伊藤 拓郎選手 (帝京)

伊藤 拓郎

球歴:帝京

都道府県:東京

ポジション:投手

投打:右 / 右

身長:185.0 cm

体重:82.0 kg

学年:卒業

寸評

 1年夏に高校1年生最速の148キロをマークした伊藤 拓郎。高校生離れした速球には早くも怪物登場という見出しが飛びかかった。順調に伸びていけばどんな投手になっていくのか……。新たな剛腕投手の登場に胸躍るものがあった。しかしスピードを意識しすぎてフォームを崩し、スピード、コントロールも悪化させ、公式戦に登板しても全く投球にならない日々が続いた。もがき苦しんだ高校生活。その中で彼は自分の合うフォームを見出し、往年のストレートの勢い、キレ、コントロールを取り戻し、変化球のコントロールも磨き、実戦を意識できる投手に変わった。スピードという麻薬に取り憑かれそうになりながらも最後の夏で復調の兆しを見せた伊藤拓郎のラストサマーを振り返ってみたい。 (投球スタイル) ストレート マックス145キロ 常時140キロ~145キロ スライダー 125キロ前後 縦のスライダー 125キロ前後 マックスで140キロ前後だった速球は常時140キロ前後・マックス145キロ前後を計測するまでに戻った。不調だった昨秋と比べると状態は断然よい。下級生時代のストレートと今のストレートとどちらが良いかといったら今の方が実戦的といえる。スピードだけを求めてきた1年生の頃よりも今のストレートはキレを意識しているように見える。 基本的にストレートとスライダーとのコンビネーション。要所で決まる縦に鋭く落ちるスライダーのキレは悪くないが、頻繁に使うことはなくなり、スライダーでカウントを稼ぎ、決め球としてストレートを使うようになってきている。花巻東戦では確かに荒れ球で独り相撲になっていたかもしれないが、ただストレートと縦のスライダーでねじ伏せていた投球と比べるとメリハリは付いてきていると思う。 (配球) 花巻東戦 ではいきなり独り相撲になってピンチを招いたり、甘く入った球を狙われて痛打。またはパスボールの連発で、進塁を許し、得点を与えるパターンを増やしてしまった。下級生の頃から突発的に調子を悪くすることがあり、その傾向が変わっていかなかったのは残念であった。この試合でストレートと縦のスライダーを軸にストレートで打ち取るパターン。ストレートで空振りを奪うシーンも増えてきたが、花巻東の選手たちがしっかりとストレートに対応してきた。 東東京大会決勝戦では落ち着いた投球をみせていた。右打者にはスライダー、ストレートでカウントを稼いでいきながら最後は力を入れてアウトコースいっぱいに決めていく。左打者にも変化球でカウントを稼いでいきながら、最後はストレートで決める配球。更にはインローにも絶妙にコントロール出来ており、アウトコース一辺倒だった下級生時代とは全く違う。東東京大会の投球からしっかりとベースを意識し、実戦的な投球を見せていた。 あとマウンド上の伊藤は2年に比べて感情の起伏が大きくなり、ガッツポーズを上げることが多くなった。気合が入っているように見えるが、気持ちのブレが大きく、静かに燃えたほうが良い。 (クイック・フィールディング) 親善試合で計測した1.3秒~1.4秒から1.1秒~1.2秒台へ改善。昨年見た限りではフィールディングの動き自体は良いと評価したが、今年も動きは良かった。牽制もしっかり入れるし、余裕がある時はランナーをしっかりと見られているし、セットになってからの安定感は格段に良くなった。ただ追い込まれていくと自分の世界に入ってしまい、全くランナーに目もくれていない。技術はあるものの、意識で無駄にしている。 (投球フォーム) ノーワインドアップから入り、左足を真っ直ぐ上げる。右足はしっかりと立つことができており、バランスは悪くない。少し足を上げるまで間を持たせる意識は出てきたように感じる。左足をショート方向へ伸ばしていきながら腰を沈めていき、溜めを意識し、捻転動作を維持しているように見えるが、解けるのが早く、インステップしている。 左腕のグラブを真っすぐ伸ばして正対させていくが、開きが早く、打者から見易い形となっている。テークバックはコンパクトに取っていくが、トップに入るまでの回旋がスムーズではないのは気になるが、右ひじが下がることなく、小さいため負担は少ないそうだ。腕の振りが遠ざかった腕の振りを改善し、だいぶ肘を使い、前で離す意識は出てきた。 気になった点はテークバックからリリースに入るまでの間に完全に軸足が離れてしまっている。蹴り上げのタイミングが早く、上体が浮いた状態から投げていることだ。なぜ彼がこの軸足の使い方は定かではないが、この軸足の使い方はプロのコーチから見て矯正が入りそうだ。そして最後のフィニッシュ。実に躍動感あふれるフィニッシュ。3年春までぎくしゃくさを感じたフィニッシュと比べると、股関節を意識し、踏み込み足にしっかりと体重が乗り、スムーズに体重移動が出来るようになり、力強く腕を振り切っている。それによってしっかりと力が伝わったストレートが増えてきた。 細かく見ていくと突っ込むと浮いてしまう軸足、開きの早さ、調子が悪くなると右腕を担ぐ使い方。悪癖がすぐに出やすい投手だが、取り組んだ成果が少しずつ実を結び良くなっているのは確かだ。特にぎくしゃくさを感じたフィニッシュ。これが良くなったことで腕の振りは力強くなり、しっかりと力が伝わるようになったのは収穫だ。
更新日時:2011.08.31

将来の可能性

 6月の時点で即プロは厳しく大学経由が妥当であると思っていた。ちょっと立て直しに時間がかかり、プロに指名されるとしても育成枠が妥当。それぐらい状態が悪かった。 今までのパターンを踏まえると夏も低空飛行のまま終わってしまうのではないかと思っていたほどである。だがこの夏は私の予想以上を上回る投球を見せてくれた。今までの彼にはないベースを使った投球が出来るようになり、フォームも改善が見られた。スケールにモノを言わせていた投手が“普通”の投手になってしまったのは物足りないかもしれないが、だいぶ投手らしくなった。だが不安要素である立ち上がりにリズムを崩すと独り相撲になり、悪癖が出ると一気にコントロール悪くなる点は変わりない。これは大学に進むにしろ、プロに進むにしろ、解消するには時間がかかると思うが、自分の未熟さをダイレクトで分からせるにはプロの舞台だ。スピードの麻薬に取り憑かれそうになった男が少しずつ投球を覚えて脱皮しようとする意識が見られたのを考えれば、プロの指導に託したほうが良いと考えた。大学に進んで高卒プロよりも成長が見られるかといったら疑問を感じるので、高卒プロタイプと評価する。とはいえ順位は下位指名評価が妥当だ。  1年夏に怪物といわれ俄然と注目を浴びるようになった伊藤拓郎。周囲の期待に応えられず苛立たせる日々もあったと思うが、まずはここまで立て直したことを評価したい。プロの舞台で名投手、エースといった称号を手にするのは受け身の姿勢ではなく、自ら掴みに行くものが手にすることができる。伊藤拓郎にはその心意気を持ってプロの舞台で邁進していくことを期待したい。
更新日時:2011.08.31

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