米国マイナーリーグ審判員 井上公裕審判
第15回米国マイナーリーグ審判員 井上公裕審判2008年05月24日
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インタビュー
今回は、海を渡り野球発祥の地アメリカで、MLB審判を目指し頑張っておられる、井上公裕さんのインタビューです。 井上さんは、国内ではUDC(Umpire Development Corporation)で活動されております。
井上さんのインタビューは、前編、後編の2回に分けてご紹介します。
進路について
スタッフ(以下 ス) 何故、審判になろうと思ったのですか??プレーヤーとしては考えていなかったのですか??
井上公裕さん(以下、公) もちろん選手としてプロになりたいと思っていました。でも、すでに少年野球の時点でプロの選手は無理だろうと悟っていたんです。その代わりに、プロ野球の審判が色々なジェスチャーで試合を裁く姿がすごくかっこよくみえたんです。この時点で少し変わっているのかもしれませんが…(笑)更に、審判は試合直前に球場に来て、試合をやって、すぐに帰ることができる。練習もしなくていい。プロになれば有名選手とだって友達になれるし、と思っていたんです。この様に、とんでもなく不純な理由で審判に興味を持ったのがきっかけでした。現実は全く違うものでしたが…。
ただ、日本のプロ野球の審判はほとんどの方が元プロ野球選手だと言われ(必ずしもそうではなかったのですが、子供だったので完璧に信じてしまっていて)、無理だと思っていたんです。その後、高校三年の進路を決める時まで、プロの審判になりたいと言う気持ちは封印されてしまったんです。
高校三年のある日に、進路を決めるべく、本屋さんでスポーツ関係の資格や求人の本を読んでいたら、プロ野球セ・パリーグの審判員公募と言うのをたまたまみかけたんです。実際にその時に公募していたわけではなく、不定期に公募があるということをその本で知る事ができました。公募があるなら可能性は0じゃないと思ったんです。それを見た瞬間に「これだっ!」と思ったんです。
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ストライクのコールをする井上さん
ス 進路を決めるにあたり、何を重視しましたか??
公 自分の場合、たまたま審判公募の記事にめぐり合う事ができて、昔の思いも後押しして、言わば直感で決めた感じが強いです。完璧に自分のやりたい事をやる。進路を決めるに当たって重視?!した点は「やりたい事をやる」でしたね。
その後、審判をやるにしてもどうしていいのか分からずに、とりあえず片っ端から審判の情報を集めたんです。とにかく審判が上手になるためには何ができるのかを中心に考えて。その結果アメリカに審判学校があるという事を知り、学校で学べば一番手っ取り早いと思って、アメリカの審判学校に行く事にしたんです。ただ、授業を理解するために英語を勉強する必要があったので、同時に語学学校への留学も決めました。
ですから、やりたい事は直感で決め、その後、それを達成するためにどうすればいいのか?と言う事を考えて進路を決定しました。いたって普通ですね(笑)
ス 高校球児の場合、最後の夏が終わってから進学して野球を続けるハードルは一気に高くなります。(もちろん野球界に関わる仕事についてもそうです。)井上さんの場合はましてやMLBの審判挑戦!最初の一歩を踏み出す勇気が凄いと思います。背中を押したきっかけとかはあったのですか??
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Photo by Steve Holmes
公 皆さんに「MLBの審判に早くなってよ!」とかよく言っていただくのですが、正直自分では目指せMLBと言う感じではないんです。確かに漠然とそう言う思いはありますが、純粋にプロになるために審判が上手になりたいと言う思いで始めたので…。その延長線上の頂点が今はたまたまMLBなだけです。
ただ、審判学校はアメリカにしかなかったので、たとえ新婚旅行でも海外に行きたくないと思っていた自分にとってはある意味大きな決断だったかも知れません。それを後押ししたのは当時好きだった女の子ですかね(笑)?!これもまた不純な動機ですね(笑)
ス 進路に迷っている球児達にアドバイスをお願いします。
公 進路にも迷わず、皆さんと年齢もあまり変わらない私が言うのもなんですが一言。どんな進路にしても正解や間違いがあるわけではありませんが、後悔する事を恐れて進路をあきらめたりしないでください。どんな進路を選んでも、必ずどこかで後悔はするものです。どうせ後悔するなら少し冒険に出て後悔した方がいいのではないでしょうか?!それはきっとただの「後悔」では終わらず、いつか皆さんの財産になると思います。
ちなみに、この発言に対して私は一切の責任を負いかねます(笑)
審判について
ス MLBの審判も完全なピラミッド型だと思いますが、現在の位置を簡単にご説明してもらえますか??
公 はい。審判の世界もピラミッド型です。しかも選手とは違い、審判は各レベルを徐々に上がっていくので、選手のようにあるレベルを飛び越すと言うことはありません。レベルの振り分けは以下のようになっています。
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公 私の現在い所属しているリーグはサウスアトランティックリーグで、レベルはLow Aです。日本風に言えばメジャーを1軍にたとえると、5軍にあたります。
Short A以下は試合数が76〜56試合程度で、シーズン開幕は6月中旬です。私の所属するLow Aから140試合を四月から約五ヶ月間で消化します。140試合以上行うリーグに昇格するとホテルでは一人部屋が与えられ、保険もつきます。また、 Advanced A〜Shor AをまとめてシングルAと言う事があります。ですから、私はシングルAの真ん中のレベルにいることになります。
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Photo by Steve Holmes
ちなみにAAAは審判が三又は四人制で、AAは三人制、それ以下は二人制と言う事になっています。日本では少年野球の試合でも四人審判がいるので、プロなのに二人や三人でやるの?と思う方も沢山いらっしゃるんじゃないでしょうか?でも、アメリカでは普通のことなんですよ。
ス 2人で審判をされるという事は、4人制より集中力も入り、体力も消耗すると思うのですが、それがスキルUPにつながりやすいのでしょうか?
公 おっしゃる通りですね。審判は実は二人制が基本の軸としてあって、三人制、四人制、そして時には六人制と増えていくという考え方なんです。動きもそれぞれ共通しています。日本だと四人制が基本のイメージがあると思いますが、実は二人制が基本なんです。野球の歴史をたどれば審判は一人制で行われていたんですよ。ルールブックでも審判は一人いればできる事になっています。ちなみに私がこの前怪我で途中退場したとき、その試合はパートナーが一人で行いました。プロの試合ですよ、信じられますか?
話をもどしますね。二人制はおっしゃるとおり、単純に担当するプレーが増えますので、集中力、そして動き回りますから体力も消耗します。間違いなく四人制に比べるとタフですね。しかも、何が大変かと言えば、球審を一日おきにしなくてはいけないんです。これはかなりしんどいです。シーズンが140試合だとすれば70試合も球審を担当するんです。ちなみに審判学校でも二人制しか教えません。
この様に沢山の試合を二人制と言うタフな環境で乗り越える事によってスキルも養われていくんです。それに、今まで二人でずっとやっていたものが、三人、四人と増えていけば、余裕も出てきますしね。その分いいポジションでプレーに備えられると言う事です。
後編に続く。