スポーツビジョン研究会 真下一策先生
第25回スポーツビジョン研究会 真下一策先生 2008年12月26日
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第25回独占インタビューはスポーツビジョン研究会の真下一策先生です。
見る力の重要性についてお話を伺ってきました。プレイする際の情報処理はすべて眼から入っています。まずは「見る事」についてしっかりと知る為に、皆さんの参考になればと思います。
視覚能力について知ろう
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スポーツビジョンのトレーニングは小学生ぐらいが一番いいです。トレーニングのゴールデンエイジの一番は小学生です。だんだん年をとるにつれて効果が薄くなります。中高生はその最後のチャンスですよね。
真下先生(以下「真」) スポーツにおいてどういう視機能が必要かと申し上げますと、多分ほとんどの人は答えられない。動体視力が有名なので動体視力が必要だと思ってしまうでしょ?
スタッフ(以下「ス」) はい。私もそうです。
真 動体視力さえ鍛えればスポーツが上手くなるというのはとんでもない話でうまくなるためにはいろんな段階を踏んでいかなければなりません。スポーツビジョンの中の色々な視機能があり動体視力とはその中の一部分です。ですから、それが先行してしまうとあまり意味がないことになってしまいます。
だからまずは野球に必要な視覚能力について知らなくてはいけません。まずはスポーツの情報処理の観点から見たメカニズムを知らなくてはいけない。スポーツ選手がどういう順番で情報を処理してどうして動作ができるのかを考えなくはいけない。それがまず第一歩です。
特に野球の場合はほとんど見ることから始まります。もちろんストライクのコールとかありますが、実際には選手は見て判断するでしょ。だからまず見る作業があり、次に情報が脳にインプットされるわけです。そのインプットされた情報で状況判断をします。
状況判断にはボールの行方であるとか周りの動きとかあらゆることが入るわけです。状況判断をして、次にどうするのかを頭の中で考えるんです。振るのか振らないのか。どっちの方向にむけて打つのかなど。一瞬のうちに考えて頭から指令がでます。
それが神経路を通って頭から筋肉へ行って(筋肉が)収縮をはじめて初めてその動作ができるんですね。だから見て動作が始まるまで一瞬だけど時間があるわけですよ。その間にいろんな段階を追います。だから知識がないといけないし、経験もないといけない。段階をふみ情報処理が済んでから動くんですね。その一番最初に視覚という見る力が出てきます。
スポーツビジョンの八項目
真 我々は見る力を、八項目に分けて考えています。
○視力
○KVA動体視力
○DVA動体視力
○コントラスト感度
○眼球運動
○深視力
○瞬間視力
○眼と手の協応動作
動体視力は2種類ありますけれど、それは八項目の中の二つです。
一番重要なものは視力
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ボールの見え方、物の見え方は選手によって違う。指導者の方には選手は自分と違う見え方をしているという事を認識してほしいですね。
真 まず一番何が重要かといいますと、視力です。
要するに見えなければいくら動体視力を鍛えても意味がない。見えないですから。視力を良くするには視力矯正しかないです。視力回復センターに行っても、絶対に近視・遠視・乱視が良くなりません。ああいうところでよくなるのはPCのやり過ぎ、テレビゲームのやりすぎ等、近くの対象を見過ぎて遠くが見えなくなる仮性近視ならばトレーニングをするとある程度戻ります。本来の近視・乱視は治りません。
ですからまず最初にやって欲しいのが視力矯正です。今の高校生の2/3が視力1,0以下です。1,0をきる視力では野球ができないですよ。野球をする為には少なくとも両目でみて1,2から1,5は欲しい。0,7くらいの視力(車の免許程度)だと野球では駄目ですよ。打率も下がるでしょう。
動体視力のトレーニングよりも先にまずは視力矯正をしてほしいです。高校生の場合、レーシックは年齢的に無理ですから眼鏡・コンタクトでいいです。
視力矯正をすることによって動体視力の2種類のうち1種類はよくなります。
※補足 〜眼鏡・コンタクトの作り方〜
メガネを作る際、どのくらいの視力にしようかとなった時に1,0でいいだろうと言われることが多いですが、それは日常生活で近くを見る時は強くきちっと矯正すると目が疲れるからです。だから最終的には目的に応じて矯正の度数を使い分けるのが理想ですね。高校生なら野球用と勉強用。そういう風に使い分けた方が目にとっては楽です。
