睡眠中に起こる体の変化
日中に行った反復練習は、睡眠を経て体に「覚え込ませる」ことができる
体を鍛えてパフォーマンスを向上させるためには、練習することだけではなく、食事や睡眠が大切であることは皆さんもご存じのことと思います。特に高校生は学校生活、部活動、遠方からの通学など、忙しい日々を過ごしていることが多く、ついつい就寝時間が遅くなって睡眠不足におちいりがちです。最近では睡眠時間だけではなく寝ている間の「睡眠の質」も問われるようになりました。睡眠はどうして大切なのか、改めて考えてみましょう。
●入眠後に起こるノンレム睡眠がポイント
睡眠には大脳の活動が休息状態に入るノンレム睡眠(深い眠り)と体が休んでいるレム睡眠(浅い眠り)があります。個人差はありますが、入眠直後にノンレム睡眠が約90分続き、その後に短いレム睡眠、そしてノンレム睡眠と交互に繰り返し、翌朝までにそのサイクルを4~5回繰り返すと言われています。入眠直後に起こるノンレム睡眠ではさまざまな体の変化が見られます。
まず一つ目は成長ホルモンが促されること。練習やトレーニングなどによって傷んだ筋肉は、その後修復される段階で適切な栄養と休養によって強く太い筋線維をつくり出します。その効果が大きくなる時期を「超回復」と呼びますが、これには睡眠中に分泌される成長ホルモンが大いに関係しています。成長ホルモンが分泌されると体の中ではタンパク質の合成が進み、傷んだ筋線維の修復と再生を促します。入眠直後のノンレム睡眠時に成長ホルモンが多く分泌されることがわかっています。
そして日中の記憶を整理し、定着させることも活発に行われます。ノンレム睡眠は「脳が休息し、体が起きている状態」ですが、この時間帯に繰り返し練習したフォームや、体が覚えているものを体系立てて整理し、「体に覚え込ませる」ことを行っていると言われています。一方で脳が活動しているレム睡眠中には記憶の整理を行い、事実と感情を切り離す役割を担っています。たとえば試合に負けてしまったという事実と、負けて悔しい気持ちを切り離すため、文字どおり「嫌なことは寝て忘れる」ことにつながります。
●試合後の夜は寝つきにくい?
試合後の体は疲れているにも関わらず、なかなか寝つけない…といった話をよく聞きます。これは試合のプレッシャーや緊張、興奮状態などが続くために就寝時間が近づいても自律神経の一つである交感神経が優位に働いてしまうためです。交感神経をおさえて、リラックスモードとなる副交感神経を働かせるためには、普段よりもぬるめのお湯で入浴する方法があります。暑い時期であれば水風呂など水温を下げて体を冷やすことも効果的です。また頭を直接冷やす水枕や氷枕などを使ってみるのも良いでしょう。部屋では好きな音楽や香りなどを楽しむようにすると、心身のリラックスにつながります。
睡眠には疲労回復を促すだけではなく、体の修復や脳のリフレッシュ、記憶の強化、感情の整理など、野球が上手くなるためにも必要不可欠なものです。こうした睡眠中の体の変化を理解し、睡眠を優先させるような生活習慣を心がけてみてくださいね。
文:西村 典子
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