興南(九州)vs日大三(東京)
試合中の一つのプレー・瞬間のジャッジで大きく結果が変わってくるのが野球である。
今大会、松倉雄太が試合を決定づける「勝負の瞬間」を検証する。
折れなかった心
興南エース・島袋洋奨(3年)の心は折れなかった。 日大三 の山崎福也(3年)もまた然り。両投手の気迫がセンバツ21年ぶりの延長戦に持ち込んだ。
決着の明暗となったのが11回と12回の攻防。
11回裏、島袋はこの回先頭の大塚和貴(3年)の四球を与える。後攻めの 日大三 にとってはサヨナラの走者で、何としても二塁へ進めたいところ。小倉全由監督は迷わず、9番の鈴木貴弘(2年)に送りバントのサイン。島袋は強気に攻めた。初球が島袋の前へ転がると、一目散にダッシュし二塁へ送球。見事に送りバントを阻止した。
小倉監督は1番の小林亮治(3年)にもバントのサイン。ここでも島袋の好フィールディングで二塁へ進ませない。2番荻原辰朗(3年)には141キロの直球で空振り三振。この場面では島袋の気持ちが上回った。
12回表、山﨑は1死を取るが、4番眞栄平大輝(3年)のファーストゴロをベースカバーに入った際、ボールを落としてしまう痛恨のミス。わずかな心のスキが焦りと変わる。続く5番銘苅圭介(3年)のはボールが先行。2ボールとなったところで、小倉監督はショートを守る吉澤翔吾(3年)をマウンドに上げた。「1点を取られるわけにはいかない。吉澤の方が球は速いから」と指揮官が説明する継投。しかし、吉澤は準決勝に続いてコントロールが安定しない。準備不足は明らかだった。結局2者に四球を与え満塁に。
そして途中出場の安慶名舜(3年)のゴロを、サード横尾俊健(2年)がホームへ悪送球。貴重な勝ち越し点が相手のミスによって入った興南はこの回5得点。一気に試合は決した。
「結果的には吉澤には負担が大きかったかな」と悔やむ小倉監督。しかし「島袋君が素晴らしかった」と継投失敗ではなく、相手を讃えた。
一方、興南からすればよく大敗しなかったというのが本音だろう。立ち上がりから選手全員がガチガチに硬くなっていた。
その訳は試合前だ。10時10分から行われた報道陣の試合前取材の時は普段通りの様子だった興南ナイン。しかし、グランドに入ると表情が一変する。興南を応援するファンからの声援が尋常ではなかったのだ。
キャッチボールをする時、ベンチに戻ってくる時。ナインが動くたびに、スタンドからは大きな歓声と指笛が鳴り響いていた。前日の準決勝まではなかった光景。この雰囲気にナインは完全に呑まれていた。
シートノックが始まっても動きが悪く、これが試合にも影響。前半は島袋の悪送球で先制を許すなど、最悪の展開。
だが、これを立て直したのも島袋。三者凡退に切った4回あたりから徐々に本来のピッチングを取り戻していった。
打線は初めて先頭打者を出した5回に1点を返すと、グランド整備後の6回には、今度は球場の歓声を味方につけて逆転に成功。その裏に同点に追いつかれたが、エースのピッチングは揺るがなかった。
どんなにピンチを迎えても、「彼には(この1年で)蓄えたものがある」と我喜屋優監督に言わしめる精神力。島袋の心の支柱が、ナインを緊張から笑顔に変えることができた。
甲子園で勝てずに悩み続けてきたエースと、弱いと言われ続け、それを克服した打線がかみ合った見事な初優勝だった。
(文=松倉雄太)
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興南 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 | 10 | |||
日大三 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 |
興南 島袋、砂川 ‐ 山川 日大三 山崎、吉沢 ‐ 鈴木
本=平岩 大塚(日)