Column

守備率10割に近づく「デュアルテクノロジーグラブ」開発秘話 【連載Vol.01】

2016.10.07

メジャーや日本でも愛されるグラブを開発し続ける 麻生 茂明氏×日高 泰也氏 Wilsonグラブ・クラフトマン対談

「W」のマークでおなじみのウイルソン社からこのほど発売されるウイルソン・スタッフ「デュアル・テクノロジー」グラブ。高校球児の守備力を高めるグラブとして革新的な構造を搭載している。それでは開発の経緯や、このグラブに込められた思いとは?今回はMLBで数々の名選手のグラブを手がけてきたアメリカ本社マスター・クラフトマンの麻生 茂明氏と日本向けグラブの開発責任者を務める日高 泰也氏がクロストークで、その深層を語る。

 第1回はウイルソングラブの歴史と、高校球児に適したグラブが開発されたきっかけについて。北海道日本ハムファイターズのセカンドを守る田中 賢介選手もキーマンとして登場します!

「選手に合わせてよいものを」を貫くウイルソングラブの歴史

麻生 茂明氏

――まず麻生さんのグラブ制作に対する考え方についてお話しいただけますか?

麻生 茂明氏(以下、麻生):最初に、1994年アメリカで「デュアル・ウェルティング」が誕生したきっかけからお話ししましょう。それまでのグラブは指先や指中の形がまっすぐ立った「シングル・ウェルティング(グラブ背面のはみだしが1本構造)」だったのですが、自然な手の形に合わせて指先がわずかに内側を向いたデザインでグラブを試作したところ、非常にいいものが出来ました。

 このアイデアを搭載したのがアメリカの内野手用グラブ「1786」です。打球をポケットでなく指先で捕球した場合でも、ボールがポケットへ収まるようになった。これまでエラーになっていたゴロがグラブの中に入ってくるんです。これが「デュアル・ウェルティング(はみだしが2本構造)」のよさだなと実感しました。

 私自身のグラブ制作に対する考えは「選手に合わせてよいものを作る」。子どもであれ、大人であれ選手が使いやすいグラブを作ることを信念にしています。「デュアル・ウェルティング」は、そんな思いを具体化できたテクノロジーだと思います。

――最初にグラブを作り始めた当時のエピソードはありますか?

麻生:私がMLBのキャンプにはじめて行ったのは1985年でした。ウイルソンがグラブ工場をアメリカから日本へ移管したことがきっかけでした。MLB選手がどんなグラブを使っているか知りたいと思い、メジャー各球団のキャンプ地を回りました。選手たちが実際に使っているグラブを見せてもらったのですが、実はすごくがっかりしました。

 というのも、親指や小指がやたらと長いグラブを使っていたり、ポケットが浅すぎるグラブを使っていたんです。これではどんなに守備が上手な選手でも捕球しにくい。そこで、自分なりに改良したグラブを日本で作って、翌年のキャンプに持っていったんです。すると、メジャーリーガーの間であっという間に評判が広がりました。これが、アメリカでロングセラーになった内野手用モデル「1786」のはじまりです。

 選手の好みに合わせて、グラブの型付けをはじめたのは1987年のことです。シカゴ・カブスのマニー・トリーロという選手がグラブをオーダーしてくれたんですが、日本から持っていった型では納得して頂けなかった。そこで私が目の前でグラブを叩いて型付けをしたらすごく喜んでくれたんです。その時、「選手に合わせてよいものを作る」ことの大事さを知りました。

――以前、工場にお邪魔させて頂いたこともありますが、「選手に合わせてよいものを作る」工程も整っていました。

麻生:グラブの品質を左右する割合は「革の質が50%、型(パターン)が30%、パーツを縫い合わせる縫製技術が20%」くらいだと考えています。アメリカ向けのA2Kや日本向けのウイルソン・スタッフを生産している鹿児島の工場では職人さん一人ひとりがすべての工程を理解しているので、いいものを作れる態勢が整っています。素晴らしい工場です。

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[page_break:野球の「こだわり」度合いでグラブも変わる]

野球の「こだわり」度合いでグラブも変わる

日高 泰也氏

――「型」について、日高さんからもお話し頂けますか?

日高 泰也氏(以下、日高):やはり、選手によって使いやすいモデルはそれぞれ違うので、選手たちと接する時に、私たち作り手が特定のモデルを押し付けないように心がけています。とはいえ、グラブは人間がボールをつかむための道具ですから「良い型」の条件はある程度、集約されてくると思います。

――「A」という形があるとすれば、「A+」「A´」という形はあっても、「B」にはならないような……。

日高:そういうことなんです。私が高校生向けのグラブを作るときに、プロ野球選手のモデルをベースにしないのはそれが一番の理由です。

 なぜかというと、プロ野球選手は自分の身体的特徴やプレースタイルを把握したうえで、そのこだわりをグラブに反映させようとするからです。特に日本のプロ野球選手はアメリカ以上にこだわりが強い。グラブの型から仕上げの仕方にいたるまで細部にこだわっています。そこまでカスタマイズされているため、最終的にそのグラブはプロ野球選手自身にしか合わない。そのグラブを高校球児が使いこなすのは、難しいんですよ。

――確かに。プロ野球選手は積み上げた「こだわり」の中で生きていますし、その「こだわり」がないと選手生活を続けるのは難しい。ところが、これから土台を作ろうとしている高校球児に、プロの「こだわり」を落とし込むことは難しいわけですね。

麻生:その通りです。

日高:それから、もう一つ「デュアル・テクノロジー」を開発するうえで気を付けたことがあります。それはプロ野球と高校野球とのプレー環境の違いです。簡単に言えば人工芝と天然芝ではスパイクも変えますよね?つまり、プレーするグランドに応じて、最適な道具は変わるんです。これが、今回「デュアル・テクノロジー」を日本向けに商品化するうえで大きなテーマになりました。