やはり野球をやるなら1,2から1,5はほしいですね。
動体視力
真 動体視力にも2種類あります。
○「KVA動体視力」
遠方から真っ直ぐ自分の方に近づいて来るものを見る時の動体視力。例えば、車の運転をしている時に前から近づく道路標識を見るのに必要な視力で、遠くで見えるほどよい視力です。
○「DVA動体視力」
目の前を横に動くものを見る時の動体視力で、卓球を横から見る時を思い浮かべていただくとわかりやすい。早い動きが見えるほどよい視力です。
野球のボールは両方がかみ合わさっていす。野球のボールはまっすぐ来るだけではなく斜めにもきます。つまり野球に必要な動体視力というのは、KVA動体視力と DVA動体視力の両方が必要です。そのうち遠方から自分の方に近付いてくるものを見る時のKVA動体視力は視力矯正によってかなり良くなります。それがまず一歩です。
もうひとつのDVA動体視力は、要するに速く目が正確に動くかどうかです。これは個人差がありますが、トレーニングで鍛えることができます。いかに正確に目を動かすかというトレーニングをすれば良いのです。
※ 簡単にできるDVAトレーニング方法
1) 電車の中から外の看板を首を動かさずに目の動きだけでみる。通過駅のホームの動きを目の動きだけで読む。
2) 動かないものでいいので固定した2点を正確に目で追う。カレンダーの数字を一つおきであったり三つおきであったりパッパッパと目で速く正確に飛ばして読んだり、逆に読んだりします。
3) 手を伸ばして両手の親指を目の前にだし左右の親指をぱっぱと右、見て左みてというふうに速く目を動かします。
Point
速く正確に眼を動かす事。いい加減なところを見るのではなく一点を正確に見る事。
※ 二つの動体視力を一緒に良くするトレーング方法
イチロー選手が子供の時にやったように普段経験しないスピードボールを見るのも良い練習です。高校生くらいならやはり普段経験しないようなスピードですからマシンでいうなら140キロ〜150キロくらい見てもいいわけです。
動体視力だけ鍛えてもいけません
真 また視機能8つの項目のすべて大切です。
動体視は確かに大切ですが、動体視力がよければ深視力が悪くてもいいかと言えばそうではありません。
例えば深視力は打つタイミングに関係します。ボールがどこまできているのか、自分との距離とかタイミングに関係します。深視力が悪いと動体視力がよくてもどこで振って良いのかが分かりません。タイミングが取れないといくら見えてもタイミングが取れなかったら当たらないでしょ。
また瞬間視力も同様です。一瞬ちらっと見てその状況が分からなければなりません。捕手はランナーを横目でチラッと見て認識していますよね。じっと見ていなくては認識出来ないのではできません。
瞬間視力はいってみれば「目ざとさ」です。ちらっと見ただけで状況判断ができる。それができなければ野球は上手くなりませんよね。
※ 簡単にできる瞬間視力のトレーニング
一瞬後ろを振り返って何があったのかを頭の中でず〜っと思い浮かべて下さい。
本をパッと一瞬開いてどういうものが描かれていたかを思い浮かべるのもいいです。
あるいはもしプロジェクターかなんかを持っているのなら一瞬パッと映像化なんかをだしてどこまで見えたかを競い合ってみるのもいいですね。
だから動体視力だけ練習しても使い物にならない選手がでてくるかもしれません。ただ動体視力がよければよいだけでは駄目ですね。
見方のトレー二ング
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フィジカル面とビジュアル面とメンタル面をバランスよく鍛えて下さい。フィジカルがなくなってくると視機能も落ちてきます。午前ハードな練習をした後、午後に視機能を検査するとやはり結果は悪いですよ。
真 普段のトレーンング+視機能のトレーニングをすると基本的な技術はうまくなります。良く見えるようになるから。トレーニング効果はあります。やればできるようになりますから。目標がしっかり見えるので そこまで(基本的な技術)は上手くなります。
そして次は「見方のトレーニング」をしなくてはいけません。今までは「見る能力のトレーニング」
というのは、目というのは面白いもので意識しないものは見えないんですよ。一生懸命目の視機能を鍛えてもそれを意識してみない限りは見えないんですね。目の視野に入っていても言われてみないと見えないというのは多いでしょ。人間の目は意識がいかないものは見えなんですよ。
だから今度は見方のトレーニングが必要になる。例えば、バッターがどこまでボールを見ているか分かりますか?
