井上 真伊人選手 (加古川北)

井上 真伊人

球歴:加古川北

都道府県:兵庫

ポジション:投手

投打:右 / 右

身長:178.0 cm

体重:71.0 kg

学年:卒業

寸評

 まるで10年プロで飯を食ってきたような、人を食った投球で相手を翻弄する 井上 真伊人秋季近畿大会で、大阪桐蔭などの強豪校を次々と打ち破ってきた快投を、甲子園でも再現して魅せた。力みのないその投球から、相手を手玉に取る投球術について、今回は考えてみたい。 (投球内容)  この投手の素晴らしいのは、投げる時に余計な力みが感じられないところ。そのため相手打者が力を入れて振りに来ても、ふわふわと交わされてしまうのだ。そういった相手打者の心理を読み取る天性のセンスが、この投手には備わっている。繰り出される球自体は、130キロ台~140キロも出るか出ないと行った程度で、驚くような球威・球速もなければ、別段球がとくにキレるわけでもない。90キロ台のスローカーブ、カットボール・スライダー・チェンジアップ・フォークのような沈む球など、実に多彩な変化球を組み合わせて、相手打者に的を絞らせない。ストレートも状況に応じて、力の入れ加減を変えて使い分ける。その豊富なバリエーションと、相手の呼吸や打ち気を見計らって投げる天性の投球術が、この投手の真骨頂。  もう一つこの投手の興味深いのが、それほど細かい制球力があるわけではないと言うこと。新チーム結成以来の169イニングで、四死球は69個。通常投球回数の1/3以下ぐらいに抑えるのが、制球力の善し悪しの基準となる。そういった意味では、極めて制球に優れているわけではないことがわかる。この傾向は選抜でも変わらず、緒戦の金沢高校戦でも9回を投げて4四死球しながらも完封して魅せた。これは何を意味しているのか?と言えば、無理して打たれるぐらいならば四球を出しても構わない。ようは、ランナーをホームに返さなければと言う割り切りができており、そうさせない自信が自分自身あるからではないのだろうか。自分の投球スタイルと言うものを、常に守って投げることを甲子園でも実践して魅せたのだと私は考える。  こんな完成度が高い投手ならば、課題がないのか?と言われれば、けしてそんなことはない。最大の課題は、左打者への制球がアバウトな点だ。破れた日大三打線は、左打者と右打者が交互に出てくるような、左打者の多い打線。更に疲労から自分の投球が出来なかった時に、持ち味である相手を翻弄するだけの投球術に徹しきれなかったことは、まだまだ並の高校生には通用する投球術でも、レベルの高い相手には誤魔化しきれないレベルでしかないことも露呈された。これは、夏の兵庫予選を勝ち抜くためにも、様々な相手を想定し投げ抜いて行く術とスタミナを磨かないと行けないと言う課題を浮き彫りにさせた。 (投球フォーム)  この投手の投球フォームは、昔の野球選手を彷彿させるような懐かしいフォーム。引き上げた足を高い位置でピンと伸ばせるので、お尻を一塁側に落とせます。これによって、上のレベルでも通用するような見分けの難しいカーブの修得や、縦に鋭く落ちるようなフォークを身につけることが期待できそうです。その変化球を導き出すためには、着地までの粘りも欠かせません。その辺は、可も無し不可も無しといった程度で、それほど粘りは感じられません。そうかといって地面を捉えるのが早すぎることがないので、一通りの変化球も投げられるけど、これといった武器になるほどの絶対的な球種を身につけられないのも、そのことが一つの要因ではないかと考えられます。  グラブは、それほど最後までしっかり抱えられていませんので、右打者への両サイドへの投げ訳はできるのですが、左打者への制球はアバウトになる傾向が見られます。ただ一見手投げのように見える投球フォームも、足の甲の押しつけはできているので、ボールを低めに集めることができます。何より指先にボールを伝えられる「球持ち」の良さがあるので、大きく制球を乱すことはなさそうです。  実戦的な投球フォームを司る投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」と言う観点で観るのならば「球持ち」に優れています。そのため「粘っこい」投球ができる特徴があります。「着地」と「開き」に関しては、平均的であり、今後更に高めて行くことが求められますが、大きな欠点とは言えません。ただ「体重移動」に関しては、重心が前に乗らないので、体重がグッとボールに乗り移るような勢いが感じられません。また腕の振りも、投げ終わったあとに身体に絡みつくような鋭さがないので、どうしてもフォーム全体に躍動感が感じられません。力みがないのが大きな特徴でもある一方で、そういった怖さ・迫力に関しては、完全に最初から捨てていると言う考えのもと投げているのかもしれません。ただもう少し、身体の動きにキレがあってもいいのかな?と言う印象は受けますし、もっと鋭く腕を振らないと、球種が事前に見破られる危険性も感じます。
更新日時:2011.04.09