――そのポイントは、これまで野球関係者が気付いているようで、気付いていないことですね。

麻生:プロの世界でも、日本の野球とアメリカのベースボールではプレーする環境が違いますよね。メジャーに挑戦する日本人選手、とくに内野手はその違いに苦労しているように思います。それと同じくらい、日本のプロとアマチュアでは環境が違う。むしろ、天然芝でプレーするアメリカと、土や芝でプレーする日本のアマチュア野球には共通点が多いかもしれない。そのことに気づいたことで、アメリカで評価の高い「デュアル・ウェルティング」を日本向けに応用しようというアイデアが生まれたんです。

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[page_break:田中賢介のMLB挑戦が「デュアル・テクノロジー」の完成へ]

田中賢介のMLB挑戦が「デュアル・テクノロジー」の完成へ

時に口論となりながら試行錯誤の末、完成へ

――日米双方で議論を重ねたことで「デュアル・テクノロジー」の完成に行き着いたわけですね。

日高:はい。こうした議論のきっかけになったのは、私が日本で担当している田中 賢介選手(北海道日本ハムファイターズ)が2013年にMLBに挑戦したことでした。田中選手はグラブに対するこだわりが人一倍強いんですが、アメリカへ行く前に、日米両国で求めるグラブの違いについて入念に意見交換をしました。

 日本とアメリカ、両国に拠点があるウイルソンだからこそ情報を共有できたことは、すごく大きかった。田中賢介選手がメジャーで求める「指先が強いグラブ」をスピーディに開発できたと同時に、日本のプロ、アマチュア、アメリカの共通点と違いについて1つの線につながったんですよ。「人工芝のプレースタイルに合ったプロ向けのグラブを土や天然芝でプレーする高校球児が使っていて、はたして守備力は上がるのか?」という問題意識が生まれた瞬間でした。

麻生:僕も田中さんとはいろいろな話をしました。彼の話を通して、高校生にはプロ仕様のグラブを使いこなすことが難しいとよくわかりました。そこから生まれたアイデアも採り入れながら日高さんと5年間、ときには激しく口論した末に出来たのが、「デュアル・テクノロジー」です。

日高:相当口論しましたね。最初は「これじゃ、ダメだ!」とお互いに完全否定から始まって(笑)。

麻生:最初の試作品では、日本のグラブでは考えられないほど指先が内側に湾曲していました。アメリカの選手は「つかみ捕り」だからです。でも、この型では「当て捕り」が多い日本の選手には使ってもらえない。そこで日本で一番いい「型」を日高さんに選んでもらったのが2年前。そこからさらに改良を重ねて、「デュアル・テクノロジー」の最終形になりました。

――長い期間での熟成が今につながっているわけですね。

日高:私たち日本支社は、「まずは日本の選手に合ったグラブを作りたい」という思いで、ウイルソン・スタッフという日本専用商品を作ってきました。おかげさまで、5年間で販売数は8倍を超えました。今後もより良いグラブを追求したとき、「日本の高校生の使いやすさ」と「アメリカで評価が高いデュアル・ウェルティング」を融合させる絶好のタイミングが来たと思っています。

麻生:アメリカでは1986年に発売開始し、1994年に「デュアル・ウェルティング」構造にしたグラブがいまだに内野手用のベストセラーとして売れています。そのノウハウも活かして、日本に貢献したいという想いを持って、作り上げました。

 第2回では今現在もウイルソングラブをはめてMLBの舞台で活躍する青木 宣親外野手(シアトル・マリナーズ)のエピソードなどを紹介。そしていよいよ「デュアル・テクノロジー」の全容が明かされる!

話題の『 硬式用 Wilson Staff Dual 』を一挙紹介!

硬式用 Wilson Staff Dual 内野手用 D6H
上代 55,000円 (税別)
サイズ:6
カラー:Wオレンジ (21)・Eオレンジ (22)・ブラック (90SS)
素材:[表革] プロストック ステアレザー (+スーパースキン)
[裏革] 共革 (指裏/ ディアソフト)
[芯材] 親指/ ウールS + ウールH 小指/ 化繊 + ウールH 指/ ウールH
逆とじ・ウェブ: H・日本製

硬式用 Wilson Staff Dual 内野手用 D5T
上代 55,000円 (税別)
サイズ:7
カラー:Wオレンジ (21)・Eオレンジ (22)・ブラック (90SS)
素材:[表革] プロストック ステアレザー (+スーパースキン)
[裏革] 共革 (指裏/ ディアソフト)
[芯材] 親指/ ウールS + ウールH 小指/ 化繊 + ウールH 指/ ウールH
ウェブ: TⅡ・日本製

硬式用 Wilson Staff Dual 内野手用 DOH
上代 55,000円 (税別)
サイズ:8
カラー:Wオレンジ (21)・Eオレンジ (22)・ブラック (90SS)
素材:[表革] プロストック ステアレザー (+スーパースキン)
[裏革] 共革 (指裏/ ディアソフト)
[芯材] 親指/ ウールS + ウールH 小指/ 化繊 + ウールH 指/ ウールH
ウェブ: HW・日本製

硬式用 Wilson Staff Dual 外野手用 D8D
上代 55,000円 (税別)
サイズ:12
右投げ・左投げ (R)
カラー:Wオレンジ (21)・Eオレンジ (22)・ブラック (90SS)
素材:[表革] プロストック ステアレザー (+スーパースキン)
[裏革] 共革 (指裏/ ディアソフト)
[芯材] 親指/ 化繊 + ウールH 小指/ 化繊 + ウールH 指/ 化繊
逆とじ/ クロス背面紐・ウェブ: Dトンボ・日本製

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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