慶應義塾との激戦を制した仙台育英のヒーローは強力な投手陣を率いる「絶対的な捕手」



尾形 樹人(仙台育英)

<センバツ高校野球:仙台育英2-1慶應義塾(延長10回タイブレーク)>◇21日◇2回戦

 仙台育英(宮城)vs慶應義塾(神奈川)の一戦は延長10回の末、仙台育英が勝利を収めた。今大会初の延長戦のハイレベルな一戦に、観戦に訪れていた清原和博氏も、「感動しかない。両チームの戦いに感動しました」と絶賛したこのゲーム。あえてヒーローにするのならば、仙台育英バッテリーであり、投手陣を束ねる尾形 樹人捕手(3年)の力量の高さが光った試合だった。

 先発は、今年から好調をキープする左腕・仁田 陽翔投手(3年)。しかし雨の影響で、マウンドがぬかるみ、うまく対応ができず、1.1回を投げ、わずか32球で降板。早い降板で仙台育英にとっては痛い降板と思われたが、「想定内だった」と尾形は語る。

 「春先の練習試合では、すごく良かったと思うんですけど、球が荒れやすい投手なので、制球が乱れて降板するケースは想定していました」

 仁田が春の練習試合のように理想通り投げられる試合運びが「プランA」だとすれば、仁田が早々と崩れて、降板してリリーフにつなげるのが「プランB」。仙台育英の継投の状況からして、焦りは全くないように見られた。

 2番手で登板したエースの高橋 煌稀投手(3年)は安定感抜群の投球で、強打の慶應義塾打線を翻弄する。

 尾形は「春の練習試合ではまだまだでしたが、ここ一番でしっかりと仕上げてくれました。やはりストレートの勢いは良かったですし、高橋とは全国で勝つには変化球をもっと磨いていかないといけない、速度をつけていかないと話していたので、それがうまくできたかなと思います」

 120キロ後半のスライダー、110キロ台のチェンジアップ、カーブで慶應義塾相手に勝負した。尾形は変化球で交わしたというが、ここ一番では直球勝負で空振り三振を奪う投球もあった。

 その投球については「これは相性やその時に、どちらを投げたほうが打ち取れる可能性が高いのか考えた結果、ストレート勝負ですね。高橋の場合、ストレートが非常に良い投手ですので、変化球を磨きつつも、ストレートで勝負することは選択肢にありました」と振り返った。

 持ち味を引き出すにも、尾形のある工夫がある。実は投げる投手によって、構える位置を工夫している。高橋でも、仁田でも構え方が違っている。
 「投げミスを少なくすることです。ベンチ入りしている投手5人が全員良い投手ですので、投げミスを少なくすることが好投、勝ちにつながるので、タイプに応じてやっています」

 仁田は尾形はとても投げやすい捕手だという。
 「他の投手はもっとコースを意識していると思いますが、自分の場合、アバウトな感じで構えていますので、腕が振りやすいですし、力のあるストレートを投げています」

 尾形は「きちっとコースを意識させるのではなく、球威のある球を投げてもらえるように意識しています」と語る。

 こういった細やかな工夫を行ったキャッチングや、相手チーム、バッテリーを組む投手の持ち味を引き出す最善なリードを最後まで途切れることなくやってのけた。

 慶應義塾の大応援もあったが、「それでも自分たちのホームという意識で試合ができていましたし、タイブレークも想定内で、こうした試合スコアも想定内でした」と語るように、接戦も想定した準備ができていたからこそ、勝利できたかもしれない。

 須江監督は「初戦は本当に難しくて、どうしても拮抗した勝負になるんです。だから用心深く準備したからこそ勝たせて頂いたと思います」と勝因を語った。

 レベルの高い5投手がいて、その持ち味を引き出す絶対的な捕手がいる。また、昨年、甲子園優勝、東北大会優勝、神宮大会ベスト4と苦しい試合を勝ちきった経験値がしっかりと血肉にできているからこそ冷静な試合運びができる。優勝を狙えるチームということを示した試合だった。

(取材=河嶋 宗一