2010年08月16日 阪神甲子園球場 

九州学院(熊本)vs鹿児島実(鹿児島)

2010年夏の大会 第92回全国高校野球選手権大会 3回戦
印刷する このエントリーをはてなブックマークに追加   


スピードスターの誕生だ!!

驚異のスピードスター、九州学院・山下翼 

 スピードスターの誕生だ。とにかく速い。そして、思い切りがある。

 3回の九州学院の攻撃。2死二塁から二塁走者の山下翼は、萩原英之のライト前安打で迷わずホームに突っ込んだ。このときのタイムが強烈。バットにボールが当たった瞬間のインパクトからホームベースを踏むまで6秒55。甲子園での二塁からホームまでセーフの基準は7秒00以内だから、それをはるかに上回る。5回1死二塁でも萩原のライト前安打で再び本塁に突入。アウトにはなったものの、6秒68を記録した。文句なく今大会ナンバーワンだ。

 二塁からホームへのタイムを縮めるためには、いくつかのポイントがある。まずはリード幅。次に第二リード、その次にスタート。そしてコース取りだ。

 山下はリード幅が広いのはもちろん、第二リードでかなり大きく出る。二、三塁間の三分の一程度まで出るのは当たり前。それ以上出ることも珍しくない。

「ピッチャーだけ見てれば、(第二リードで)どれだけ出られるかわかります。自分の中で感覚があるので」

 だが、それ以上に驚かされたのがコース取り。山下は二、三塁間のほぼライン上を走り、ほとんど直角に近い角度で曲がるのだ。

「大きく回るより直角の方が速いじゃないですか。そういう練習はしてないんですけど、いつも意識しています」

 工夫をしているのは曲がり方。直角に行こうとするとベースを回る際にふくらんでしまうため、ふくらまないようターンするときに体をひねるようにしている。イメージとしては、右肩を入れ、体全体を一気にホームへ向ける感じだ。左足でベースの角を踏むのが理想だが、そこにはこだわりすぎない。

「こだわると遅くなるので、それはスタートした後に考えます」

 アウトになった場面はまだ1死。ライトは投手から回っていた強肩の用皆峻で、萩原の打球も強かっただけに無理する必要はなかったが、本能で突っ込んでいた。

「暴走ですね(笑)でも、アウトになった後も先輩が『OK、OK』と言ってくれるのでやりやすいです」

 50メートル走は5秒8。河浦中時代は100メートル走で熊本県大会2連覇の実績もある。中学3年では11秒2を記録。県内陸上界では有名な存在だった。

「野球は県大会も行ったことがない。無名中の無名です(笑)陸上は個人競技なので面白くない。喜びをみんなで味わえる野球の方がやりたかった」

 とはいえ、塁上に出れば自慢の足がうずく。この日も一塁に出た二度とも、次打者の初球に盗塁を敢行した。

「サインがなくても常に行く気でいます。自分の場合、スタートが遅れても足でカバーできる。焦ったら負けなので、焦らずに『スタートが遅れてもいい』という感じでいます。そしたら楽になるので」

 ふたつめの盗塁を決めた際のスタートから二塁到達までのタイムは「スタートが遅れました」と言いながら3秒16。現在の日本球界で最速といわれるロッテ・荻野貴司が3秒0台だから、驚異のスピードだ。ちなみに、高校生投手のクイックは平均1秒1~1秒2台。捕手の二塁送球タイムは2秒1台。合計すると3秒2はかかる計算だから、山下の盗塁を刺すのはよほどの強肩捕手でない限り、不可能に近いということになる。

 だが、そんな山下も盗塁で悩んだことがあった。高校入学後、現在まで公式戦で唯一盗塁を失敗したのが昨秋の1年生大会の東海大二戦。特に強肩というわけではない捕手に刺されたことで、“走塁イップス”になってしまった。

