Column

主観・思い込みを捨てよう!

2010.04.03

安福一貴の「塁間マネジメント」

第1回 主観・思い込みを捨てよう 2010年04月07日

全力疾走が最速なのか?

「全力疾走することがもっとも速い走り方ではない」

 私は埼玉西武ライオンズの片岡易之選手に、そう教えてきました。
野球選手の全力疾走って、強引に手を振って足を動かして……というものがほとんど。でも、それが本当に速いかどうかというと、そうだと言い切ることはできません。

 では、どうすれば自分の最速のスピードで走ることができるのか。
 簡単に言ってしまえば、自分に適したフォームで走ることなのですが、みなさんは練習で自分のランニングフォームを意識していますか?ただ与えられたメニューを一生懸命に行っているだけではないでしょうか。走ること、そして走塁(=ベースランニング)はバッティングと一緒。正しい技術を身につければ向上するものなのです。

 私は盗塁の技術、考え方を総合して「塁間マネジメント」と呼んでいます。27.431mの距離をいかに考えて(マネジメントして)走るか。これは片岡選手が実践して、3年連続盗塁王という素晴らしい結果を出してくれたことからもわかるように、みなさんにとって参考になる話だと思います。
 片岡選手が足でレギュラーを勝ち取ったように、プロ、アマ問わず、監督はチームを勝利に導くために足の速い選手を使ってみたくなるものです。足という武器を手に入れれば、あなたの野球選手としての価値はワンランクもツーランクも上がるでしょう。
 正しい走り方を身につけることの大切さ、走塁技術を試合で結果にいかにして結びつけるか。この連載を通してみなさんにお伝えできればと考えています。

 まず第一回目は、私の具体的な経験をもとに、選手自身も指導者の方々も「走塁」について残念なことに深く気にかけていない、ということをお話します。とにかく今までの考え方を変えてみてください、きっと何かが開けるはずです。

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トッププロにも見られる「思い込み」

選手を指導する安福氏

全力で走ると力んでしまって、そのことがマイナスに作用をする時ってありませんか?

思い切り力を出したつもりが、その通りの力が出ない。
例えば握力計1つを取ってもそう。
グゥーっと力を込めてやるより、パッと、一瞬だけ力を入れる方が良い結果が出たりするんです。走ることも一緒。いろいろなところに力が入ると、関節どうしの運動連鎖がスムーズにいかずに、上手く力を伝えられなく(=速く走れなく)なってしまうのです。

例えばジャイアンツの松本哲也選手。確かに足はものすごい速い。でも、去年の盗塁数は16個しかなくて、失敗(9個)は多い。

 

おそらく、松本選手は全力で走ってしまっているのでしょう。
彼にとっては今のような、大きく手足を動かしたフォームではなく、「こんなんじゃアウトになるんじゃないかな」っていうくらいの感覚で走った方が、盗塁が成功する確率は高くなると思います。
以前、名門の社会人野球チームで走塁の特別コーチとして招かれた際に、たまたま自主トレで来ていたあるプロ野球選手の練習を眺める機会がありましたが、彼もまた“自己流の走り方”で走っていました。速いけど、すごく無駄がある。もっと速くなるのになぁって思いながら見ていました。

こうした例を挙げたのは、トッププロの選手ですら「走塁」についての専門的な指導を受けた経験がほとんどなく、自分のセンスだけでこれまでやってきた言わば我流、とにかく「思い切り走ればいい」という“思い込み”に侵されてしまっている、ということを分かってほしかったからです。
自分にとって「最適な走法」や「最速のスピード」というものがある。
そうした考え方を、いまの選手や指導者の方々に意識づけが出来れば、もっともっと日本野球のレベルは上がるんじゃないか、と思っています。

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埼玉西武ライオンズ・片岡易之の意識改革

選手を指導する安福氏

私は05年6月から片岡選手を指導していますが、まず最初に教えたことも、“思い込み”や“主観”を排除することでした。
トレーニングをするよりも先に、感覚に頼っていた盗塁とか走塁を、理論的に考えることから始めました。まずは自分の感覚、「走りやすい」とか「速く走れていそう」とか「動きが良くなっていそう」とか、そういう主観的な要素を頭から排除させました。

次に「走りとは何か」、というところからスタートして、「走り方が悪いとこうなる」、「良いとこうなる」って、一つ一つ教えていった。片岡選手はノートを持って、私がしゃべったことを熱心にメモしていました。
思えば、コーチングじゃなくて、ティーチング(座学)でしたね。

速く走ることに対しての理解を深める。「速く走るにはこういうことが必要なんだ」と自分で考えることは、絶対に必要です。練習の中でみずから考えていかないと「工夫しよう」という発想も生まれてきませんから。

 片岡選手の頭の切り替えができたところで初めて、数種類のランニングドリル等を指導しました。走り方は30箇所くらい矯正したように記憶しています。
シーズンオフで自主トレ期間中でしたから、毎日彼のトレーニングを見ていたのですが、片岡選手の走塁には、その日その日で必ず何かしら直さなければいけない箇所が出ていました。
でも私が「今日はこうなっている」と指摘しても、片岡選手は「えっ〜そうですか?」って気付いていない。
自分がどんな風に走っているかを自覚するのは本当に難しいことなんです。私も昔、陸上をやっていたんですが、自分の感覚と、映像で見る走りがまったく違うことに落胆していた経験があります。
 指導者などが動きの一つ一つを出来る限り正確に見ているかどうか。これは、非常に重要なポイントです。
 でも、そのことを重く受け止めている指導者が、今のアマにもプロにも、残念なことに少ないのが現状のようです。例えば、重心が傾いたフォームで走っている選手がいたとしても、「体が傾きすぎているから、もうちょっと逆側の方がいいよ」、くらいのアドバイスしかしていないんじゃないでしょうか。
強豪高校、名門社会人チームを出た片岡選手ですら、私に指導されて初めて「走り方の根本が変わった」って話しているのですから。

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大切なのはやっぱり気持ち

選手を指導する安福氏

 片岡選手はランニングドリルをやり始めて1ヵ月の時点で確実に足が速くなりました。
ここまで早く成果が現れたことにスゴイな、私自身も驚きを感じましたが、その理由は二つあるのかなと分析しています。

まず一つは、片岡選手に蓄積があったこと。彼は、小中高、そして社会人と、かなりの量の練習や試合をこなしてきたわけです。昔、どのような練習をしてきたのか、そこまでは分かりませんが、かなり練習してきたことで私の考えを素早く吸収し、それをしっかりと「体現」できる鍛えられた体を持っていた。
もう一点、これが重要だと思うのですが、片岡選手が走塁に賭けていた、つまり意識が強烈に高かったことが挙げられると思います。片岡選手は足を武器にしたい、そして西武でレギュラーを取りたいって、必死でしたから。

とにかく「足が速くなりたい」「足を使える選手になりたい」という気持ちが効果の出現を早めたのです。

 このような事例から分かるように、プロも含めて今の野球界では、選手も指導者もどうしても「打撃」「守備」に目が行ってしまい、「走塁」「ランニングトレーニング」への考え方が疎かになっているようです。
 次回はこのような現状が招いている、プロや高校などで実際に行われているランニングトレーニングの問題点についてお話ししたいと思います。

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みなさんへの質問

みなさんはチームで、どのようなランニングの練習をしていますか?
具体的なメニュー、時間、回数を教えてください。
今後の連載の中で、質問に対してアドヴァイスしていきたいと思います。
質問はこちら

また、トレーナー・安福氏への講習会についての問い合わせはこちら

(構成=鷲崎 文彦)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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