選手名鑑

寸評
春夏連覇を成し遂げた藤浪 晋太郎。彼の何がすごいかといえば、2年夏から3年春にかけて故障もなく、着実に成長を見せていたということだ。選抜ではちょっと脆さを伺える内容を見せていたが、選手権の彼の投球は敵なしの投球であった。今年の選手権は大会2位の56本塁打を飛び出すなど、投手受難の大会。その中で、藤浪は防御率0.50、奪三振率12.25、被安打率3.50と文句付けようがない成績を残したのだ。そして計4球団の競合の末、甲子園を本拠地とする阪神タイガースに入団した。プロ入りしてからの可能性を考えていきたい。
(投球内容)
ストレート 常時145キロ~150キロ 最速153キロ
彼の最大のセールスポイントは平均球速の高さであろう。まだ寒さが残る選抜で常時145キロ~150キロを計測し、夏ではコンスタントに150キロ台を計測していた。ただ彼のストレートは狙って空振りが奪えるようなものではなかったのだが、夏では高校生レベルでは狙いに行って空振りが取れるまでのストレートに変貌。プロレベルで空振りが奪えるストレートになれるかは分からないが、押し込んで詰まらせる程の威力は十分に備わっているだろう。近年、プロ入りした高校生右腕(ドラフト上位クラス)と比較しても、早い段階で、一軍で使われるだけの速度、威力は備わっているだろう。そして内外角にピタっと投げ続け、特にアウトコースのストレートが格段に良くなった。197センチの長身投手にしては実戦的な投手で、大谷 翔平より安定感がある投手であることは間違いない。
ただ彼はゾーンを広く使って投げる投手なので、プロの狭いコースに対応できるか。どちらかというと彼は出し入れするほどの制球力があるかというとそうでもなく、ストライクゾーンで勝負する投手。威力があるから高校生レベルで抑えることはできているが、対応力が上がるプロの舞台。そう簡単にはねじ伏せる事はできないが、ただボールの出し入れ、制球力が今よりも格段
変化球はスライダー、フォーク、カーブ、カットボールと球種が実に多くなった。曲がりの大きいスライダーと球速の速いカットボール(140キロ台)は右打者の外角、左打者の内角に使い、追い込んでからストレートは右打者の場合、外角ギリギリ。左打者の場合はやや高めのストレートで空振りを狙う配球だ。縦スライダー、フォークで空振りを狙う。基本的には縦横のスライダーの配球で、微妙な変化をつけることはしない。彼はあくまで長い腕から繰り出す150台の直球、曲がりの大きいスライダーで勝負する投手だろう。野球に対する取り組み、意識の高さは数多くのダルビッシュ 有と言われる投手の中では一番だが、ダルビッシュ 有とは異なるパワーピッチャーになっていきそうだ。
(投球フォーム)
ワインドアップから始動し、左足を真っすぐ引きあげて、軸足はしっかりと体重を乗せる事が出来ており、足上げのバランスは良いだろう。滑らかな体重移動が出来る要因となる。
今まで彼は強烈なインステップをしていたが、オフの間で徹底的に矯正したのか。踏み込む際に前傾していた動きを止めて、前足を地面に向かって伸ばしていき、インステップはせず、真っすぐ踏み込むようになった。それにより膝への負担は少なくなり、シュート回転も減ってきた。左腕のグラブを斜めに伸ばして開きを抑えようとしているが、出所がそれでも見やすいのか、振り抜かれることが多い。また以前は腰の横回転が顕著で、それによって体が開くことが多くなった。それによってどうなったかというと胸をしっかり張れずにリリースポイントが安定せずにコントロールが乱れてしまっていること。彼がコントロールを乱す時はそのパターンが多い。選手権時はしっかりと胸が張れた状態となっている。
テークバックは内旋していき、肘を上げていき、リリース。以前よりも腕の振りが鋭くなり、さらに彼は打者よりのポイントで放つ事ができるのが最大の長所。指先にしっかりと力を伝えて破壊力のあるストレートを投げることができているのだ。最後のフィニッシュでも最後まで腕が絡んでおり、体重移動もインステップが緩和されたので、前足に体重が乗ったフォームに変貌した。
非常に癖のあった2年次の投球フォームと比べると体重移動、肘の使い方、リリースなどすべてにおいて向上が見られていた。大谷 翔平のような綺麗さではないが、腕を鋭く振って破壊力あるストレートを投げるフォームとしてはできている投球フォームではないだろうか。マックス150キロを何度も計測したのは肉体的な成長だけではなく、フォームも昨年より進化を見せたからだ。
将来の可能性
彼はどれほどの素材であるかというと、100勝前後を狙えるような逸材であるということ。2005年以来、優勝から遠ざかり、そして今年は5位に終わり、金本知憲、城島健司といったビッグなスターが引退し、阪神タイガースは世代交代が待ったとなし。2010年~2020年代の阪神タイガースの屋台骨を担う豪腕を獲得出来たのは非常に大きいし、間違いなく転機となる年だろう。彼を育てなければならないと危機感を感じているはず。
個人的にはそれほど心配する投手ではないかなと思っている。なぜなら彼は1年1年ごとに成長していった成長力があるから。成長するために自分の課題をしっかりと受け止めて、焦らずに取り組んできた藤浪ならば、球団がよほどの酷使をしない限り、大きな怪我をすることなく伸びていきそうだ。
気になる1年目だが、釜田 佳直、武田 翔太のようなパフォーマンスは期待しないほうがいい。彼の能力を卑下しているわけではなく、彼には長期間活躍出来る体力的な土台を築いてほしいからだ。彼の能力ならば1年目から一軍登板し、5勝前後は勝つ能力はあると思っている。150キロ前後のストレートを内外角に投げ分けるコントロール、変化球の切れ味ともに、一軍レベルでもやれるだけのモノは持っているからだ。しかし高卒1年目の大器に負担をかけるような使い方は避けて欲しいところだ。ダルビッシュ 有のように球界のてっぺんまで上りつめることができるか大きく注目していきたい。
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