試合レポート

大阪桐蔭vs光星学院

2012.08.24

藤浪晋太郎、集大成のピッチング

 3-0。

 指揮官さえも、このスコアは予想だにしていなかった。大阪桐蔭・西谷浩一監督は試合前、こんなことを口にしていた。

「藤浪VS光星打線みたいに言われていますけど、僕自身はそれだけではないと思っています。光星の投手陣から、うちの打線がどう点を取っていくか。全員で立ち向かって、最終的に相手から1点を上回りたいと思います」

 藤浪に期待こそすれ、それだけではない。春夏連覇を目指す上でも、打線の強化を図ってきた。
 指揮官はそれを訴えたかったのだろう。

 しかし、試合が始まると、指揮官の期待をある意味で裏切る結果となった。藤浪VS光星打線に、エースが完勝したのである。これまでの藤浪は立ち上がりに課題があったが、光星学院の一番打者・天久翔斗をセカンドゴロに打ち取ると、波に乗った。2番・関口隆祥を見逃し三振に取ると、3番・田村龍弘との勝負に、アウトコース一本やりの攻めで見逃し三振に斬ったのだ。

 この日、藤浪がさえわたったのはアウトコースの制球だった。

 捕手の森友哉曰く「藤浪さんの一番いい球はアウトローのストレート。選抜の時も良かったのですが、段階的に良くなった。伸びが他のコースと違う」のだそうである

 さらに、アウトコースのストライクゾーンに極めて好意的だったこの日の主審は、藤浪にとって大きな味方になった。「ストライクゾーンが広かったので、ここを使おうと思いました」と森は証言している。

 2回表、今大会4本塁打の北條史也を迎えて、藤浪のアウトコースの制球は確信になった。たった3球で料理したのだ。田村、北條といった、これまで相手投手陣を震撼させてきた二人の沈黙が両チームに与えたものは大きかっただろう。


 藤浪は2人以外も完ぺきだった。

 彼ほどのカットボールやスライダーの使い手だと苦労するのが左打者への対応だ。藤浪にはフォークやチェンジアップがあるとはいえ、課題だったであろう。
 だが、藤浪は、フォークやチェンジアップを多投することなく、カットボールを左打者のインコースに投げ込んだ。打者からすれば速いと思った瞬間、手元で変化するのだ。光星学院の核弾頭・天久を無安打に抑えるなど、インコースのカットボールと外へのストレートで、左打者への対応も問題なかった。

 藤浪の快刀乱麻に、もっとも驚くのは、登板間隔が短くなればなるほど、ピッチングの精度を挙げているところだ。

 以前、西谷が藤浪に関するある現象を話してくれたことがある。

「藤浪は連投の2日目の方がいいピッチングをするんです。これはね、辻内のときもそうだったんですが、ある程度、疲れがあると上半身に力が抜けて、下半身と上手く絡み合う。藤浪も背が大きいので、そんな現象がありました」

 ただ、今になって、西谷はこの現象の理由をこう説明する。

「フォームが固まっていないからだと思います。本当にフォームがしっかりしていて、技術力がある選手なら、登板間隔が空いた方がいいに決まっている。藤浪の場合は技術が発展途上なんです。だから、登板間隔が短くて身体に疲れがある方が良いのだと思います」

 技術が発展途上であるかどうかはともかくとしても、準々決勝の5回以降、うなぎ上りに調子を挙げた藤浪のピッチングは、準決勝、そして、この日の決勝と集大成を迎えたのである。

 光星学院の主軸との勝負は以後も続いたが、9回表に田村に1安打を浴びたのみで、北條はノーヒットに抑えた。アウトローのストレートを軸にした完璧なピッチングだった。
 

 「コントロールと変化球の切れが、センバツとは違いました」と田村は藤浪を称賛した。仲井宗基監督も白旗を挙げた。「アウトコースで攻めてくることは分かっていましたが、あれだけ低めに決められたら、対応しきれません」。

 9回 2安打14奪三振、完封。
 「まさか、あのままシャットアウトできるとは思っていなかった」と指揮官さえも驚かせた。

 藤浪晋太郎、集大成のピッチングだった。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

大阪桐蔭2年生・中野大虎のフォークがエグすぎた 「高校生レベルのボールじゃない」【センバツ・輝きを放った逸材たち】

2024.03.23

【福岡】福岡がタイブレークの末に初戦を突破<春季大会の結果>

2024.03.18

進学校対決は、「恐るべき9番打者」の活躍で青稜に軍配!【東京春季大会一次予選】

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.19

遂に適用される新基準バット 企画・開発担当者が込めた思い 「安心して使ってもらたい」

2024.03.18

復活をかける「元・都立の星」東大和、部員12人でコールド発進!【東京春季大会一次予選】

2024.02.25

取材歴13年「私の出会った個性派キャプテン」たち…叱咤激励型、調整型、高校・大学・社会人ですべて日本一の「殿堂入りキャプテン」も!【主筆・河嶋宗一コラム『グラカン』vol.8】

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.02.26

ポニーリーグの球春告げる関東大会が開幕! HARTY氏の大熱唱で協会創立50周年が華々しくスタート! 「まさにプロ野球さながら」

2024.02.24

【大学野球卒業生進路一覧】 2023年の大学野球を盛り上げた4年生たちの進路は?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>