トレーニングで筋肉を伸ばす
上腕二頭筋を鍛えるアームカールは、同時に拮抗筋である上腕三頭筋を伸ばす。
私たちがある動作を行う時、大きく分けて4つの組織が機能します。
1)脳(命令を出す)
2)神経(命令を伝える)
3)筋肉(命令を受けると収縮する)
4)骨(筋肉が付着しているため、筋収縮によって動かされる)
骨は筋肉によって受動的に動かされるものですが、筋肉は脳からの命令を受けて能動的に働きます。筋肉は収縮(縮むこと)と伸張(伸ばされること)を繰り返しながら力を発揮し、複雑な動きを体現します。トレーニングを行うときにもメインとなる筋肉は収縮し、ギュッと縮まりますが、一方でその裏側にある筋肉は引き伸ばされながらその動きをサポートしています。このメインとなる筋肉のことを主動筋と呼び、その反対側の動きを行う筋肉を拮抗筋(きっこうきん)と呼びます。肩の筋肉である三角筋など、拮抗筋が特定できない筋肉も存在しますが、大半の筋肉には骨や関節をまたいで拮抗筋が存在します。拮抗筋の役割を知っておくと、トレーニングを行うときはもちろん、野球の動作を考える上でも非常に参考になります。
拮抗筋は主動筋が収縮するとき、伸ばされながら力を発揮します。この特性を理解しておくと筋力トレーニングを行いながら、一方で拮抗筋を伸ばし、結果的にストレッチ効果をねらったトレーニングとなることも考えられます。例えば上腕二頭筋のストレッチは皆さんどのように行っていますか。肘を伸ばし、上腕二頭筋をグッと反らせて伸ばしたいところですが、肘の過伸展が気になったり、胸筋ばかりが伸ばされてイマイチ上腕二頭筋にアプローチできない・・・といったこと考えられます。上腕二頭筋のストレッチとして、上腕の後側に位置する上腕三頭筋を鍛えるようなエクササイズを選択すると、上腕三頭筋は主動筋として収縮し、拮抗筋となる上腕三頭筋は受動的に伸ばされることになります。
この他にもざっくりと腹筋群と背筋群、大腿四頭筋とハムストリングス、下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)と前脛骨筋(すねの前部分)など骨をはさんで対極にあるものが「主動筋-拮抗筋」の関係にあるといえるでしょう。背中が張って前屈がやりにくい場合は、腹筋群を収縮させると背中の筋肉が伸ばされますし、太もも前側の張りが気になるときは、太もも後側のハムストリングスを鍛えると前側の筋肉は伸ばされることになります。
トレーニングと聞くと「筋力アップ」がまず頭に思い浮かびますが、同時に拮抗筋には「伸ばされる力」が働くため、時にはストレッチとしてトレーニングを行うという方法もあります。これはあくまでも一つの例に過ぎませんが、トレーニングによっても筋肉を伸ばすことができるということもぜひ理解しておいてくださいね。
文:西村 典子
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