2010年08月17日 阪神甲子園球場 

成田(千葉)vs北大津(滋賀)

2010年夏の大会 第92回全国高校野球選手権大会 3回戦
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中川諒(成田)


北大津流積極策の魅力

 日本でこんなサインを出せるのはこの人しかいない――。

 8回、1点差に迫り、なおも無死一、二塁と攻める北大津の攻撃。打者は1回戦の常葉橘戦で本塁打を放っている4番・小谷 太郎。ボールカウントは3ボール。

 次の瞬間だ。一、二塁の走者が同時にスタートを切る。そして、小谷が打つ。ファールにはなったが、誰もが予想しない一、二塁からの、3ボールからのヒットエンドランに球場はどよめいた。だが、この攻撃はまだ終わらない。次の投球でも、同じように2人の走者はスタート。小谷も打った(ファール)。

 惜しまれるのが、この1球。

小谷が手を出したのはボール球。見逃していれば、四球で1死満塁となっていたところだった。結果的に小谷はセカンドゴロ。続く北野力にレフト前タイムリーが出ただけに、悔やまれる1球になってしまった。

 仰天の采配。

 だが、真相は想像とはやや異なった。北大津・宮崎裕也監督はあの采配をこう説明する。

「ウチでは、ランナーが詰まっているときの3ボールは走ることになっているんです。ストライクは見送ったらアウトになるから打ちにいく。たまたま3ボールになったからエンドランみたいなかたちになっているだけです」

 サインではなく、北大津の中での決まり事による自然なエンドランだった。だから、北大津ナインは誰も驚かなかった。二塁走者の大野晋平も「ああいうときは走ることになっているんで」と平然としていた。

 ただ、惜しまれるのが小谷がボール球に手を出してしまったこと。だが、これには伏線があった。初回、山口元気の三塁打で1点を先制した後の1死三塁で、小谷は外角ストレートに手が出ず、見逃し三振に倒れていた。

「ストレートを見送って三振していたので、積極的にいかないとと思って手が出たんでしょう」(宮崎監督)

 小谷の心境は、宮崎監督の推測通りだった。

「ああいう場面では気持ちで勝つ方が勝つ。食らいつこうと思っていました。今日は合っていなかった(三振、セカンドゴロ、ファーストゴロ)ので、振って合わすしかないなと。まっすぐでくると思ったし、打ったろうと思ったんですけど」

 状況的には成田がピンチ。追い込まれているのはマウンドの中川 諒なのだが、前打席までの結果が小谷から精神的なゆとりを奪っていた。「もう一度戻れるなら、バットは止まったと思います」

 負けたとはいえ、誰も小谷を責める者はいない。これが北大津の野球だからだ。北大津に「待て」のサインは存在しない。ノースリー(3ボール)からでも、積極的に打つ。実際に、2008年センバツの横浜戦でも、4回に橋本航樹がノースリーからライト前に勝ち越し打を放ったのを始め、二度3ボールから打ちにいっている。その積極策が功を奏し、土屋健二(日本ハム)、筒香嘉智(横浜)らがいて、夏に甲子園で4強に進出する横浜を破る金星を挙げた。

 ノースリーからでも打つ理由について、宮崎監督はこう説明する。

「常にアグレッシブ。強い気持ちを持つということですね。野球で一番しんどいのは気持ちがぶれたり、揺れ動くこと。打席で狙い球と違う球が来たりするとぶれるんです。そうならないためですね。攻撃は最大の防御ですから」

 常に前向きに、常に攻める。だからこそ強豪校に向かっていけるのだ。宮崎監督はこの日、守備でも積極策を選択している。7回、同点に追いつかれ、なおも2死一、二塁の場面でエース・岡本 拓也に代え、横江 巧真をマウンドに送った。上手、横手、下手と三投法を使い分ける軟投派の岡本と異なり、横江は140キロ台の速球が武器。流れを変え、目先を変えると同時に、球威で抑え込もうと思ったのだ。結果的に横江は連続四球と安打で2点を追加されたが、攻めの継投をした結果。悔いは残していない。

「やるべきことを全てやった結果。強気の戦い方はできました」

 小谷の打席も、多くの監督はバントをさせていただろう。だが、北大津野球は違う。常にアグレッシブが持ち味だからだ。

 近畿勢では唯一、優勝のない滋賀県。昨年までの夏の大会通算25勝、勝率・385は近畿6県でダントツの最下位だ(近畿1位は大阪の146勝、勝率・643、勝ち星5位は奈良の72勝、勝率5位は京都の・587)。その滋賀の公立校でありながら、横浜を破り、今大会も2勝を挙げた北大津の健闘は光る。

 それはもちろん、宮崎流の積極策があるから。気持ちで負けていないから。個性的な公立校が少なくなっている昨今の高校野球界。北大津野球、宮崎采配から目が離せそうにない。

(文=田尻 賢誉




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第92回全国高校野球選手権大会 【大会別データ】

応援メッセージ (1)

北大津のこれからおおいに期待tetu 2010.08.19
北大津は今まで滋賀にはこれだけのチームはなかったです。宮崎監督の指導特に意識が違うんだと思います。指摘されている場面もほとんどのチームは四番でも送りだとおもいます。それをエンドランできた。ただ問題の一球はあきらかに外遠くにはずれていた。過去の伏線があったにしろ出来れば自重してほしかった。それと五回だったと思いますが1死一塁打者大野の時エンドランがかかり中飛一塁ランナー北林が一旦二塁手前で確認したにもかかわらずそのまま走りダプルプレー。甲子園でさらに上にいくには小さなミスをへらしていかなければならないと思います。

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