腕のしびれと胸郭出口症候群
腕を上げる動作は鎖骨と肋骨のすき間(胸郭出口)が狭くなり、血管や神経を圧迫することがある
いよいよ本格的なシーズンが近づいてきました。オフシーズンの時にも体づくりと並行しながら実践練習を行っているチームもあると思いますが、これからはボールを握って行う練習が増えてくることと思います。春先によく見られる症状の一つに「キャッチボールや投球動作を行うと腕がしびれてくる」というものがあります。気温が寒いことやウォームアップが不十分な状態でキャッチボールなどを繰り返すと、上腕部のしびれを訴える選手が現れますが、これは腕を挙げる動作を繰り返すために起こると考えられます。運動や仕事などで腕を上げる動作を繰り返す人は鎖骨と肋骨のすき間が狭くなっておこる胸郭出口(きょうかくでぐち)症候群になるリスクが高いと言われています。
胸郭出口症候群とはどんな状態を指すのでしょうか。胸郭(心臓と肺を囲む胸椎、肋骨、胸骨部分)には上端部に「胸郭出口」と呼ばれる血管や神経の通り道が存在します。この胸郭出口はもともと小さな空間ですが、腕を挙げる動作を行うとさらに空間が狭くなってしまいます。これを繰り返しているとすき間の中に存在する血管や神経は圧迫されやすくなります。胸郭についている筋肉も動きが悪くなったり、肩甲骨の動きを安定させる腱板(いわゆる肩のインナーマッスル)が弱くなっていることも原因の一つと考えられます。
こうした症状がみられる場合は、体全体を温めて血流を良くすることを心がけましょう。ウォームアップを十分に行うことはもちろん、練習後や入浴後など体が温まっている状態のときに首から肩、肩甲骨にかけて入念にストレッチを行うようにしましょう。また背中が丸まった姿勢は肩の位置が前方へとシフトし、肩の動きを制限してしまうことがあります。頭の位置が前方に傾いていないか、首が前に出たカメのような姿勢になっていないかといったことを、壁などを使ってチェックしてみることも大切です。さらに必要以上に上肢のウエイトトレーニングを繰り返し、大胸筋や三角筋などが発達したことでスムーズな投球動作が再現できなくなってしまうことも、胸郭出口症候群の一因となることが指摘されています。背中のトレーニングとあわせてバランスよく体を鍛えることもこうした症状を予防することに役立ちます。
文:西村 典子
球児必見の「セルフコンディショニングのススメ」も好評連載中!