ス 私の経験則からいうと最後までは見ていないですね。途中までで認識して後は体で覚えているというか…
真 それは眼を通してインプットされるからです。繰り返して見る事によりボールの軌道が分かってきます。野球の場合はそれに投手の癖とかいろいろな要素が入ってきますが。それが普段の技術練習です。繰り返しの練習によってボールのパターンが分かってきます。分かると最後まで球を見なくてもバットを振れるわけですよ。だからどこまで見ているのかというのはその人が覚えているパターンをどこで見極めれるのかによって差が出てくるわけです。
例えば、卓球の選手が知っている人同士でラリーの練習をしているとします。そういう時はそのボールがネットを超えるぐらいまでしか見ていない。後はいつものパターンだから打てるわけです。
では、実際の試合になるとどこまで見るかというとパターンが確認できるまで見ます。バウンドするまで見ます。だけど、じ〜っと手元までくるまでみているわけではない。目で覚えているからバウンドすると分かる。要するに見方が違う。何故、違うかというとパターンとして覚える事が出来るから見方が違う。
見極めがきちっとつけば、後はそれを見ていても確認というか追認しているだけなんです。なんで追認が必要かというと上手くなっていくとパターンが分かってきます。
そういう者同士が戦った場合はパターンを崩してくる。野球で言うと変化球、予期しないボール。今度はパターン崩しできます。今、プロのレベルとか高校野球でもトップクラスのレベルだとパターン崩しをしています。知っているコースにいつでも投げれば誰でも分かるでしょ。それをいかに騙すか。手の振りの速さを変える。ボールの出所をかえるかなど。パターンを崩してくると、見て確認して頭で修正するのは大変時間がかかるんですよ。そうするとボールが行った後になる。だから早い段階でボールを見極め確認します。
これが一つ。もっと高度になるとパターン崩しでくるぞという予測をするようになります。パターンにしがみついているとパターンを崩された時に対応できません。あらかじめ、ケースとして準備します。イチローのバッティングもそうですよね。パターンを崩してきた時に対処するような意識がありますよね。だからバットがでますよね。
戦術眼を鍛えよう
真 最終的には優秀な選手になる為には戦術的に上手くならなくてはいけません。こういうケースで今、ランナーがどこにいるからどこに打てばよいのか。これは戦術眼ですよね。
先程に人の目は意識したのを見ると言いましたが、戦術眼がきっちりと出来ていないとどこを見ていいのかが分からないんですよ。それは練習、試合の中で身につけるしかないです。監督からの指示等の他に自分自身から進んで取り組んでいくのが戦術眼のトレーニングです。人から言われただけでは身につきません。それに従うだけでは本当に良い選手にはなれない。
どのプロ野球選手も「強い時は監督は何もしなくて良いんだ」と言います。監督が支持して勝つというのは1シーズンに何試合かだけです。後は選手が勝手に考える。私がカープのチームドクターをやっていた時、(古葉監督の時、衣笠、山本、北別府、大野、高橋、正田 川口 津田 がいた頃)もそうでした。選手達が自分たちでもちゃんと考えていましたね。それは戦術眼をもった優秀な選手がいたからできたのです。
まとめ
(1) 視機能は大切です。
理由:情報を仕入れるところだから。視機能が悪ければ見えないし状況判断できません。つまり競技力があがりません。
(2) 8つの視機能の中では視力が一番大事です。
理由:視力が低いと見えません。また視力はトレーニングで回復できないので矯正してください。それ以外の項目はトレーニングできます。目のトレーニングは継続が必要です。目のトレーニングは中々効果が出ません。効果が出るのに週のうち4,5日一生懸命トレーニングをしても2カ月以上かかります。トレーニングをすると基本的な技術が上がります。ボールがよく見えるようになるから打てる。守れる。
(3) 次に見方のトレーニングをする。まずはパターンとして捉える。
理由:体が覚えるのではなく頭が覚えます。頭が覚える材料は何からかというと目からです。だから繰り返し練習する事が必要です。例えばゴロを補給するにしてもこのぐらいのスピードだからこうくると分かります。目で見てなんどもなんども繰り返すことによって覚えたから分かってくるのです。
(4) 戦術眼を鍛える。
理由:人間は意識しないものを見ることはできません。普段の練習・試合から意識的に戦術眼を鍛えておこう。