてもらいましたが、はたして何を目標にトレーニングをすればいいのか、これを明確にしないとトレーニングとは言えません。

 私も選手として、トレーナーとして、長きにわたりこの世界に関わってきました。選手時代は、いろいろトレーニングについて調べ、自分の体で試し、結果を出して、というサイクルを繰り返していました。そしてトレーナーになり、いろいろな選手をみてきました。トレーニングもその時代時代に流行ったトレーニングなどもどんどん取り入れてきましたが、それがどれほどピッチングに反映したのかがさっぱりわかりませんでした。だからこそ、いろいろなトレーニングに飛びついていったのだと思います。

 特にランニングについてはどの位の距離を、どの位の量走ればピッチングの能力が上がるのかずっと疑問でした。高校、中学はひたすら毎日10km走って、家に帰れば5km走ったり、高校時代には親に頼んで駐車場にバーベルセットを用意してもらったりと、自分なりに研究したものです。しかし、答えがないのでいつも、ただやるだけのトレーニングになっていました。

プロ野球ピッチャーの体力レベル

 当院に来る選手にはあるプロ野球チームのピッチャーの体力レベル(一番上のレベル)を示しています。

  平均 MAX
身体筋力
握力 利き手 59.7kg 73.0kg
非利き手 56.3kg 68.0kg
背筋 206.2kg 272.0kg
腹筋(10kg錘付、傾き有) 12.6回 26.0回
筋持久力(30秒腹筋) 35.1回 45.0回
パワー系
垂直跳び 68.2cm 82.0cm
10m走 1.29秒  
30m走 3.68秒 3.5秒
50m走 6.24秒 5.59秒
100m走 12.11秒 11.27秒
柔軟性
体前屈 15.3cm 25.5cm
上体そらし 61.1cm 79.0cm
呼吸循環系
肺活量 5132cc 6800cc
神経系
反応時間 290msec 353msec

 ちなみに参考までですが、有勝利のピッチャーと非勝利のピッチャーのフィジカルで差が出たのは背筋と握力です。このデータを見て思うのですが、私の見ている選手でも背筋、50m走、垂直跳び、握力の4つがこちらの数値に近いデータを出せる選手は、プロや上のレベルに進んでいる傾向を感じます。

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プロ野球ピッチャーの体格

  平均
身長 180.8cm
体重 79.7kg
体脂肪 15.70%
除脂肪体重 67.0kg
MAX 80.9kg
MIN 57.2kg
頭囲 56.9cm
頚囲 37.3cm
胸囲 95.8cm
腹囲 82.3cm
腰囲 97.2cm
上腕囲 右:28.7cm
  左:28.7cm
前腕囲 右:27.3cm
  左:26.8cm
大腿囲 右:58.2cm
  左:58.5cm
下腿囲 右:38.8cm
  左:38.7cm

 ピッチャーの体型でわかるのは、まず体が大きいということ、そして、除脂肪体重(筋肉のだいたいの量の事)の最小が57.2kgであることです。単純に言えば、筋肉の量は、57.2kgは最低ないといけないと考えられます。しかし、この量は平均から10kgも少ない量ですから、さらにテクニックが求められると思います。

 よく選手に、「目先のことではなくプロまで目指すなら、最低限の筋量はつけよう」と話します。だから私はウェイトトレーニングを課しています。他の特徴としては、上腕、前腕ともに利き手の方が太く、大腿筋は踏み込み足の方が太いこと。これは前脚の後部、ハムストリングスが股関節ひいては下半身の回転の支点となり、大腿筋が力点として働くからでしょう。また、下腿は右脚が太いことが見られます。これは、下腿筋は投球中アイソメトリックス(ずっと同じ位置で固定される)で働くことが多いからだと考えられます。特に軸脚は片脚で働き、体を支えることが多いためもあると思います。あと、私は選手のコンディショニングをみて思うのは、非利き手の広背筋の発達です。これはこの筋が上肢の回転の力点として働いているからだと思います。