将来の可能性

 相手の打ち気をそらす洞察力や危険回避能力は、今大会でも随一の存在だと思います。この投球術は、今後の彼の野球人生において、大いなる武器となって彼を助けて行くことでしょう。ただその老獪なピッチング故に、相手打者からは怖さが感じられない、味方首脳陣からはアピール度に欠ける危険性も否定できません。そういった意味では一期一会ではないのですが、スカウトのように極限られた観戦で選手を評価しないといけない人達からは評価され難いタイプではないのでしょうか。一つ一つ実績をコツコツと積み重ねて行くことで、周りの評価を上げて行くタイプだと思います。そういった意味では、典型的な大学や社会人タイプの投手ではないのでしょうか。レベルも上がるなかで、文句なしの実績を重ねることで認められて行く。それを大学や社会人でも続けて行くことができるのであれば、そのときがプロ入りの機会だと考えられます。少し長い目で、見守って行きたい投手でした。
更新日時:2011.04.09

寸評

関西学院報徳学園大阪桐蔭と並み居る強豪を打ち破ってきた右腕。キレのあるストレートと抜き球を自在に投げ分けられるクレバーさが売りで、相手の心理を見透かして投球スタイルを変える上手さは社会人の投手と思わせるほどの老練さがあった。甲子園でも2試合連続完封を記録。多くの高校野球ファンの記憶に残る投手になったのは間違いないだろう。
(投球スタイル)
右スリークォーターから投げ込む直球は130キロ~140キロを計測。ストレートは打者に応じて強弱をつけている。普段は130キロ弱だが、要所では140キロ近いストレートで投げて打者を翻弄する。キレ自体は普通だが、打者の心理を見透かした上で130キロ後半の速球を投げるので、打者としてはかなり打ち辛さを感じる。変化球は125キロ前後のスライダー、90キロ前後のカーブ、120キロ前後のチェンジアップ、120キロ前後のシンカーを投げる。特に際立った変化球はないが、ほぼストレートと同じ腕の振りで投げるために判別がつきづらい。
彼は90キロ台のカーブが武器だが、その情報をうまく活用し、スライダー、チェンジアップ中心の投球で打たせて取る投球も展開。緒戦の金沢戦ではスローカーブを1球しか投げずにスライダー、チェンジアップもベースの四隅に投げ分け、終盤になって140キロを超える速球で金沢打線を翻弄し、完封。波佐見戦では序盤はカーブを多めにし、それ以降はストレート、スライダー、チェンジアップを投げ分け投球をして完封。高めの釣り球で空振り三振を奪っていた。準々決勝日大三戦ではそれまで通用していた緩急をつけた投球とインコースを攻めていた強気な投球。井上が自信にしていた投球を日大三打線がもろとも打ち崩した。一段階対応力と工夫が出来る打線になると通用しない傾向がある。こういった打線に通用するためにも段階を追って自身の投球を磨くべきだろう。
(クイックタイム・フィールディング)
クイックタイムは1.1秒~1.2秒台と素早いクイックは出来ており、基準タイムに達している。クイックになっても投球のクオリティは落ちずに淡々と投球が出来ている。牽制については目配りができているものの、まだ警戒が薄く、決して走りにくい投手ではない。まだまだランナーを置いてからの技術を磨く必要はある。
(投球フォーム)
セットポジションから入る。左足を真っ直ぐ上げて右足はしっかりと立つ。左足をショート方向へ伸ばしていき、ゆったりと着地する。左腕のグラブを真っ直ぐ伸ばして引き込んでいくが、引き込みが早く、体の開きが早いタイプ。テークバックは小さく取っていき、しっかりとトップに入ることができている。真っ直ぐ打者と正対させてしまうが、テークバックは入りすぎることはないので、投げる腕の使い方は良いと考える。リリースは打者寄りで離すことができている。ややギクシャクした投球フォームのように思えるが、四隅に使い分けた投球が出来ているのは優れた指先感覚と体の使い方ができているのではないだろうか。若さを感じないが、彼らしさを出した投球フォームだ。
更新日時:2011.04.01

将来の可能性

「打てそうで打てない投手」を追究した投手。2試合連続完封は彼が追究する投球を体現できたものだろう。 投手優位な選抜でも2試合連続完封することは難しい。それだけ二回戦までの彼の投球は素晴らしかった。 今後は対応力が格段に高まる上のステージで通用するためには何を習得するかを考え、段階を踏んで鍛えてほしい。高卒プロタイプではないが、大学・社会人で渋く活躍していけるタイプではないだろうか。
更新日時:2011.04.01

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