大垣日大vs東北
畑和来(大垣日大)
試合前、大垣日大の阪口慶三監督は、
「これぞ高校野球の真髄。魂と魂がぶつかりあうような、すばらしい試合をしたい」と決意を述べていた。それを伝え聞いた東北の五十嵐征彦監督は「その通りだと思います」
と受けて立った。
ゲームは大垣日大の1番・畑和来(3年)プレーボール直後の初球をライトスタンドに運ぶ先頭打者アーチで始まった。
いきなりの強振に「想像していなかった」と話すのは東北の捕手・吉川心平(3年)。
エースで主将の上村健人は「いい球だと思ったのですが・・・」と唖然とした。
だが、試合に臨んでいた選手はこれでスッキリしたのではないだろうか。
上村の全力投球を、畑は迷うことなく振り切った。これこそが『魂と魂のぶつかりあい』だろう。
その後、初回に計5点を上げた大垣日大。終わってみればこの5点で試合の大勢は決まってしまったが、そんなことはどうでもよいように見えてきた。
勝負だから結果はつくのだが、この2チームの死力を尽くした戦いは、一つの作品だと言える。最後まで全力疾走全力プレーで精いっぱいの力を出した両校に、一杯に埋まった東北のアルプスを含め、27000人の観衆から割れんばかりの拍手が起こった。
インタビュー台に立った五十嵐監督の目を真っ赤にして、
「自分たちができることを、全力で選手たちがやりきってくれた。終了まで食らいつく気持ちは出せた」
と感極まった。
一方の阪口監督は、
「東北はすごい魂でぶつかってきた」
とこの試合を戦えたことに感謝の弁を述べた。
異常な多さとなった報道陣が試合後も各選手を取り囲むが、全ての選手に涙はなく、充実した表情をしていた。それだけでこの大会、この試合を開催した意味はあったと断言する。
試合は終わった。
残念ながら敗れた東北は、29日に地元へ向けて出発する。
仙台に戻ると、また現実がまっている。ニュース映像は、少し笑顔になった被災者の方々が映し出されていた。
我妻敏部長は、学校が再開されるのは4月中旬ごろになると話した。
ただ、同じ宮城県内や東北地方には未だ学校が再開できる見通しが立たない所も多いと聞く。
高校野球に携わる以上、この甲子園での経験を東北地方の高校野球の仲間に伝えていかないといけないと我妻部長は決意を述べる。
上村主将は「帰ったら、またできることから始めたい」と静かな口調で話してくれた。
我妻部長がこの18日間で、もっとも逞しくなったと挙げるのがこの上村。
新入生が入部する4月以降も上村主将を中心にした3年生ならまとめていけると信じている。
クールダウンを終えた選手がインタビュールームから出てきた。
先に歩を進める大垣日大の選手は「ありがとうございました」と頭を下げた。
五十嵐監督は「がんばれよ」と大きな声をかけた。
そして大会スタッフに深々頭を下げて、東北ナインは甲子園を後にした。
最後に数多くの報道陣から辛い質問を何度も受けた選手に一言お礼を申したい。
『取材をさせていただいてありがとうございました。辛い質問をしたかもしれませんが、許して下さい。高校野球を愛する人たちや、報道陣はあなた方の味方です。苦しい時は頼って下さい。そして東北地方や茨城県といった被災地の高校野球仲間とともに、必ず立ち上がって夏を目指して頑張って下さい。』