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球速と身体筋力の関係

 さて、ここで次に球速と身体筋力についての関係を述べたいと思います。

スピード(km/s) 選手 身長(cm) 体重(kg) 体脂肪(%) 大腿四頭筋(kg) ハムストリングス(kg) 腹筋(kg) 背筋(kg) 内旋筋(kg) 外旋筋(kg)
140 高校生A 177 77.5 12.6 84.8 45.9 113 195 16.1 23.2
141 高校生B 175 70 16.2 84.2 40.2 80.5 200.5 17.2 27.4
143 高校生C 175 81 20.71 88.1 44.4 86.3 145.6 16.4 16.6
141 大学生A 179.1 68 × 84.8 46.4 99 181.1 14 23
144 社会人A 181 73 × 94 44.4 94.5 182 14 20.4
147 プロA 181 85 × 96.3 53.3 128 213.2 22.5 31.5
150 プロB 186 87 × 109.2 57.8 107 181.8 25.1 21

 このデータからわかるように、スピードが上がるほど、筋力が上がっているのがわかります。大まかに、140km/s以上投げるためには大腿四頭筋は85~90kg、ハムストリングスは42.5~45kg、背筋は180~200kg、腹筋は90~100kg、内旋筋は15.0~18.0kg、外旋筋は20~27kg、150km/sを投げるためには、大腿四頭筋は90~100kg、ハムストリングスは45~50kg、背筋は180~210kg、腹筋は90~105kg、内旋筋は22.0~25.0kg、外旋筋は25~31kg必要と考えられます。

このデータを見て思うのはまず、

①一番大きい力を出しているのはずば抜けて背筋である。また、腹筋はその半分の力である。
②スピードを上げるためにはただの腹筋や背筋ではなく、重りを使ったトレーニングで筋力をつける。
③肩の内、外旋もチューブトレーニングではここまでの負荷はかけられない。
   よって、ここはダンベルを使って筋力をつける。

 実際に、筋力を上げることでスピードを上げた例を見てみましょう。踏み込み脚の筋力が強いのがわかりますし、背筋はみんな210kgオーバーです。 

例1:高校生A 身長 173cm 体重 71.0kg
球速 119km/s 140km/s
大腿四頭筋 50.2kg 76.5kg
49.3kg 78.2kg
ハムストリングス 30.8kg 42.7kg
30.6kg 42.5kg
腹筋 60.5kg 150.5kg
背筋 130kg 213.9kg
外旋筋 11.0kg 14.5kg
例2:大学生(左投) 身長 175cm 体重 81.1kg
球速 119km/s 144km/s
大腿四頭筋 68.3kg 98.1kg
60.5kg 83.2kg
ハムストリングス 38.5kg 52.0kg
36.2kg 47.5kg
腹筋 70.1kg 103.5kg
背筋 140.0kg 214.0kg
外旋筋 8.2kg 18.0kg
例2:プロA(中日ドラゴンズ) 身長 183cm 体重 95.0kg
球速 137km/s 152km/s
大腿四頭筋 87.4kg 92.0kg
89.2kg 94.9kg
ハムストリングス 51.2kg 54.0kg
55.3kg 60.9kg
腹筋 123.1kg 150.5kg
背筋 189.0kg 214.0kg
外旋筋 18.0kg 20.2kg

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フィジカルはプロに近づくことができる

 今回はピッチャーのフィジカルトレーニングをデータ、それと体型・スピードと筋力の相関性についてお話させてもらいました。私は海外で野球を見てきて思ったのが、まず体が大きいということです。

 データから見てわかる通り、上にいくためには最低限の筋量や筋力、走力をフィジカルトレーニングによって作る必要があります。それがフィジカルトレーニングをする理由なのです。ぜひ、体力テストをして具体的な数値として自分に必要な筋力、走力を知って欲しいと思います。

 私が選手に伝えているのは、「フィジカルはプロに近づくことができる」ということです。

 フィジカルは努力次第で上にいくチャンスを作れるのです。ぜひ皆さんも上を目指してピッチャーに必要なフィジカルトレーニングをして下さい。

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参考文献

中村 好志、水野 雄仁(2004)『ピッチング革命―「捻転投法」で球速は確実に20km/hアップする!(The newest science of sports)』 永岡書店

『Training Journal』ブックハウス・エイチディ

『野球批評』オークラ出版 

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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