どうして野球以外のトレーニングが必要なのか
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
2022年、皆さんにとってはどのような一年でしたでしょうか。楽しかったこと、悔しかったことなどいろいろなことが思い出されると思います。来たるべき2023年は今まで培ってきたものが花開く、そんな年になることを願っています。さて今年最後のセルフコンディショニングコラムは「どうして野球以外のトレーニングが必要なのか」についてお話をしてみようと思います。技術練習に費やす時間や労力が長ければ長いほど、野球がうまくなる…とは限らない、その要因について考えてみましょう。
野球は反復練習の多いスポーツ
トレーニングではどの体力要素を鍛えているかを意識して行おう
皆さんも今までにバッティングのスイング動作を習得するために素振りを繰り返し行ったり、基本的な捕球動作を身につけるためにゴロ捕球の練習を行ったりしたことがあると思います。スキルアップを目的とした反復練習は、パフォーマンス向上に欠かせないものであり、正しいフォームで投げること(投げ続けること)や安定したスイング動作を身につけるために、繰り返し練習することは動作の再現性を高めることにつながります。
その上で「野球に必要な体力は、野球で身につけられるのか」について考えてみましょう。反復練習が多くなればなるほど、そこにかかる時間は長くなります。その結果、練習に耐えられるだけの筋力や筋持久力などもおのずと向上することが見込めます。体力トレーニング(フィジカルトレーニング)の代わりに競技練習で体力をつけるという方法は一見問題ないように思えますが、さまざまな体力要素を向上させるためにはあまり効率の良い方法ではありません。ウエイトトレーニングに代表される体力トレーニングは、筋力、筋持久力、スタミナ、バランスなどそれぞれの体力要素に特化したいわばスペシャル版であり、筋力向上のためにはウエイトを用いたトレーニング、スタミナをつけるためにはインターバル走など心肺持久力の向上を狙ったトレーニングが、より効率よく体力強化を行うことができると言えるでしょう。
補強は競技動作よりも強い負荷を用いる
それぞれの体力要素を鍛えるために行うトレーニングや補強などは、野球を行っているだけでは得られない強い負荷を用いて行うことが大切です。野球の動作を行う時とあまり変わらない負荷で行うことは、トレーニングや補強の意味をなしません。トレーニングには体に一定以上の運動負荷を与えることで機能が向上する「過負荷(かふか)の法則」があります。息がさほど上がらないランニングプログラムや、軽負荷や自重で何度も繰り返すことのできるトレーニングのみを行っていては、スタミナ強化、筋力強化につながらないことは覚えておきましょう。
その一方でただやみくもに強度を上げればいいというものでもありません。筋力を上げたいのであれば、それに見合った計画に沿ってウエイトトレーニングを行うことが大切ですし、スタミナをつけたいからといって、へとへとになるまで走ればいいというものでもありません。どのような体力要素を重点的に強化したいのかを明確にした上で、適切なトレーニングプログラムを実践していくことが大切です。「今までやっていたから」といった伝統的なトレーニングプログラムは、一度その内容を見直した上で実施するかどうかを判断しましょう。
[page_break:競技動作とはかけ離れた動きを持つエクササイズ/競技動作に直接負荷をかける?]競技動作とはかけ離れた動きを持つエクササイズ
野球の動作では鍛えられない筋力をトレーニングで養う
筋力アップのためのウエイトトレーニングは、競技動作とはかけ離れた動きをするものも少なくありません。これはターゲットとする筋肉に適切に負荷をかけることと、関節などに大きな負担がかからない安全な体勢で行うためです。下半身強化のためのスクワットや、背筋を鍛えるためのデッドリフトなど、どのエクササイズにおいてもまずは「正しいフォームを習得して行う」ことを心がけましょう。中には競技動作とはあまりにもかけ離れているため、「スポーツに使えない筋肉なのでは?」と考える人がいるかもしれませんが、トレーニングの目的は体力要素の一つである筋力を集中的に鍛えて強化することであり、強化した筋肉を競技動作に結びつけるためには、トレーニングと競技動作の「橋渡し」となる動きやドリルなどもまた必要となります。
競技動作に直接負荷をかける?
今までお話ししてきた内容からすると、投球動作やバッティング動作などに直接外力をかけるトレーニング(ケーブルやゴムチューブなど)は筋力、筋持久力といった体力要素を「効率よく」鍛えるものとは言い切れません。むしろ、強い負荷を加えすぎるとフォームを崩してしまうリスクが高まったり、不安定な姿勢の中で関節や筋肉を傷めてしまったりすることなども考えられます。このことから、筋力など特定の体力要素を高めるためには、競技動作に負荷をかけるという方法ではなく、競技動作に近いエクササイズを採用して実施する方が、より安全で効率の良いトレーニングと言えるでしょう。たとえば投球動作であればプルオーバーを行う、スイング動作であればメディシンボールのサイドスローを行うといった具合です。
トレーニングを行う皆さん自身が「スキルを伸ばすこと」と「体力を鍛えること」の違いを理解しておくと、野球の練習と並行してトレーニングを行うことの必要性と、野球に必要な体力要素を鍛えるために何が必要かについて考える力がついてくると思います。その上で自分に必要なトレーニングをぜひ実施してみてくださいね。
参考書籍)スポーツ科学の教科書/谷本道哉 編著・石井直方 監修 岩波ジュニア新書
【どうして野球以外のトレーニングが必要なのか】
●競技練習は筋力や筋持久力などが鍛えられるが、あまり効率の良い方法ではない
●体力トレーニングは目的とする体力要素をしぼって鍛えることができる
●トレーニングや補強では野球の練習以上に強い負荷を用いる必要がある
●トレーニングエクササイズは競技動作とはかけ離れた動きを持つ
●競技動作に直接負荷をかけるトレーニングは体力強化としては非効率
●直接負荷をかけるのではなく、競技動作に近いエクササイズを採用して実施する