Column

県立広島工業高校(広島)

2010.03.22

「野球部訪問」

第2回 広島県立広島工業高校2010年03月14日

加盟校4132校。
全国の高野連の加盟校数である。(2009年5月時点)
様々な環境の下、全国でこれだけの高校で球児達が毎日白球を追いかけている。
今月から新企画・「野球部訪問」は、全国津々浦々、様々な野球部を訪問。
頑張っている球児や指導者の高校野球への取り組みを紹介していく。
第2回は名門・広島県立広島工業高校です。

県立広島工業高校

【練習を見守る沖元監督】

『廣島縣立廣島工業學校』―。
雰囲気のある立派な赤門に訪れた人が思わず立ち止まってしまう。そんな歴史と伝統を感じさせてくれる工業高校は今年で創立113周年を迎える。

“県工(けんこう)”
県内ではお馴染みの愛称で親しまれている広島県立広島工業高校だ。県内には広島工業高校が2校あり、市工(しこう)と呼ばれる市立広島工業とは直線距離で1キロちょっとしか離れていない。遠隔地から訪れる方が、間違ってしまうことも度々あるほどだ。また、学校の敷地真隣には昨年の高校サッカーで初の全国制覇をした広島皆実がある。

グラウンドは全国大会にも出場経験があるサッカー部、ラグビー部などとの併用だが、お互いが譲り合う中でも練習するスペースが確保できている。

「街中(広島市内)で十分に野球の練習ができる環境は珍しいですね。」そう語る沖元茂雄監督は県内では同校と伝統的なライバルである広島商の出身。

高校時代はエースとして春夏連続の甲子園出場。順天堂大学を経て、母校・広島商でコーチ、廿日市西宮島工業で監督として指揮を執り、そして県工に赴任してきたのが昨春のことである。
まずは部長、そして昨秋から監督に就任した。

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秋の敗戦からどん底の状態に

【部員を中心としたミーティング】

現チームは中国地区屈指の左腕・石田健大、抜群の身体能力を誇る遊撃手・和田凌太など県内外で名の知られる逸材が主力を担い、バランスの取れた戦力が整った。昨秋、もちろん中国大会を見据えた県工は、県大会を圧倒的な戦い方で勝ち上がってきた。

だが、その勢いに乗ってきたチームに狂いが生じた。
旧広島市民球場で行われた準々決勝、祇園北戦。翌日の準決勝で対戦が予想された広陵戦を見据え、先発のマウンドにはエース石田健大ではなく、1年生の木村磨生が立った。無難な立ち上がりをみせたが、4回表、間一髪の不運なプレーが続き、チーム全体に動揺が生じた。ノーヒットで一気に5点を献上。

ピンチにリリーフした石田健大も失点を許し、この回、大量7点を奪われた。この回の失点が大きくのしかかり、気がつけば追いつけないまま試合が終了した。
個々の高い能力だけに頼っていた弱点につまずき、不安から周りをフォローできない悪循環が生じ、“チーム力”としての課題が浮き彫りとなった。

そしてこの敗戦でチーム状態はどん底に―。
10月初め、中国大会前の新庄を相手に練習試合をするも大敗。「気が抜けた最低の状態で本当に失礼だった」と振り返る沖元監督。この状態では相手に失礼にあたるとその後、予定していた10月の練習試合をすべてキャンセルした。

このままでは駄目だ!
秋の敗因を話し合い、監督と選手が真剣に向かいあった。バラバラになってしまったこの窮地を乗り越えようとお互いの言葉をかみしめながら監督も選手も胸が熱くなった。

過去に監督を務められ、現在コーチの真藤良三氏がいう「同じ負け方をしないという。ある意味ええ薬じゃった」。
この経験をバネに一冬越えた県工の各選手をみていると顔つきから頼もしささえ感じられる。あの秋の敗戦で、本当の意味で“スイッチ”が入ったのではないか。

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築かれつつある信頼感で

【全員でグラウンド1周】

午後からの紅白戦を前に内外野連係ノックが始まった。キャプテン杉本、ショート和田らがチームを引っ張り、チームに活気が溢れている。
するとある選手が送球ミスをした。ノックを止め、選手全員がグラウンド1周を走り出した。「しゃんとせえよ!」「頼むぞ〜」など少し白い歯をみせながら喝が飛ぶ。それはダラダラでもなく、嫌みで責めるのでもなく、本当に意味のこもった微笑ましい光景である。
紅白戦は、ホワイトボードに書かれたA、B、C、D・・と分けられたチームが対戦する。このチーム分けは毎週、選手全員が自分以外の選手に投票して決められている。能力だけではなく、陰で努力している選手にも投票するなど選手目線での吟味を大事にしている。

紅白戦が始まった―。
ある場面で走者が打者に対して「信頼できんなあ!」という声が聞こえる。その打者は右中間へヒットを打ち、走者はホームイン。しかし、ゴロを求められている場面で走者に一歩目のスタートをきらせるかどうか。打者と走者の信頼関係ができなかった。戻ってきた打者に監督が、「結果オーライじゃダメ。いまのはゴロを打とうとする意識が足りんぞ」とアドバイス。チームみんなが求めているものは高い!

現在、新3年生19名、新2年生40名。そして新しく入学してくる1年生が加われば、大所帯となる。スタンドで応援する控え部員とグラウンドに立つ部員。それぞれ場所は違うけれど部員みんなで築かれつつある信頼感。
”チーム県工”その思いが一つになった時、いい意味、心から泣ける。そんな日がやってくるはずだ。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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