「同級生に刺されたことがショックで……。足が回らず、スタートが遅れたのが原因だったんですけど、その後は2、3球目までスタートが切れない状態でした」

 行くぞ、行くぞと気持ちばかり焦って、スタートが切れない。そんなとき、吹っ切れたのが坂井宏安監督の「逃げちゃいかん」という言葉だった。自分の持ち味は足。オレの足なら大丈夫。普通に走りさえすればセーフになる。そう気持ちを切り替えてからは楽になった。「スタートが遅れてもいい」と思えるようになったのは、その経験があるからだ。もう、アウトにならない自信はある。

「人と同じは嫌」とメッシュ性でマジックテープの軽いスパイクを使用する山下。道具からも、少しでも速く走りたいという気持ちが表れている。

「強打者とか、豪速球を投げる選手ばかり注目されるじゃないですか。だから、足で目立ちたい。もっと有名になりたいんです」

「日本一足の速い高校球児は自分です」と豪語するスピードスターはまだ2年生。どこまで速くなるのか。この先も目が離せない。

(文=田尻 賢誉




この記事についてTwitterでつぶやく この記事についてFacebbokに投稿する
【関連記事】
鹿児島城西vs鹿児島実【鹿児島県 2020年秋の大会 第147回九州地区高等学校野球大会鹿児島県予選】
鹿児島実vs出水【鹿児島県 2020年秋の大会 第147回九州地区高等学校野球大会鹿児島県予選】
第136回 やんちゃ坊主、甘えん坊でも能力は凄かった2018年U-15日本代表。コーチを務めた元プロ・徳元敏氏が語る侍戦士たち【西日本編】【高校野球コラム】
やんちゃ坊主、甘えん坊でも能力は凄かった2018年U-15日本代表。コーチを務めた元プロ・徳元敏氏が語る当時の侍戦士たち【西日本編】 【ニュース - コラム】
鹿児島実vs樟南【鹿児島県 2020年秋の大会 鹿児島市地区新人大会】
【鹿児島】鹿児島実がV2!2位には樟南、3位は鶴丸が輝く!<鹿児島市地区高校新人大会> 【ニュース - 高校野球関連】
鹿児島城西vs鹿児島実【鹿児島県 2020鹿児島県夏季高等学校野球大会】
鹿児島実vs甲南【鹿児島県 2020鹿児島県夏季高等学校野球大会】
第268回 夏の代替大会が開催されることを願って…。全国のドラフト・注目野手リスト一覧【ドラフト特集コラム】
第266回 村上宗隆を獲得できていれば巨人の未来はどうなった?巨人のスコアラー・編成部に関わった三井康浩さんが2017年ドラフトを振り返る【ドラフト特集コラム】
第1010回 「勝たなきゃ」より素直な「勝ちたい」気持ちを引き出す 鹿児島城西【後編】【野球部訪問】
第3回 名門、公立勢の巻き返しに注目!2020年の鹿児島県高校野球をズバリ占う【鹿児島の高校野球】
第1091回 野球人生の分岐点は兄の直言があった。川野涼多(九州学院)が松井稼頭央二世と呼ばれるまで 【2019年インタビュー】
第1006回 「夢のままで終わらせず、現実に!」福重 圭誇(尚志館)【後編】 【2019年インタビュー】
第985回 ウィークポイントのある選手からチームの中心選手に成長!福重 圭誇(尚志館)【前編】 【2019年インタビュー】
第811回 若獅子賞受賞し、来季のドラフトで注目の太田龍(JR東日本)の来季の目標とは 【2018年インタビュー】
第713回 宜保 翔(KBC学園未来高校沖縄)強烈な個性と圧倒的努力で「やりたいことをやり切る」 【2018年インタビュー】
鹿児島実 【高校別データ】
九州学院 【高校別データ】
第92回全国高校野球選手権大会 【大会別データ】

応援メッセージを投稿する

試合記事トップに戻る サイトトップに戻る